第80話:嵐の先で
約4か月ぶりの更新になってしまった・・・
「ワオーーーン!!」
私たちのことを目視したフェンリルが咆哮をあげた。フェンリルは狼型の魔物の頂点に位置づけられた魔物の総称で、その性質は、速度に優れた孤高の狩人。本来は二人で戦う相手ではない。けれど、ここにいるのはこの国でもトップクラスの魔法使い二人、不安要素がないわけでもないけれども、何も問題はない。
「〈エンチャンテッドソード〉」
私が前衛として、剣を構えると、後ろで兄上が後衛として術式を展開したような感じがした。相対するフェンリルはそんな私達を見て、明確に得物として捉えたのが伺える。
一瞬、互いに動きを止めた。そして、次の瞬間、
「〈マルチ・アイス・バレット〉」
兄上の落ち着いた声に続いて、フェンリルに対して幾重もの氷の弾丸が飛来していった。それに続くようにして私も風魔法を起動して、一気にフェンリルに詰め寄る。それに対して、フェンリルは雷の槍を複数生成したかと思うと、それらによって氷の弾丸の大半を破壊した。
それによって、少しの隙ができたと思って、一気に首を狙おうとしたけれども、フェンリルはすぐに立ち直ってその前足で私の剣を受け止めてしまった。
「うお、結構重いねえ。」
私の二本の剣とフェンリルとの間での鍔迫り合いは、正直私の方が力負けしてる。それは少しずつとはいえ、私が押されて、足が地面にめり込んでいってることが証明してる。
「兄上!」
「わかったよ、フレア。〈アース・パイル〉」
私の声で意図を察してくれた兄上が岩の杭をフェンリルの顔面に対して発射した。さすがのフェンリルもそれの直撃はまずいと思ったのか、私への圧力を下げてそれを避けた。そのおかげで私に掛かっていた重みは消えてなくなった。自由になったらどうするのかって?そうだね、追撃だね。軽くなった私は二本の剣を構え直して、丁度身を翻して地面へと舞い戻ったフェンリルの元へと突撃を敢行した。
すると、再度接近してきたのに気づいたフェンリルが天へと吠えた。すると、フェンリルの毛が逆立つのが見えた。いや、フェンリルだけじゃなくてきっと私もだな。髪が少し浮くような感覚を覚えた。
「やっば、〈ドラゴ・マジックバリア〉!」
その皮膚がしびれるような感覚に対して、瞬時に私の今使える中で最強の対魔法防御魔法を展開した。私の魔法が完成した直後、天から閃光が私達目掛けて降り注いだ。
「うーん、なんとか防ぎきれた、ってマジか」
私達を包み込んだ閃光は防御の甲斐もあってなのか、私に衝撃を与えるのみでまともなダメージを与えることはできなかった。ただ、一緒に閃光に包まれたはずのフェンリルの様子の方が問題だった。フェンリルは巻き込まれたはずの閃光によってダメージを食らうどころか、あろうことかその閃光を身に纏っていた。
「これ私への攻撃じゃなくて自己強化の魔法だったってこと?うーん、名づけるなら〈サンダリング・エンチャント〉ってとこかな?」
フェンリルという魔物が雷の魔法を使うことは有名だ。だから、雷の魔法で攻撃してくることは予想していたことではあったけれど、さすがに雷を身に纏う魔法を使うのは予想外だなあ。これで接近戦は大幅にきつくなった?いや、防御魔法に頼ればいける?いや、それとも元から雷に耐えられるのかな?ああ、もう、どうなってるのか解析したい!
