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Princesses' Fairytale~魔法と科学の出会いは何を魅せるのか?  作者: 雪色琴葉
第三章:二人の王女と諦観の月と再起の太陽
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第67話:結界の決壊

 あの戦いが終わってから一か月が経った。私は自分の国に戻ってきて、またいつもの日常に戻りつつあった。一応、私がいないうちに貯まっていた公務をこなしたりはしたんだけどね。その公務が落ち着いたくらいで、私は母上に呼び出されていた。


「あ、あの、母上。いったい何用で私を呼び出したんですか?」


 呼び出されるときって大概怒られるときだからビクビクしながら聞いてみた。


「今回はそんなに怖がらなくて大丈夫ですよ。ただ、あちらの国で何があったかを聞きたいだけですから。」

「はあ、それなら。」


 私はエクスマキナ王国での戦いで何をしたかを覚えている範囲で伝えた。教会への侵入や国王夫妻救出作戦、前線での戦い。でも、そこらへんから先がうまく思い出せないというか、なんというか。


「それで、ってあれ?なんか思い出せない?なんで?」

「一応、魔女事変の概略はエクスマキナ王国から聞いているので大丈夫ですよ。無理に思い出そうとしなくていいですよ。」


 母上は無理に問いただそうとはしなかった。というか、何があったか知っているなら私に聞く必要なくない?正直母上の前だと結構疲れるからあまり二人きりで話したくないんだけど。

 

「ねえ、フレア。ちょっと試したいことがあるんだけど試してもいいかしら。」

「え?なんですか?魔法の実験台ですか?」

「あ、いいえ。違うわよ。ただ、少し聞いてほしい話があるだけなの。」


 母上の提案は割と碌でもないことが多いんだけど、今回はただ話を聞くだけらしい。あまりにもいつもと違う内容なせいでそれはそれで疑っちゃうけども。


「それくらいなら、まあいいですけど。」

「わかったわ。じゃあ心して聞いてください。」


 そのあと、語られた内容を聞いた私は、どうかしてしまった。視界は歪み、暗くなり、鼓動は早くなる。体は震えるし、呼吸も浅く、早くなる。そんな中で膨れ上がる余りにも大きな不安と罪の意識を押さえつけるために自然に体を抱きかかえてしまう。


「っ!〈サンダリング・パラライズ〉!」


 微かに魔力を感じたかと思うと、私の意識は暗転した。


 次に目を覚ました時、母上の膝の上で寝かされていた。


「ごめんなさいね。試してしまって。」

「試してって、何を、ですか?」

「多分知らない方がいいわ。さっき話したことどこまで覚えていますか?」


 母上は珍しく、どこか焦っているようにみえる。


「何か、締め付けられるような感覚はしましたけれど、ごめんなさい、母上。あまり覚えていないです。」

「いえ、それでいいのよ。」


 そう言って母上は私の頭を撫でてくれた。その声は、焦っていた調子から一転して、久しぶりに感じる、母親として、子の事を心配している声だったように思える。それがどうにも、安心して心地よくて。


 そう撫でられて、しばらくして、今日やりたかったことを思い出した。


「あ、すみません、母上。少しやりたいこと思い出したんでそちらに行ってもいいですか?」

「ええ、大丈夫よ。いってらっしゃい。」


 私、頭に感じていた温もりがなくなるのを少しだけ残念に思いながら立ち上がって部屋を後にした。


***


 フレアが部屋を立ち去ってから、私は少し早計であったと反省せざるを得ませんでした。


 あの子が魔女事変でしたことはそれこそ英雄的行為でしょう。そこでの活躍もこの国にかなり広がってきました。そうなると、これからそこでの話を聞かれることも増えることでしょう。

 しかし、フレア本人は、恐らくその時の記憶に蓋をしています。そこで、その記憶の釜を開けようとした結果があれです。間違いなく、トラウマか、それ以上の心的ストレスがあるでしょう。

 正直、そこに触れようとしただけでああなったのですから対処も相当難しいです。その上、間違いなく、そのことを知らない人は知りたがるでしょう、彼女の英雄譚を。


「このことへの対処は、フレア自身にしかできないでしょう。しかし、母親として、何かできないものでしょうか。」


 その呟きは見えることのない空間の先へと消えていきました。


***


「やっほー、オスト。ついに出来たんだって!?」


 私は母上と別れたあと、その足でオストの鍛冶屋を訪れていた。なんでも、やっと、頼んでいたものがすべて完成したらしいんだよね。


「おう、フレア様用の二本の剣と、ルナ様用のレイピアとそれぞれ出来ているぞ。」


 そう言って、オストは後ろへと下がっていった。少し待っていると、コレイさんを連れて戻ってきた。手には、布に包まれた三つの棒状のもの。


「まずはこれがフレア様用だな。」


 そう言って、テーブルの上に置かれた三つのうちの二つを包んでいた布を取った。中から現れたのは基本的には同じように見えるけども、それぞれで微妙に意匠の異なる二本の剣。それぞれ金銀を主としているけれど、金の剣には青色の意匠、銀の剣には黒色の意匠が見られた。

 剣に術式を刻み込んだり、魔石による外部からの魔力補充を可能にし、そして、ドラゴンの素材を使えるだけ使った、間違いなく、この国にある剣の中ではトップクラスに強いはずの二振り。注文とは少し違う部分もあるけれども、そこらへんはオストがそっちの方が判断として変えたんだろうな。

 この剣は総じて、私が全力で戦うのにも耐えうる力があるだろうし、デザイン面でも、王族である私が持っていても誰も文句を言ってこないような美しいものだと思う。

 けれど、私には何かおぞましいものに見えている。ないはずの赤色が見える。なにかが胃から昇ってくるのを感じてしまう。


「フレア様、どうかしたか?顔色が悪く感じるが。」

「あ、大丈夫だよ、オスト。心配しないで。」

「そ、そうか。じゃあ少しこの二本を振ってみてくれないか?俺の方で少し調整を加えたもんだから設計と少し重量バランスとか変わっているかもしれなくてな。そこらへんの微調整をしたいんだ。」

「うん、分かった。」


 私は二本の剣に手を伸ばし、その柄を取り、いつものように構えようとした。刹那、私は思い出してしまった。人に魔法を撃ったときの感触。剣で人を斬ったときの感触。そして、私は人を、それも、無関係な人を殺したという事実を。

 気づいたときには、私は、吐いてしまっていた。喉が焼かれるような感覚。それと同時に全身に力が抜けて、膝から崩れ落ちてしまう。何も考えられない。頭の中で流れるのは私に殺された人が私を指さしながら、許さない、と言っている光景。


「フレア様、おい!大丈夫か!?コレイ!フレア様を看てやってくれ!俺は衛兵を呼んでくる!あとは城にも行ってくる!」

「分かったわ。フレア様!」


 コレイさんが私の体を支えてくれたように感じる。でも、体の感覚はもうほとんどなくて、宙に浮いているような感覚で。なんで私、許されて、生きているんだろう。


 そこで、今まで何とかこらえていた心の結界は全て決壊した。わたしはもうげんかいだった。


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