第78話:ちょっとした過去のお話
「で、ボクに作ってほしい魔道具は何なの?」
私がリネリネと呼ぶのを止める意思は一切ないと示したせいでしばしガックリしていたリネリネだけど、それを振り払って本題を切り出してきた。その声音に諦めが見えたのは多分気のせいじゃない。
「あ、うん。これが一応設計図なんだけど…。」
そう言って、私は持ってきていた資料をリネリネに手渡した。リネリネはそれを一瞥して、一回それらを机の上に置いた。
「これ絶対内容把握するまでに時間かかるやつだよね。待ってて、二人分のお茶入れるから。あ、あと適当に座っちゃっていいよ。」
リネリネはそう言って、お茶を入れに行った。取り残された私は大人しくソファに座ったんだけど、周りが雑然としててなんか落ち着かない。入り口の近くは一応客間みたいになってる、なってるはずなんだけどどう見ても散らかりまくっている。私も人のこと言えない面はあるんだけど、それでもさすがにひどすぎるでしょ。ということで勝手にある程度物をまとめてしまうことにした。
「お待たせー、ってフレア何してるの。勝手に動かされるとボクが困るんだけどー?」
「いや、さすがに汚すぎるでしょ。どこにそのお茶置くつもりだったのよ」
私の突っ込みに対して、言葉が出なくなってしまったリネリネは少し顔を赤くして私が作ったスペースにお茶を乗せたトレイを置いた。なお、お茶はinビーカーである。気持ち呆れながらもそれに口を付けるとフルーツの香りが口いっぱいに広がった。うん、作った環境がどうしても気になるけど味はかなりいい。
「ボクのお気に入りのフルーツティーだよ?最近久しぶりに手に入れられたんだー。」
そう言って、私の対面に座ってない胸を張るリネリネからはエッヘンとでも言いたそうな感じがにじみ出ている。
「で、読まないの?」
「あ、そうだった。ごめんごめん。あ、読んでる間暇なら適当にここの本とか見ても大丈夫だよ。ボクの私物だから。」
そう言って、リネリネは資料をフルーツティー片手に読み始める。私は待っている間暇だから言われた通り、リネリネの私物各種に手を伸ばした。
なんか見覚えのない奴もいくらか見えるんだよなあ。この子整理とか苦手なのになんで無闇矢鱈とものを増やしちゃうかなあ。と、そんなことを考えながらも興味をそそられたものを読み進めていく。
「フレア、大体確認は終わったよ。」
フルーツティーのおかわりが欲しいかな?と思ったころにリネリネが話しかけてきた。私がしちらに視線を向けると、彼女は自分を抑えられないような感じだった。
「かなりの数の魔道具を作り上げたボクでも初めて見るような魔道具だね。」
「まあ、そうだろうね。最近知り合った友達のくれた、というか作った術式構造の応用が混ざってるから。」
「それって、もしかして前にフレアと一緒にいた銀髪の子のこと?」
「うん、そうだね。」
私のその言葉は少し尻すぼみになってしまっていた。ルナのことを思い出してしまったから。
「とりあえずこの魔道具はボクが責任を持って完成させるよ。」
「それならよかった。ありがとね、リネリネ。」
「これでお願いの話はおしまい?なら少し時間あるかな?」
「うん、今日はこのあとあまりやることないから大丈夫だけど、何用?」
「ボクと顔を合わせていない間にどんなことをしたのかなあって。まあ、大方は知ってるんだけどね。」
私のお願いが終わったかと思ったら、リネリネに何をしていたのか聞かれてしまった。でも、大体知っているなら私に聞く必要、なくない?
「んー、でもフレアの口から聞きたいかなあって。魔女事変の英雄でしょ?」
「そ、それはそうだけど…。」
私からは話したくない、と続けようとしたところで、口に人差し指を塞がれた。
「うん、こっちが悪かった。ごめんね、嫌なこと聞いて。」
「あれ、そんなに顔に出てた?」
「出てたよ?フレアは昔から隠し事できないからねえ。もう少しポーカーフェイスを身につけたらどうかな?」
「…余計なお世話。」
私は手で少し顔を覆いながらそう返した。そんなに顔に出ちゃってるのかあ。
「はあ、しかしねえ。ボクとしては少し嬉しい面もあるんだよ?」
「嬉しいこと?」
「ボク以外に友達が出来たこと、かな?ほら、さっきも話に出したあの銀髪の子。あの子とフレアが一緒にいたところ見た感じは仲よさそうに見えたけど。」
「うん、ルナとは仲いいと思うよ?今ちょっと会えない状況だけど。」
「あー、そういうことか納得した。」
何を納得したのかわからないけど、リネリネは合点がいったという感じにうんうん頷いている。
「なんか疑問に思ってそうだけど気にしなくていいよ。」
いや、気になるんだけど。とりあえず今は置いておこうかな。
「正直ね、ボクなりに少し心配はしてたんだよ?だってフレアって同年代の友達ボクしかいないじゃん。ほら、フレアって身分も王国では最上級だし、それにあの一件で完全に距離置かれじゃったじゃん。」
「あー、今じゃ気にしてないよ。」
あの一件はルナに前に軽ーく話したことと同じこと。
「あのとき、フレアは全属性の魔法を無制限に使いまくったからねえ。試験場を破壊するまではいかなかったけど、それでも試験のときにあそこまでの数、種類、威力の魔法を使える人なんていなかったからねえ。」
「一応補足だけど兄上も同じくらいの時に全属性魔法使えたんだけどね。」
「いや、それは事実だけどさ。フレアとホルン様だとあまりにも実力に差がありすぎたからねえ。ホルン様のは全属性使えはしたけど年齢的にはまあ威力とかは常識の範囲だったみたいだし。でもフレアのはそうじゃなかったと思うよ?」
「…水と土属性についてはリネリネも同レベルじゃなかった?」
「え?気のせい気のせい。」
そうやってリネリネはとぼけているけどリネリネも水と土魔法に関してはあのときの時点で私と同レベルだったんだよね。私の後に試験したせいで霞んでた、というよりかは感覚が麻痺してたけども。結果として、私ほどじゃないけどリネリネも距離を置かれる対象になっちゃってたんだよね。
「まあ、あの辺りは互いに大変だったよねえ。あまり人が近寄ってこないかと思ったら少ししたくらいで言い寄られるようになったり。」
「だね、今も少し私は引きずっちゃってる。」
「それはボクも変わらないよ。そうじゃなかったらここまで引きこもってないよ。」
そう言った私たちの顔には苦笑が浮かんでいた。あそこらへんの出来事は互いに人から距離を置かれる、もしくは置くきっかけになっちゃってるから割と苦い思い出だったりする。
「今となっては少し懐かしいとはいえ、それでも、ね。」
「フレアはボク以外に親しい同年代がいないし、ボクはこうやって引きこもっちゃってる。まあある意味似た者同士ではあるよね。」
「魔法が強すぎるせいで敬遠されたところは同じだからなあ。程度の差はあれど。」
正直、今思うと試験で加減すればよかったというのが本音だけど、後悔先立たずなんだよなあ。あのときの私って、精神的に未熟だったから。
「まあ、辛気臭い話はこれくらいにしとく?」
「うん、そうしよっか。あ、もう少しお茶いるかい?」
「うーん、もらおうかな。魔道具とかでも色々話したいことはあるからね。」
「おっけー。入れてくるからまた少し待っててねー。」
私は、そう言ってパタパタとお茶を取りに行く幼馴染の背中を見送るのだった。
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