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Princesses' Fairytale~魔法と科学の出会いは何を魅せるのか?  作者: 雪色琴葉
第三章:二人の王女と諦観の月と再起の太陽
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第84話:私だけがいない世界で

 王都から外に出た私は、暗闇の中を闇雲に歩き続けました。行く先さえも決めきれず、本当に、ただただ歩き続けました。私の向かう先の闇は、まるで私のこれからを暗示しているようにさえ思えてしまいました。


 といっても、基本的に街道沿いに移動している状態だったりはします。東側の門から出て、そのまま東、つまり、ヘカテリア王国の方へと向かう方向に進んではいるためです。空に浮かぶ星は私の行く先を照らすにはどこか頼りなく見えてしまいます。


 その頼りない星の下で歩いていると、今の私が孤独であることを強く意識させられてしまいます。きっと、私はこれから先もずっと孤独なのでしょう。だって、私は人よりも長い時間を生きる魔女なのですから。もし、あのまま王族として過ごしたとて、年齢をいくつ経てもきっと変わらないであろう外見、そして、私とは正反対に世代交代を重ねていく周りの人々、私は間違いなく取り残されていくでしょう。私のことを記憶して、実際に話せる人は何人いるのでしょうか。もし、私のことを知っている人がいなくなったとしたら、私は過去に縛られ、時間の中に置いて行かれ孤独になってしまうでしょう。


 そして、置いて行ってしまう人には当然フレアも含まれるでしょう。ヘカテリア王国がどこから来たのかは未だに分かっていません。分かってはいませんが、人については恐らく魔法を使えるかどうかの差異こそあれど、寿命などはきっと変わらないのでしょう。つまり如何に規格外な魔法使いであってもフレアもきっと、他の人々と同じように私よりも早く朽ちて行ってしまうのでしょう。


 そんな私ではどうしようもないことを合間合間に考えているうちに、私はいつの間にか過去に来たことのある地、ヘカテリア王国の王都へと着いて、いいえ、着けてしまいました。


「結局、どうするかも決められずに着いてしまいましたね」


 街道を道なりに進むといずれ着くだろうとは感じていましたが、まさか誰にも正体を悟られずにここまで来れるとは思っていませんでした。


 まず、便宜上関所となっている東の砦までのことです。ここまで来るまでに二回太陽が沈むのを見ました。その間、私が眠い、という感情を抱くことはありませんでした。それに、それだけの時間を歩き続けることができてしまいました。この二つは今の私は本来人が必要とする休息が私に不必要だということの証明になっているのでしょう。研究三昧をする余裕があったときならばこれを喜んでいたのでしょうがそんな余裕、特に精神的余裕のない今では全くそんな感情を抱くことはできません。


 それに、もう一つ気になることがありました。それは、あまりにも人からの視線を感じなかったことです。東の砦はさすがに中を通るのはリスクが高いと感じたので付近の森を暗いうちに通ってやり過ごしました。これは、その先、つまりヘカテリア王国領内に入ってからのことです。


 そのことには、ヘカテリア王国領内に入る以前からすれ違う冒険者の視線が私に向いていなかったことから可能性自体には気づいてはいました。けれども、ヘカテリア王国領内に入ってその可能性は確信へと変わっていきました。私がまるでいないように振舞う人々、私は確実にここにいるのに誰も私を認識していない、それを強く意識させられました。


 例えば、私が少し考え込んでしまって人とぶつかってしまったとき。私が反射的に謝罪の言葉を口にした時、相手の方は辺りをキョロキョロと見渡して、視線にはっきりと私が映り込んでやっと私の存在を認識したようでした。ぶつかったにも関わらず、目の前にいるはずの私を探すという動作があまりにもおかしく感じられました。


 他にも色々と私がこの国ではいないもののように扱われている、いいえ、実際には認識すらまともにされていないのでしょう、ことの証明となる実体験は色々とありました。そして、それは今、私がヘカテリオ王国の王都の一番大きな広場のベンチで座っていても誰からも気づかれていない、見られていないことも含まれます。


「どうしましょうか」


 行く当てもなくここまで来てしまって。ここに来てもフレアに会えるなんて限りませんし。何より、あんな捨てるような言葉を綴った置手紙を残したのに、どんな顔をして会えばいいのですか。私がフレアと一緒にいていいわけなんてないんですよ。なのに、どうして、会えるなんて期待をしてしまっているのでしょうか。


「みっともないことを」


 私は自分自身に言い聞かせるようにしてそう言いながら頭を軽く振ってそんな考えを吹き飛ばします。しかし、そう考えたとしても、すぐにそんな淡い期待が湧き上がってきてしまって、そんな私のことが嫌になってきます。


 そんな風に思考をぐるぐると回して自己嫌悪に苛まれていたときでした。私を覆うように影が差してきました。


「まさかと思って来てみたらルナ様じゃないか。なんでこんなところにいるんだ?」

「え?」


 私は驚きの声をあげると共に顔をあげてその声を発した影の主を見てみると、見覚えのある顔が見えました。


「ええと、オストさんとコレイさんですか。気のせいですよ。なので気にしないでください」


 私のその言葉を聞いて私に声をかけてきた二人、オストさんとコレイさんは顔を見合わせました。そして、互いに何か納得したかのように頷き合うと、コレイさんが私の手を掴んできました。


「えっ、あっ、ちょっと」

「今のルナ様をこのままにしておくとまずそうだからこのまま家まで連れて行くわね」


 そう言いながらコレイさんは私を捕まえたまま歩き出してしまいました。オストさんもそれに付き従っています。しかし、心情的に余裕のなかった私は半ば強引にずるずると引っ張られて行ってしまうのでした。


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