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Princesses' Fairytale~魔法と科学の出会いは何を魅せるのか?  作者: 雪色琴葉
第三章:二人の王女と諦観の月と再起の太陽
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第69話:夢も希望も失って

私は、今母上と一緒に馬車に揺られて、エクスマキナ王国へと向かっている。気分としては、正直、ルナに会えることによる喜びだったりよりも、私自身の状態による、憂鬱な気持ちが上に出てきて、隣に座る母上そっちのけで外を見て黄昏れていた。手を握ってくれている母上の体温が私の糸をぎりぎりつなぎとめていた。


 一昨日は盛大にやらかしてしまっていた。私が、魔物に対して放ったのはドラゴン戦の時にも使った〈エレメント・バレット・フルバースト〉だった。ただ、パニックで前後不覚に陥ってしまった私は、制御をろくにせずにそれを使ってしまった。

 当然、魔物を狙うなんてことはせずに全力でばら撒いてしまったから接近してくる全ての魔物を倒し切ることもできず、なんなら流れ弾のせいでさらに魔物が現れる始末だった。

 その新たに現れる魔物、さらには弾幕にろくに当たらずに近くに寄ってくる魔物までいたもんだからパニックはさらに加速して、もうぐっちゃぐちゃだった。

 さらには、その近くに寄ってきた魔物と、最低限使える杖術で殴り合いする羽目になってもうぐちゃぐちゃ。覚えたのは昔のことなのに、不思議と最低限使えたのが不思議なくらいだった。

 そんな感じで、私のパニックが加速していったけれども、それは兄上によって止められた。そのときの私はもうめちゃくちゃで、杖での近接戦闘に加えてパニック状態だったせいで全身傷だらけのボロボロだった。

 どうやら、私が魔法を乱射したのは王都から丸見えだったらしい。私が部屋にいないことに気づいた兄上がそれを見て私を助けに来てくれたらしい。たまに鬱陶しいと思うことのある兄上の行動だけど、この時ばかりは、本当にありがたかった。

 兄上は、私が引っ張り出してしまった魔物を無力化してくれた。


「フレア、戻るぞ。動けるか?」

「はい、一応動けます…。」


 兄上が回復魔法を使いながらそう尋ねてきたのに対して、戦いの邪魔になるからと地面に置いた箒を回収しながらそう答えた。その言葉を証明するように私は箒に跨って空を飛ぼうとしたけれど、制御がうまく行かずにすぐに地面に落ちてしまった。ノイズの走るような感覚だった。


「…歩いて戻ろうか。」

「…はい、兄上。」


 王城に戻った私は、母上に怒られる、なんてこともなかった。ただ、すれ違う侍従や、官僚の人たちに、腫れもののように扱われているような感じがするのが、どことなく嫌だった。


「フレア。」

「…なんですか?」


 魔物と戦っていた時のことを思い出していた私に母上が話しかけてきた。それに、私は、なんだか顔を見るのが怖くて窓の外を見たまま答える。


「貴方が魔法の制御がうまく出来なくなった原因に心当たりはありますか?」


 私の考えていたことを見透かされていたようなことを問われた。


「多分、剣を握れなくなったのと関係、しているとは思います。」

「あのね、フレア。魔法っていうものは術式の構成のときに心の状態がかなり重要なの。例えば、相手を倒したいという気持ちがあれば魔法と精霊が答えてくれるの。でも、あのときの貴方はどうだったの?」

「それは…。」


 あのときの私の感情は、恐怖、怯え、自嘲、とにかく相手を倒したいというものとは全く別のものだった。


「とにかくね、今のフレアはできるだけ魔法も使わない方がいいですよ。ただ貴方のあまりに膨大な魔力によって、周りに甚大な被害をもたらすだけに終わる可能性が高いです。」

「…はい。」


 私の弱さと過ちなのは分かっている。分かっているけれども、それが私の誇っていたものを全て奪い去ってしまったという事実は弱っている気持ちに止めを刺しに来ているようだった。


「ねえ、母上。」

「何ですか、フレア。」

「私から剣と魔法を取ったら何が残りますか?ただ王族であるという身分しか残らないのではないですか…?」


 私はその悲痛な叫びにも似たか細い声で問いかけた。刹那、母上は、私を後ろから抱きしめてきた。


「そんなことはないですよ。今、剣と魔法が少し使えないだけですよ、きっと。いつか必ずまた使えるようになります。なので、安心しなさい。」


 母上は、抱きしめながら、頭を撫でてくれる。頬に涙が伝うのを感じる。


「でも…。」

「それにですよ、はっきりと否定しておきますが、もしそれがないとしても、フレアは王族であるという以前に、私の立派な娘なんですよ。」


 その言葉はきっと私を励まそうとしてくれているんだと思う。実際、それで少しだけ楽になったようにも感じる。けれど、それでも、心に抱えた闇はほとんど変わらない。私なんかが許されていいのかな、という問いかけは、私自身が否定してしまっている。


「ありがとうございます、母上。」


 それでも、私はほとんど上辺だけの気もする感謝の気持ちを伝えた。


「どういたしまして、私達の娘のフレア。」


 その返しには、本来の意味とは別のニュアンスもあるような気がした。


 そのあと、すぐに母上は元の調子に戻ってしまった。私の気持ちは少しだけ晴れた気もするけども、未だに曇ったまま。ルナとの再会でさらに晴れてくれることをどうしようもなく祈ってしまう。そんな感情を胸に、エクスマキナ王国への旅はもう少しだけ続く。


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― 新着の感想 ―
[一言] トラウマかPTSDになっちゃってますね。 ヘカテリア王国と違い人間相手の戦争を経験してきてるエクスマキナ王国なら、こういう症状の患者に対する医療技術や知識が少しでもある、と期待したいところで…
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