第87話:お世話になります
私はコレイさんのその発言で一定の納得を得ました。以前にフレアは言っていたはずです。術式の形成と魔法の維持には魔素が必要と。そうなると、その魔素に何かしらの干渉をすることで魔法を無効化することができる、と考えられます。少し考えれば気づけたような気もしますがなんで気づけなかったのでしょうか。
「はあ」
そんなため息にも似た声がつい漏れてしまいました。それとともに、脳内に他の疑問点も浮かび上がってきます。
「そうなると、私が気づかれないことについてはどうなんですか?」
「ええとね、ルナ様。一応確認したいことがあるのだけれど、周りからの視線を感じなくなったのはいつくらいからかしら?」
「多分、冒険者の方からは最初から。特にこの国に入ってからはそれこそ誰からも視線を感じなくなりましたね」
「あー、ならこっちも多分魔素に関係してるわね」
コレイさんは私の話を聞いて何か合点がいったとばかりにうんうんと頷いています。
「というと?」
「そのためにはまず探知魔法について話をしましょうか」
「探知魔法、ですか?」
そう言ったコレイさんは探知魔法について話し出しました。曰く、探知魔法とは例外的に属性を持たない魔法であり、魔力さえあれば誰でも常時範囲の程度こそあれど癖のように使っているものらしいです。そして、その効果というのが魔素があるかないかを見る、というもののようで。そして、今コレイさんの探知魔法で見えている人はコレイさん以外に一人だけ、みたいです。
「つまり、私は見えていないんですか?」
「ええ、そういうことよ。オストはどう?」
「ああ、俺も探知魔法では見えていないな。しっかり視界に入れてさえしまえば目では見えるんだが、それでもどうしても存在を感じにくいせいで違和感は拭えないな」
なんか今割と衝撃的な事実を知った気がします。なるほど、魔法を使える人は視覚情報だけじゃなくて、探知魔法での情報も利用していると。そのうちの片方に私が映らないとなれば私の事を認識できないことになんとなく納得がいってしまいます。
「私がその探知魔法で見えていないと言ってはいましたが、その見えていないってどういうことなんでしょうか?」
「ええとね、人がいるところには魔素がないの。他に壁とか、物が存在しているような場所には魔素がないわ。だから探知魔法が機能しているの。でも、ルナ様のいる空間には魔素がある。だから見えないのよ」
ここまで話して分かったことは、恐らく魔女の力は魔素を操作できる能力を持っていて、私の体には魔素が浸透している可能性が高そうということですかね。まだ私の体が異常に頑丈で、回復力が高いことについては私が言っていないこともあって分かってはいませんが、かなり今の私の状態についての理解が進んだ感じがします。
「とりあえず、私が魔女として何ができるかは分かったのですが。結局それでも私がどうすべきなのかわかりません。フレアと会うことを目標としても、今の私は失踪している状態なので…」
魔女としての力を推測することは出来ました。しかし、それは現状把握が進んだだけです。結局私がどうすべきかの判断材料にはなりますが、それ以上のものにはなりません。
「んー、とりあえずルナ様がどうするか決めるまでの間、ここにいたらどうだ?」
すると、オストさんからそんな提案をされました。
「あー、ありね。今は子供たちの部屋が空いているし、そこを使えばなんとかなるわね」
私がその提案に若干の戸惑いを覚えていたところで、コレイさんが補足をするように情報を足してきました。確かに二人の提案は非常に魅力的に感じます。けれど、この二人を私の事情に巻き込むのは何か違う気がします。
「いいんですか?そんなことしても?私を匿っているとバレるとどうなるかわかりませんけど…」
「えー?でもここで引き留めておかないとルナ様が後悔するかなー、って思ったからねえ」「俺も同意だな。それに俺たちもルナ様のことが心配なんだ。フレア様の精神的な問題的にもな」
二人は巻き込む気満々のようですが、フレアがどうかしたのでしょうか?若干訝しむような目で見ていたのでしょうか?二人が、あっ、といった感じでアイコンタクトを取って何かを確認しあっていました。
「あー、もしかしてフレア様の事を聞きたいのか?これこそ、後悔するかもしれないぞ?」
「…はい。今のフレアがどうしてるのか気になるので」
私の返答を聞いてオストさんは覚悟を決めたかのような顔でフレアとオストさんたちが最後に出会ったときの状況を話してくれました。そのときのフレアは剣を握って、倒れてしまった、つまり、会いに来てくれたときも同じ状況だと思われるんですよね…。
「私を助けるためにフレアは戦って、傷ついてしまったんですね。あの時になんで私は気づけなかったんでしょうかね。しかも突き放してしまって。何もわからずに、馬鹿みたいじゃないですか」
私のその小さな嘆きは、二人にも聞こえていたようでした。二人は私の言葉の続きを待っているように見えます。
「だから、私はフレアにまた会いたいです。このことを謝るために。まずはそれを目指そうと思います。なので、しばらくお世話になってもいいですか?」
最後の言葉はどうしても二人の様子を伺っているような感じになってしまいました。
「もちろん!目的を果たすまではここにいて構わないわ」
二人を代表してコレイさんが答えてくれました。
「ありがとうございます」
「あら、ルナ様。笑ってくれたわね」
え?私今笑えていたんですか?一体笑顔を作れたのはいつぶりなのでしょうか。孤独感に苛まれてここまで流れてきて、二人に拾ってもらえて。嬉しくて、嬉しくてたまらない。私はここにいるってことがわかって。これで前に進むことができる。
「それじゃあ、一応ルナ様に使ってもらう部屋の確認とかしてくるから少しここで待っててくれ」
オストさんがそう言ってコレイさんを連れ立って部屋を後にしようとしました。
「あの、コレイさん」
「何かしら?」
私はどうしても気になったことがあったのでコレイさんを呼び止めてしまいました。
「ええと、なんで今の私の状態に魔素が関係してることを推測できたんですか?」
「あー、それはね。私って国立魔法学園を主席で卒業してるのよ。で、そのときの卒論の研究テーマが魔素に関することだったの。まあ、本当にたまたま私の得意分野と合致していただけね」
そう言い残して、コレイさんはオストさんの後に続いて出て行きました。そうして私は部屋に取り残されましたが、不思議と孤独感や虚無感などは感じませんでした。フレアと再び顔を合わせたい、その想いは胸の中を温めてくれていたからです。
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