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Princesses' Fairytale~魔法と科学の出会いは何を魅せるのか?  作者: 雪色琴葉
第三章:二人の王女と諦観の月と再起の太陽
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第85話:理解者

「ええとだな。色々と尋ねたいことはあるんだが、まず一つ。なんで一人でここまで来たんだ?」


 私はそんなオストさんの詰問してるようにも聞こえる質問に対して黙秘権を行使しました。私はあのままオストさんとコレイさんによって広場から二人の工房へと連れ出されていました。そして、机を挟んで二人の前に座らされています。そこからしばらく二人は考え込んでいた様子でしたが、意を決したような顔をして発されたのがさっきの言葉でした。


「答えたくないなら答えなくてもいいんだが。なんせ真面目そうなルナ様が城を抜け出してこんなところまでいるんだからな。何か事情があるんだろう?」


 一応オストさんは私に気を遣ってはいるっぽいですね。コレイさんも私のことを気遣っていることがその目からわかりました。だからこそ苦しいし、辛くなってくるのを感じてしまう。私に気を遣わなくていいのに、私なんかに。


「そんなことを言っちゃうのね。無理に聞かないようにしようと思っていたけれどやめたわ。しっかり話してもらおうかしら」


 私はどうやら無意識のうちに心の内をさらけ出してしまっていたらしいです。


「…聞かなかったことにしてください。本当に大丈夫ですから」

「んー、そういうことを言う人は大体大丈夫じゃないのよね」


 私の心情を分かってなのか、コレイさんはそう言葉をつないで逃げ場を塞いできました。


「どうしても話さないといけないんですか?」

「こういう悩み事は意外と相談とかしたほうが楽になったりするものよ?」

「そう、なんですかね…」


 コレイさんのその言葉は私の心に確かに響きました。しかし、私のこのどうしようもない心情を口にしたとして、一体どれだけの人間が分かってくれるのでしょうか。


「わかりました。でも、少しだけ考えさせてください」


 私のその声は絞りだしたような微かな声でした。それを聞いた二人は何も言わずに待っていてくれました。しばしの静寂の中、私は頭の中で何があったかと、そこに付随する感情を整理します。そして、まとめ上げたのはいいのですが。


「やっぱり怖いですね」

「ルナ様?」


 …。また私は心の内を口に出していてしまったようです。普段なら隠せているはずのものなのに、それを隠しておくことがうまくできない。いや、もう隠す必要のある場所に行く気なんてないのでどうでもいいのかもしれませんね。


「気にしないでください」

「それでだ、考えはまとまったのか?」

「それ自体はすぐにまとまりました。けれど、今言った通り私は怖いんですよ」

「何がだ?」

「多分、私を理解されないこと、だと思います」

「理解されない、か。なるほどな。とりあえず言ってみたらいいとも思うんだが。まあ、難しいよな」

「でも」

「でも?」


 最後の聞き返しは二つの声が重なって聞こえました。声が震えてしまいそう、不安でしょうがない。けれども、私は言うって決めたんです。なら、前を向いてはっきりと言わないと。


「それでも、話そうと思います。オストさん、コレイさん、私がなんでここにいるのか、どんな気持ちでここまで来てしまったのか。なので、聞いてください。お願いします」


 私のその言葉を聞いて二人は安心したかのような顔をしました。その瞳には成長した子を見守る親のようなものを感じます。


「わかった、ルナ様。最後まで話を聞くぞ」

「私もね。どうしても辛かったら中断してもいいからゆっくり話してね」


 二人の言葉は冷めきってしまった私の心を温めてくれているかのようでした。


「では、話しますね。そうですね、魔女事変の始まりから話しましょうか」


 そこから、魔女事変で私に何があったのか、俗にいう紅の月の惨劇でフレアが助けてくれたことをまず話しました。前半部分については、ただただ痛かったことで記憶の大部分が占められていて話したことがどうしてもあやふやになってしまいました。後半についても、フレアが自らの体を赤く染めながらも助けてくれた、という大枠でしか話すことができませんでした。


 ここまでは、私でも冷静に話せたと思います。内容をあまり覚えていなかったことも影響しているような気もしますが。しかし、ここからが問題でした。魔女事変が終わって、私が魔女という存在になってしまった可能性が高いこと、その結果として魔法を無効化するようになってしまったこと、そして、それがフレアを否定すると思ってフレアを拒絶してそのまま飛び出してしまったこと。それらを話そうとして、感情が私の手を離れて制御できなくなってしまいました。涙は止まることを知らずどうしようもありません。嗚咽だって止まることを知りません。耐えきれずに強く握った両手は少し濡れたスカートに皺を作ってしまっていました。


 そうして、ようやく話し終えていつの間にか下を向いてしまっていた顔を上げると、そこには私と同じように涙を流しているオストさんとコレイさんがいました。


「なんで、二人とも泣いているんですか。泣くのは私だけでいいんですよ」

「いや、大変だったんだなって思ってしまってな」

「ルナ様、かなり苦労されたのね」


 私の話に共感したんですか?私のこの悩みは、私が人の理を外れてしまったことが要因なのに、なんでそれを理解してくれるんですか。しかし、それがどうしても嬉しくて。どうしようもなくて。絶望の淵に沈んで孤独になっていた私を引っ張り上げてくれました。


「うう、ありがとう、ございます」

「そんなこと言わないで頂戴、ルナ様」

「すみません、もう少し、こうさせていてください」


 二人は無言で頷いてそっと離席して一人にしてくれました。私はそれを見送ったあと、机に伏せてしまいました。


 私は勝手に誰にも理解されないと思っていました。誰も私に気づいた様子を見せないことは私のその思い込みを加速させていっていきました。けれど、理解してくれる人がいた。もしかしたらフレアも理解してくれたのかもしれない。


「謝ってもいいのでしょうか?そんな資格が私に…」


 あるのでしょうか。最後の呟きは言葉になることなく、溢れる涙の中へと溶けて消えていってしまいました。


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