第86話:魔女とは
私がひとしきり泣いて落ち着いたころ、オストさんたちが戻ってきました。
「落ち着いたか?」
「はい、ありがとうございます」
私が笑いかけるとオストさんはいいってことよ、コレイさんは大丈夫よー、と返してくれました。
「しかし、これからルナ様はどうするつもりなんだ?」
「特に決めてない、ですね。フレアに会いたくてもその方法が分かりませんし」
フレアに謝りたい、そう思ったとしても今の私が取れる手段はそう多くありません。下手に王城に行こうものならばいくら今の私の気配が希薄になっていたとしても普通に見つかってエクスマキナ王国に戻されてしまいそうです。そうすると、自由に動けなくなってしまいそうですし。
「あー、まあそうだよなあ。そもそも今のルナ様の状態もよくわかってないしな」
「そうねー、少なくとも魔法を無効化しているっぽいことと、言われないとわからないレベルで気配を感じないくらいしかわからない感じかしら?」
確かにそれも気がかりな点ではあります。魔女になってしまったと言っても、じゃあ実際に魔女になったことによって何が変わったのか、ということまでは私自身でさえわかっていません。
「確かにそれも気になりますね、例えば」
そう言って私は椅子から立つと、二人の後ろまで歩いてみました。
「こうしてみると、どう感じますか?」
「俺たちの目の前で動いてくれたからいるのがわかるが、もし目を閉じている状態で動かれたなら多分どこにいるか分からなくなってただろうな」
どうやら、本当に今の私の気配、というか存在感は相当に薄くなっているようです。今度は目を閉じてもらった状態で動いてみると、完全に私がどこにいるか分からなくなってしまうということがわかりました。
「正直思った以上ですね…」
「そうね、私もちょっとびっくりしてるわ。どうしてここまでルナ様を感じられないのかしら」
ここまで私の存在感が消えてしまっているとなると、この二人が王都の広場で私に気づいたことが奇跡に思えてきます。というか、私にとっては奇跡でしかないと思います。もし、この二人とこうして話していなかったならば、完全に私は自らを押しつぶしてしまっていたでしょう。それに、フレアとまた顔を合わせようとも思わなかったでしょう。
「魔女になったことが原因なのでしょうけどなんでこんな状態になっているのかがさっぱりなんですよね」
「んー、こっちについては手がかりっぽいのはなしか。それなら、次は魔法を無効化しちまうって点についてだな」
そう言うと、オストさんは手の上に術式らしきものを作ったかと思うとそこに炎を生み出しました。
「オストさんの魔法適性は火だったのですね」
「ん?あー、そういえばルナ様の前で見せるのは初めてだったな」
そう言って、オストさんはさあ、触れてみなさいと言わんばかりに手の上の炎を私の目の前に差し出しました。私が熱を、しかし、思ったよりも感じない熱に対して手をかざしてみますが、それだけではその炎は維持されているようでした。
「これだけじゃ変化ないですね…」
さすがにこの火に触れるというのは少し怖いものはありましたが、今の状況の解明のためだと思って覚悟を決めて手をその炎の中に入れようとしました。私の手が魔法の火に触れた瞬間、それを維持する術式のようなものとともにその火は目の前から消えてしまいました。そこに火が存在していた証拠として少しの熱が残るのみでした。
「私が火に触れた瞬間に消えてしまいましたね」
「そうねー。ほんとにパッと消えた感じだったわねえ」
コレイさんがそんな感じに評しているのに対して、オストさんは炎の消えてしまった手を握ったり開いたりしていました。その顔には何か信じられないようなものをみたといった感じの表情が見え隠れしています。
「ほんとに消えてしまうなんてな…」
そんな呟きが私の耳に入ってきました。
「オストさん、どんな感じで消えてしまったのか出来るだけ具体的に言語化できますか?」
「そうだな、なんというか、難しいな。少し待ってくれ」
そう言ってオストさんは腕を組んで考え込んでしまいました。
「ルナ様、私からも所感いいかしら?」
オストさんが悩んでいるうちにコレイさんに話しかけられたので、私はそれに首を縦に振ることで返しました。
「ええとね、オストの維持していた魔法にルナ様が触れた瞬間、その炎にあった魔力が消えて言った感じがあったのよね。ルナ様はそれを感じたかしら?」
「いいえ、感じませんでしたね」
「あー、ルナ様、話してもいいか?」
「はい、お願いします」
「ええとだな。俺の出していた炎にルナ様が触れた瞬間にその魔法の維持が出来なくなったんだ。制御を奪われるというか、そんな感じだったな」
二人の証言を合わせて考えると、私が魔法に触れた瞬間、魔法にあった魔力が霧散して、制御できなくなった、って感じなんですかね?
「私の感覚としては、炎に触れた瞬間、その炎に重なって存在していた術式っぽいものが消えたって感じですかね?魔力とかは特に感じませんでした」
私が二人の意見に付け加えてそう告げると、コレイさんがこう尋ねてきました。
「待って、ルナ様って術式が見えているの?」
「ええと、多分?」
私の答えを聞いてコレイさんは合点がいったというような顔をして、こう告げました。
「私、魔女がどんなことが出来るのかいくつか推測は出来たわ」
「…聞かせてもらってもいいですか?」
コレイさんは私の目をジッと見つめてきました。それは私のことを見失わないようにしているようにも感じました。そして、口を開きました。
「多分、魔女という存在は魔素に干渉することが出来るんだと思うの」
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