第62話:惨劇は彼女のために
今回は少し三人称風で
フレアの振るった剣は、彼女の目の前の建物の上半分を消し去り、その破片は周囲へと吹き飛んでいく。彼女は、魔法で空を駆け、その下で動けなくなっている教皇の目の前に行きこう告げる。
「全部貴方のせいだからね。死んでも仕方ないよね?」
彼女のその声は教皇の顔色を青を通り越して白くした。それも当然。その声を放つ少女は声と同時に、殺気も発していた。正確には、彼女の感情によりあふれ出た制御の一切されていない非常に濃密な―魔力を持たない人間でも感じてしまうレベルの―魔力である。
「あ、でもスペランテ王子にお願いされてたんだった。こいつは生かせって。ほんとは、消してしまいたいんだけど、まあ、さすがにお願いは聞かないとね。」
そこまで言った彼女は、右手に持った剣を掲げた。
「でもね、無傷で、とかは一切言われていないんだよね。」
彼女は手に持った剣で目の前の男性の左腕を消し飛ばした。返り血を浴びようと、全く気にする様子はない。
「これは、今まで貴方がしてたルナへの拷問の分、まあこれくらいじゃ一切足りてないんだけどね?」
それをした彼女は、そう感情の一切を封じた声で告げた。それを聞いた教皇は消し飛ばされた腕を見た後、絶叫した。完全に腰を抜かし、動けなくなってしまっている。それを見て、うるさいなあ、と口にした彼女は、容赦なく、今度は左脚を切り離した。
「こっちは、まあ、私の今までの鬱憤の分かな。まあ、この二回で我慢しとこうかな。じゃあ、そういうことで。〈サンダリング・パラライズ〉」
彼女は、満足はしていないが、そこで、自らの気持ちを封じて、教皇を麻痺させた。あ、そうだ、殺さないようにはしないとだった、そう呟いて軽く回復魔法をかけて、傷だけ塞いだ。それくらいでは失われた腕、脚は戻らない。そのまま、意識を飛ばしてしまった教皇から興味をなくした彼女は、今度は、その様子を見て唖然として動けなくなっている、建物にいた人間、敵を見る。
「こいつらもルナを傷つけた敵、なんだよね。まあこれくらいなら大丈夫か。」
彼女は、まず、同じ建物にいるはずのそれに狙いを付けた。なんでか動けなくなっているけども、関係ない。まず一人目、それで一つの命が消えた。二人目、これで二つ目。彼女は探知魔法で周りの様子を見る。これで場所はわかった。彼女は剣を二本、そのうちの一つの建物に向けた。そこを目掛けて、魔法を放つ。それも、彼女の使える最大出力を。
「〈ドラゴ・インフェルノ〉」
それは、かつての竜が放ったものと同じ炎であった。それは、狙った場所を正確に穿ち、その射線上にあるものを融かし尽くした。その際に、二次被害が当然のように出ているが、今の彼女は感情を吹き飛ばしているが故に、そんなことにまで頭が回っていない。
続けて、別の建物へ。今度は、その建物へと一直線に飛び、中へと突入。そして、そこにいた銃を持っている人間に対して、その勢いのまま剣を振るい、上半身を消し飛ばした。そのあとに、残ったのは、返り血を思いっきり浴びたフレア。顔色を変えずに、むせかえるような鉄の匂いのする部屋から、脱出する。
そこで、目の前で起きたことがあまりにも現実離れした光景に、教会側は自分達の相手が、化け物であるとやっと認識した。彼らはあまりにも濃い死の匂いのなかで、その脅威へと銃を向けた。
「動けるようになっちゃったかあ。これ使えば大丈夫か。〈ドラゴ・マジックエンチャント〉」
しかし、その銃によって放たれた銃弾は、彼女に命中しても、有効打には一切ならなかった。それは、ドラゴンの身を守っていた魔法。フレアの全力の剣でも、ろくにダメージを与えることのできなかった魔法である。当然、それを使った彼女相手には銃弾程度では、傷つけることはできなかった。
「うざったらしいなあ、〈エレメンタル・バレット・フルバースト〉」
彼女のその声に従って、魔法陣が複数顕現する。そして、そこから放たれたのは、色とりどりの弾丸。それらは、探知魔法で把握した、銃を持った人間を確実に奪っていく。慌てたように、建物の下から、追加で教会の人間が相当な人数出てきた。
「今出てきても無駄なのに。出てこなければよかったのに。」
それは、彼女の偽りのない本音である。そう言った彼女は魔法を維持したまま、地上へと剣を向けた。
その後、下に新しく現れた人間は、たった一人の少女によって、その灯をすべて吹き飛ばされた。戦いの舞台となった広場には流れ出た血によって池が出来てしまっていた。そこには麻痺させられていたのもいたが、戦いの余波で、そのほとんどの息の根は止まってしまっている。
そして、その場所に動ける状態で存在しているのは、二人だけ。一人は、広場の中央に在り、銃弾に穿たれ、多くの血を失い、ほぼ死んでいるに等しい、本来は美しいはずの銀の髪はその艶やかさを失い、誰のものかわからない赤黒いもので汚れ、目に生気のない少女。そして、もう一人はこの惨状を作り出した張本人で、美しい金髪が返り血で彩られ、その目、顔からは今の感情、その思いを読み取ることのできない、未だに制御をろくにしていない魔力を漂わせる少女。彼女らは、惨劇の結果できた血の海の中に浮かんでいた。
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