そんな私の魔法への飽くなき思考の隙を突いて、フェンリルがすぐさま攻撃を仕掛けてきた。その動きに反応しきれなかったせいでフェンリルの速度がさっきよりも大幅に上がっているのがわかってしまう。私が剣を構えるのがギリギリ間に合って、再び鍔迫り合いになってしまった。
って、やばいな、さっきよりも重い。それに、なんか風が吹いてる?その風からは何故か偶然ではない気がする。いや、これってもしかして。
「兄上、このフェンリル多分特殊個体だよ。おそらく二属性持ち」
「ふむ、雷と、風かな?」
「正解。兄上!出来る限り援護に徹してくれる?」
「うーん、僕の助けはいらない感じ?」
「…危なそうだったら欲しい!けれど、こいつはできれば私が自分自身の力だけで倒し切りたくなっちゃった。だってさ、絶対に面白いじゃん」
私は、ドラゴン戦以来の興奮の最中にいた。単純な強者との戦い、一体いつ振りだろうか。剣を再び握れるようになった喜びと合わせて私の気持ちは昂るばかり。
「そっか、じゃあ満足いくまで頑張って」
兄上のどことなく安心したかのような声に背を押されて、フェンリルへと意識をさらに集中させていく。
さて、問題はこの雷を纏い、風を従える大狼をどう相手取るか、なんだよなあ。ある程度は〈ドラゴ・マジックバリア〉でのごり押しが使えるはず。けれど、巨体そのものでの突撃や、風や雷による衝撃までは抑えきれないのが容易に想像できる。ここまで考えたところで目の前の閃光が動いた。私にかかる圧力がさらに、重く、鋭くなっていく。
「このまま耐えてもさすがにきついかなあ。かといって転進できるかというとちょっと無理そうだなあ」
まあ、この状態でも使える策自体はあるんだけどね。ということで、その策を実行へと移す。
「〈アクア・バレット・フルバースト〉」
まずは、目くらましのために水の弾丸を私の周りに展開した魔法陣から射出。これで一瞬でもフェンリルの動きが鈍ってくれればいいんだけど。と思ったところでフェンリルが若干怯んだのが見えた。同時にずっと掛かっていた圧力が少しだけ弱まる。その一瞬の間隙を突いて、私は剣を前へと押し出し、それと同時に後ろへと飛んだ。
「〈エンチャンテッドソード・オーバードライブ〉」
着地の瞬間、すぐに剣に魔力を込め直した。それと同時に二本の剣にそれぞれ違う属性を纏わせる。右手には炎、そして、左手には氷。
「さらに追加!〈エレメント・バレット・フルバースト〉」
次いで、私の目の前に魔法陣を追加で展開し、各種属性を纏う弾をフェンリル目掛けて放つ。それらの弾のうちの何発かはフェンリルへと命中はした。したけれど、とても効いているとはいえなさそう。炎の弾丸が散っていく様子や雷にぶつかり消えていく弾を見ていると、恐らく、風によるバリアと雷、というよりもそれに付随する魔法的なバリアによってほとんど通っていないっぽい。けれど、このまま撃ち続ける。あくまでも、これらは目くらまし。本命は私の手の中だ。
「ぶっ飛べええええ!〈エア・シュート〉!!」
私は自らの背中に魔法陣を作り、そこから私自身に向かって風の魔法をぶちかました。それは私を猛烈に前へと押し出した。ここまでしないと、雷となった狼にはきっと、届かない。試したわけではないけどそんな確信があった。
風になった私は、一瞬でフェンリルとの距離を詰めた。目くらましの弾丸は、見事に私の姿をこの距離まで隠し通してくれた。いや、気づいていたとしても、きっと反応なんてできない。そのままの勢いで私の炎と氷の剣は風の断層と、雷の装甲を突き破ってフェンリルの体を穿った。
「ちっ、急所ずらされた」
しかし、私の一撃は戦いを終わらせてはくれなかった。ずらされた。反応された。悔しい。思わず、舌打ちが出てしまう。しかし、そんなことを考える余裕をフェンリルは与えてはくれなかった。再度、狼の遠吠え。それが天へと届くや否や、空には雲が現れた。そして、それは瞬く間に嵐となり、フェンリルと私を取り囲んだ。
「マジかあ、面白いじゃん」
私の胸の高まりは止まらない。あまりにも、あまりにもこいつは面白い。特殊個体にもほどがある。あえて名づけるなら嵐狼といったところだろうか。こいつが王都に現れたら間違いなく悪夢の具現化になると思う。けれど、こいつは運が悪い。だって、目の前にいるのがこの私、王国一の魔法使い、フレアニア・フィア・ヘカテリアなのだから!
