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Princesses' Fairytale~魔法と科学の出会いは何を魅せるのか?  作者: 雪色琴葉
第三章:二人の王女と諦観の月と再起の太陽
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第68話:空虚な私

「落ち着きましたか?」

「はい、なんとか。」


 私は、オストのお店で限界を迎えてしまった。そのあとのことは朧げにしか覚えていないけれども、なんだかんだあって王城の私の部屋のベッドまで運ばれたことはわかる。どうやら母上が直接迎えに来ていたらしい。それで、今まで私の近くにいてくれたみたい。


「あんなに何かに怯えて泣いている貴方なんて初めて見ましたよ。」

「母上に怯えたことなら、ありますよ?怖くて。」

「…冗談を言える余裕があるなら大丈夫そうですね。それでは。」


 そう言って母上は私を置いて部屋から出て行ってしまおうとする。私はその手を咄嗟に握ってしまっていた。


「母上、一人にしないでください…。」

「…ごめんなさいね。」


 母上は、私の寝ているベッドの近くの椅子に座り直した。少しの沈黙のあと、母上の方から話し出した。


「あのね、フレア。正直、私は貴方があの戦いで相当なトラウマを抱えてきているとは思っていたの。」

「はい…。」

「でも、私が思っている以上に、貴方の状態は深刻よ。貴方、剣をもう握れないんじゃないかしら?」


 その問いかけは私に明確な事実と絶望を叩きつけてきた。


「大丈夫です、握れますよ!私にとって、剣は魔法と同じくらい、人生に重要なものですから。」


 咄嗟にそう必死に言い返せたのも最初だけで、最後のほうはどうしても自信がなくなって尻すぼみになってしまった。


「では、試してみましょうか?」


 そう言って、母上はテーブルの上に置かれていた三つの見覚えのあるもの―布で覆われたオストから受け取るはずだったはずの二本の剣と一本のレイピア―の中から一つを選び取った。

 母上がそれに被せてあった布を取ると、中からは柄は金色、刃は銀色で構成され、差し色として青と黒がちりばめられた細剣、レイピアが現れた。私がルナに贈るようにと設計した剣。これもまた、渡した設計図とは異なるように見える。


「これを握ってみてください。」


 私は、その柄へと震える手を伸ばした。そして、手が剣に触れた瞬間、私は、あのときの感覚に再び囚われてしまった。思い出すのは、罪の意識。体が拒否反応を示す。

 そして、声にならない悲鳴をあげてそのレイピアを落とすように投げてしまった。これは、ルナのために用意した剣なのに。


「あはは、私何やってるんだろう。ルナのために用意した剣でさえ持てないなんて。」


 これではっきりとしてしまった。私は、今の私には剣を持つことはできない。だって、私がいつも使っているような剣でなくてもこれなんだから。他の形の違う剣、片刃の剣とかでもきっとこうなってしまうだろう、そう確信出来てしまった。


「やっぱりダメだったでしょう?フレア、しばらく休んでいなさい。貴方がやるべき公務もこちらで代理でやっておきます。」


 母上は、私の落とした剣を拾いながらそう言ってくれた。言い方は少し厳しいけれど、その声色からは優しさを感じた。けれどもその優しさは私が欲しかった優しさではなかった。ただただ、涙が流れるだけになってしまった。


 泣き続けて、目が少し痛くなった頃、いつの間にか母上が退出しているのに気づいた。置手紙が枕元に残されていた。


『先ほど入った情報ですが、エクスマキナ王国の方で、ルナモニカ王女が意識を取り戻したとのことです。ただ、会いに行くときは勝手に勝手に行かないようにしてください。今の貴方を一人にはできません。』


 そこには、私にとってかなり嬉しい情報が書いてあった。書いてあったけれども、今の私には素直にそれを喜ぶことは出来なかった。

 今の私を見たらどう思われちゃうかな。ルナの前ではかっこよく、剣と魔法を使える人でありたい。ルナの憧れの魔法使いでいたい。そんな気持ちがあるけれど、今の私にそれが出来るのかな、する権利があるのかな。


 夜になった。少し前に直接母上が食事を持ってきてくれた。ふわふわのパンとシチューの組み合わせだった。その温かさが私の気持ちを少しだけ溶かしてくれたようにも感じた。そのおかげでほんの少しだけ余裕が生まれた。


「少し、外に魔法、使いに行こうかな。」


 今のこの曇った気持ちもきっと魔法を使えば晴れるだろうな。そんなことを思って、私はベッドから出た。

 そして、クローゼットを開けて、中から少しだけ埃を被った杖を取り出した。昔使っていたもの。私はそれの先端に備え付けられた魔石を取り外して、持ち帰っていたドラゴンの魔石の余りをその空いた場所に付けた。これで剣がない分の出力は誤魔化せるはず。そして、近くの箒を手に取ると、杖だけを片手に空へと駆け出した。


 王都近くの森に近い平原まで来た。空は暗くて、月が見えないからか星が奇麗に見える。


「〈ファイア・バレット〉」


 私の声に乗せて炎の弾丸が放たれる。でも普段よりも制御がうまく出来ないや。いや、落ち着けばできるはず。


「〈アクア・バレット〉」


 今度は水の弾丸。こちらもやはり制御がうまくできない。


「〈ウィンド・バレット〉」


 風の弾丸が放たれたが、それは狙いから逸れて森の中へと飛んで行った。すると、森の中から狼の魔物が四匹ほど現れた。恐らく、風に乗せられた魔力に吸い寄せられたんだ。

 やばい、魔物はこちらに気づいて迫ってきている。


「っ!!〈ドラゴ・テンペスト〉!」


 私は咄嗟に、魔法を放っていた。それも、私が使える最大火力級のものを。それは、その魔物だけでなくその先の森まで穿ち、破壊していった。いつもならこんな魔法、魔物の素材を残すために使わないのに。

 でも、そんなことを考えさせるような余裕はなかった。私が破壊した森の中から出てくる、魔物たち。普段ならこれくらいの数なら苦戦することもなく倒せてしまう。でも、今の私には無理だ。真っ先に覚えた感覚は恐怖。それも、ドラゴン戦の時のような、命を削るような戦いの中で感じた高揚感の混じったものではない。ただ、明確に私を罰しようとする意思を持った私を殺した人たちが魔物になって殺しにきた、そんな恐怖。

 いっそのこと、ここで、罰せられた方がいいのかも、そう思って抵抗を諦めそうになる自分がいる。けれども、生物としての本能は私を生かそうとする。


「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 相反した感情を抱いた私は、そんな声を上げてしまう。それに呼応して勝手に吹きあがる魔力。空中に現れる無数の魔法陣。そこから、色とりどりの弾丸が明確に目の前の敵を滅ぼすために放たれた。


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