第77話:リハビリと悪友
ヘカテリア王国に戻ってきて、私はすぐに動いた。魔法を暴走とかさせずに使えるようにするためには実際に使ってみるしかないと、考えたんだけど。ただ、前みたいに一人でやろうとすると大惨事を引き起こしかねない。だから手伝ってもらうことにした。
「フレアが僕に助けを求めるなんて珍しいね。まあ、久しぶりに兄らしいことができて嬉しいんだけどね。」
そんなことを言うのは一緒に王都の郊外まで来てくれた兄上。母上はエクスマキナ王国での要件関係での外交処理があるらしくてしばらくは無理って言われちゃった。そこで、兄上が来て事情を聞くや否や、じゃあ僕がしばらくそれに付き合おうかな、と言ってくれたんだよね。
「じゃあ、兄上、私が盛大にやらかした時はフォロー、お願いしますね。」
「ああ、わかっているさ。」
兄上の返事を聞くと、持ってきていた杖を前に突き出して、術式を構成するのだった。
魔法の練習の結果は、そこそこだった。少なくとも一人で使う分には魔法の暴走とかそんなことはなさそうだった。近くに人がいたからかもしれないけどそこまではなんともいえない感じ。どちらにしても実戦に移っても問題なさそう。
「フレアの魔法、なんか今までのものと少し違うか?何か違和感があるんだが?」
「そ、そうですかね?私ではわからないんですけど。」
違和感?そう指摘されて、練習していた時の感覚を思い出してみたけれども、心当たりというか、引っかかるようなところが思いつかなかった。
「そうか、まあ気のせいなような気もするから今はいいだろう。」
「まあ、そうですね。本当に何か違いがあったらいつかわかるでしょ。あ、明日は実戦で魔法を使いたいんですけど、大丈夫ですか?」
「明日ならまあ、午後からなら大丈夫だな。大丈夫じゃなくてもフレアのために予定を空けるから安心してほしいね。」
「いや、そこまでは。いや、言っても無駄だったかあ。」
兄上がいつもの過保護を発動しているけど、今回ばかりはありがたいんだよね。出来るだけ早く魔法、そして剣を使えるようにしたいから。ルナがいつ戻ってくるかわからないからできるだけ早く用意したい。
翌日、兄上と合流したあとに魔物との戦いをしていた。
「フレア、少し尻込みしていないか?」
「そうかもしれないです。気持ち、手も震えているような気がするし。」
私は魔法を構成しては投げ、構成しては投げを繰り返して魔物へと攻撃を加えていた。前みたいに暴走するようなことはないけど、どうしても練習のようには使えなかった。実際、一歩間違えると前みたいになりそうで怖い。けれども、乗り越えないと何もかもなくなってしまうような気がするから。がんばらないと。
兄上がある程度前に出て牽制をしてくれていたんだけど、そこらへんのフォローもあってか、久方振りの実戦はどうにかなった。少なくとも魔法を使うことができるようになったということはわかっただけ立派だと思う。これで一歩前進、かな。
そのまま、ノリと勢いで兄上と一緒に周りの魔物を全て倒し切ってしまった。元々あまり多くないところを選んだとはいえ、さすがに全滅させる気はなかったんだけどなあ。まあ、やっちゃったもんは仕方ないけどね。
「あ、フレア。ごめんだけど明日は一日中やることあるから付き合えないんだ。母上もまだ色々とやることがあるみたいだよ。」
「あー、そうなんですか。まあそれなら別のことするだけなんだけど。」
王都への帰路で兄上にそう告げられてしまった。まあ、それならそれで別に行きたいところ、というか会いたい人がいるからいいんだけどね。
「む、そうか。無茶だけはしないでな。まあ、フレアなら大丈夫だと思うが。」
「魔法を使う予定はないから多分大丈夫ですよ?」
いつもの過保護を適当に受け流しながら兄上と並んで今日もまた、王都へと戻っていった。
次の日、私は学院の研究棟のとある一室を訪れていた。理由は、念のための保険をかけるため。はったりかもしれないけどしないよりはましだろうからね。で、その保険の用意のためにこの部屋の主のところを訪れたという訳なんだけど。
「ねえ、リネリネ?いる?」
そう言いながら扉を何回も拳で叩きまくる。前に来たときこれを一分くらい叩いてやっと出てきたけど今回はどうだろうな?とも思ったけど案外すぐに扉が開いた。その先にいたのは私よりも微妙に目線の高い赤髪をツインテールにし、学院のローブの上にさらに気持ち大きい白衣を着た起伏の乏しい少女だった。彼女は私のことを訝しむように空色の眠そうな目で睨みつけてきていた。うん、久しぶりにまともに顔を合わせたけど何も変わってなさそう。
「何?ボクの安眠を妨げないで欲しいんだけど。」
その二重どころじゃなくなっている目で私の方を見るやいなやそんなことをこれまた眠そうな声で言ってきた。
「リネリネ、研究室で寝泊まりしてるの?」
「だって家に帰るのめんどうだし。お父さんに会うと訓練に引っ張り出されるし。」
「ああ、なるほど。」
「それで、フレアはなんの用で?ボクもう少し寝たいんだけど。夜遅くまで実験してたから。」
「ちょっと魔道具関係で手伝ってほしいことがあってね。しっかり報酬も用意はしてるよ。」
そう言うと、彼女は首を振ったかと思うと、私の方を眠そうだった目から一変して、キラキラした目で私の方を見つめてきた。
「フレアの魔道具!?是非とも協力させてくれ!」
そして、さっきのいかにも寝起きですよー、って感じではなく、興味深いおもちゃを見つけたときかのような大きな、それこそ、研究棟に響き渡りそうな声でそう言うとともに、私の手を握ってブンブン振りだした。
「さあさあ、ボクの研究室に入りたまえ。」
そう言って、彼女は扉をもう少し開けて私を中へと招き入れた。
「フレアはここにくるのは久しぶりだね。このボク、リネストス・アーノルドのラボへようこそ、とでも言っておこうか。」
私がここに来たのは、そう言って両手を広げてニヤッと笑ったこの癖が強そうな少女、リネストス・アーノルドに用事があったから。私を魔法の申し子だとすると、彼女はこう言えるだろう。魔道具の申し子、と。そして、彼女は私のちょっとした悪友だったりする。
「あ、それはそれとして、いい加減ボクのことをリネリネと呼ぶのは止めてほしいのだが。」
そんなことを付け加えるように言われたけど、え?止める気はないよ?とだけ答えるとリネリネは諦めたような顔をしてうなだれたのだった。
多分久しぶりに名前付きの新キャラだと思う。出番増えるのはもう少し後ですけどね。
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