「ここで死んでもらうよ!フェンリル!」
私は改めて二本の剣を構える。フェンリルが行動をする前に仕留める。そのつもりだ。そのためにも、この嵐を一点集中でぶち抜かないと。いや、待って。きっとこの嵐はフェンリルが魔法で呼び出したもの。なら、もう少しだけ完成まで猶予があるはず。それに、本当に嵐を作り出そうとしているのなら、前に嵐に王都が見舞われたときの経験的にきっと!私はその経験を信じて吹き荒れる風の中全力で上へと飛翔した。
吹き荒れる突風の中、上へ、上へと飛んでいくと、不意に体にかかる圧力が軽くなるのを感じた。あまりにも風が強かったがために、閉じていた目を開くと、眼下には、フェンリルが作り出しているであろう嵐が広がっていた。少しでも動いたり、大きくなってしまえばその外縁が王都へと届いてしまいそうに見える。それは、ある種絶望の光景にも見える。けれど、そこには光明もあった。
「やっぱり、あった」
そこは、フェンリルの真上。その場所には雲が存在していなかった。ここからなら嵐を勢いで突っ切るなんてことしなくても、直接フェンリルを叩ける。
「じゃあ、これで終わらせるよ」
私は、フェンリル、いや、地面へと剣を下にして一気に落ちた。私の体を引っ張ってくれる力が私を加速させてくれる。そうして、地表へと落ちた私は、フェンリルに気づかれることなく接近し、そのままの勢いを保ったまま私の剣はフェンリルの首へと吸い込まれ、そして、思った以上にあっさりとそれを両断した。
でも、余裕なんて一切ない。ここまで落ちるときに私は飛行魔法を使っていない。つまり、このまま行くとそのまま地面とキスをするということで。
「〈エア・クッション〉!〈ドラゴ・マジックエンチャント〉!」
フェンリルの首を両断したところで一瞬冷静になって、大急ぎで衝撃を和らげられそうな魔法を連打しながら飛行魔法を使って地面とのキスの回避を試みた。
その結果、私は地面をボールのようにバウンドすることになった。正直、めちゃくちゃ痛い。やっば、これ動けないな。
「フレア、大丈夫かい?〈リトル・ヒール〉」
でも、そこに兄上がここぞとばかりに回復魔法を使ってくれた。正直私がどんな状態になっているかはわからないけれど、その魔法は私の痛みを和らげてくれた。
「兄上、やったよ、私、戦えたよ」
「うん、僕は見ていたよ。フレアがあのフェンリルと戦っているところを」
「どうだった?」
「さすが、といったところかな」
そう言った兄上は私の頭を撫でてくれた。それは、私に自信を与えてくれた。私はまた、戦えるんだ。そう思わせてくれた。それを実感させてくれた。
「あ、でも戦い方が雑すぎるね。相変わらず。後で母上に報告しておくよ」
「あの、それは勘弁して欲しいかなあ…」
まあ、その一方でなんか戻ったら母上から小言を浴びせられる可能性が高そうだけどね。でも、少なくとも今は、私が成し遂げることができたことに浸っておきたいな。
色々と立て込んでいたり、文章に悩んでいたり、そのあげく他に新しい文体で試しに書いてみたりしてたらこんなことになっていました。なんだかんだで初投稿から1年というね・・・
少しずつ気まぐれにはなるかもしれませんが考えている最後まで更新はするつもりなので評価などの応援お願いします!