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Princesses' Fairytale~魔法と科学の出会いは何を魅せるのか?  作者: 雪色琴葉
第二章:二人の王女と魔女と教会
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第63話:術式記録

 やっちゃった。


 広場に立っているのが私だけになってしまって、最初に出てきた感想はそれだった。今深く考えるとダメになりそうだから思考の範囲外までそれを持ち出しておく。


 とりあえず、押しつぶされちゃう前に、ルナのところに行くか。そう思って広場の真ん中へと歩く。足を一歩出すたびに、水音が聞こえてくる。これも、私が作り出しちゃったものだと考えたくないから、ルナのことを考えて封殺する。


 ルナの近くまで来て、その状態を見てしまうと、やっぱり、冷静ではいられなくなってしまう。全身に出来た見慣れない傷、銃傷に、だいぶましにはなっているが、未だに流れている赤い液体。それでいて、近くに来ても、案の定だけれども、ピクリともルナが動かないというのはあまりにも心臓に悪い。


「ルナ、遅くなってごめんね。」


 私はそう言ってルナを拘束している、ギロチンの固定部分に対して剣で切り付けて、ルナを解放した。そして、重力に従って落ちるルナの体を支える。その体は、ひどく軽く、脆いものに感じられた。


「ごめんね、間に合わなくて。」


 その体を抱きしめながら謝る。それによって自分が汚れることは厭わない。今更だし。頬を流れるものが止まらない。


「…ん、フ、レア?」


 でも、身じろぎとともに、そんな声が聞こえてきた。それは、私に一縷の希望を与えてくれた。ルナが生きている可能性を。なんで生きているかなんて可能性は無視して。


「ルナ、生きているのね。今、助けるから。〈リトル・ヒール〉!」


 私はルナに対して以前も使った回復魔法で、助けようとする。


「なんで、なんで、なんで効かないの。」


 私の魔法は、ほとんど効果がなかった。何度、魔法を使っても、その効果を示してくれない。その事実に泣きそうになりながら、もう泣いているけれど、魔法を魔力の続く限り使い続ける。いくら使っても、効果を示さない。


「私には無理なの?」


 回復する気配があまりにもなくて頭に絶望という感情が過った。それでも、諦めきれなくて、諦めたくなくて。そんなときだった。頭の中に知らない術式が現れた。今までに見たことのない、聞いたことのない、不思議な術式。何故か、使ったら後戻りのできなくなる、そんな気がするもの。でも、私はルナを助けるために迷いなくその術式を口にした。


〈術式記録〉(マジック・アーカイブ)


 瞬間、私の脳は激痛に襲われた。今までに感じたことのないタイプの痛み。無理やり情報を流されているような、そんな感じ。でも、そのおかげなのか、目的のものが見つかった。今まで知らなかった、そして、今私が一番欲しているタイプの魔法。


〈精霊(エレメンタル)()祝福(ブレッシング)〉」


 そして、その魔法の術式を唱える。効果は劇的だった。ルナの傷だらけの体は癒された。傷が塞がれるのはもちろんのこと、その体を痛々しく飾っていた、いくつもの傷跡も消えていった。


「フレア、ありがとうございます。」


 ルナのそんな声が聞こえ、その後、その体は完全にこちらにもたれかかってきた。一瞬、死んじゃったんじゃないかと思ったけれど、それは、規則的に動く背中と、同じく規則的な呼吸音を確認して、それは杞憂だったことがわかった。


「よかった、よかったよお。」


 それで安心したせいなのか、糸が切れたかのように、張りつめていた精神が緩む。あ、もうだめだ、これ。急に体が言うことを聞かなくなって、意識も保てなくなってきた。あー、これはきついなあ、できるだけ早く、回収してもらえることを祈るしかないか。そう思いながら、意識を手放した


***


 その後、王都での戦いは終わり、スペランテ王子は合流したホルン王子とともに広場へと向かっていた。


「これは僕たちの勝ちでいいのかな?」

「ああ、大勢は決した。戦い自体は私達の勝ちだな。」


 そうは言うが、一番の目的について、ルナ王女の救出についてはどうなっているのかはわからない。それを知るために広場へと向かっているのだが。


「正直、僕は間違いなくフレアは盛大にやらかしたとおもっているんだよね。」

「奇遇だな、私もそう思う。」


 そう思う理由はいくつかあった。王都のどこからでも見えた炎の柱。謎の破壊音。そして、今では鳴りを潜めてはいるが、広場からずっと発せられていた殺気のようななにか。ホルン王子はそれがあふれ出た魔力であると気づいてはいるが。


「さて、もうそろそろ広場か。」

「それ、僕に言われてもわからないんだけどねー。」


 目的地の周りは、戦いの前は、民衆が押し寄せていたが、今は、人がほとんどいない。広場を囲うようにある、今でもギリギリ機能しているような岩の壁の向こう側へと着いたら凄惨な現場が見えた。


「うわあ、思ったよりもえげつないことに。」

「うん、これは、ちょっと、やばいね。」


 そう二人の王子が零してしまうのはある意味仕方なかった。フレアが大暴れしたことによって、建物は崩れ、がれきがあたりに散らばり、修道服を来た人間のほとんどが事切れており、その血によって、広場に池ができ、むせかえるように鉄の匂いが漂っていた。その広場の中心には、理由は違えど、今ではともに意識を飛ばしている金と銀の少女。それを空から見ているのは、赤く染まった月であった。


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― 新着の感想 ―
[一言] おぉ、ここでフレアにも何らかの変化が起こるとは。 2人に起きた変化がどのようなものなのか、いずれ明かされる時が楽しみです。
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