第61話:安堵と激情
「〈サンダリング・パラライズ〉」
私の声に従って、紫電が迸った。それは、地上へ着くとともに広場へと広がり、そこにいた修道服を来た人間に流れていく。これで無力化自体はできたはず。それとほぼ並行で、用意していた魔法を使う。
「〈エア・カッター〉、〈ウィンド・バレット〉、〈アース・ウォール〉」
今ので、三つの魔法がほぼ時差なく放たれた。一つ目はギロチンの刃までの柱を真っ二つにして刃を切り離し、二つ目はその別れた刃を遠くに吹き飛ばした。そして、最後の一つは、広場に周りの民衆が入らないように、建物同士の間に岩の壁を作って広場を囲い込んだ。これで、ルナのとりあえずの安全確保と民衆が暴徒化して広場に突入してくることは防げたと思う。広場を見回してみると、真ん中の刃を取り除かれたギロチンと私の魔法によって麻痺させられた教会の人間しか見えない。
これで広場の安全は確保できたと思う。探知魔法で探ってみても、広場を中心に作った私の空間にはルナと、私が無力化した人しか見えないし。きっと大丈夫かな。
「これで、大丈夫だよね。」
改めて口にして、地上へと降りた。そのときに、ルナに私を見せつけるように隠していた姿を表した。
「フ、レ、ア?」
ルナは私の姿を見て、目を見開いていた。でも、その目には希望なんてものは映っていなくて。よく見ると、ルナの体には形容しがたいレベルの傷が見える。前見た時よりも余りにも痛々しくて、見ていたくない。
「ルナ、助けに来たよ。一緒にここから逃げよ?」
安心させるようにそう優しく語りかける。それと同時に、ルナをその台から助け出そうと、その近くへと向かう。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ。
しかし、その足はその音によって、正確に言うと、それによって起きた事象によって止められてしまった。
広場に面した建物から放たれた無数の銃弾、それらは私達、正確に言うと、ルナを狙われて放たれたものだった。そして、それらに対して、私は、剣で咄嗟に弾いたり、魔法で相殺したりでいくつかは掠ってしまったけれど、対応することができた。でも、動くことのできないルナは、そんなことができず、すべてが命中してしまっていた。足元に、赤黒い、生暖かい液体が流れてくる。
「がっ。」
その声が聞こえて、私はミスを侵してしまっていたことに気づいた。ルナの安全を守ることをおろそかにしていたこと。そして、建物の中に誰もいないと思い込んでいたこと。探知魔法を過信しすぎていた。探知魔法は密閉空間になる場所の中を見ることはできない。完全に密閉空間になっていた建物内が見えていないことに気づいていれば。油断していた?ルナを助けられることに安堵して、警戒が足りなかった?
「どうしましたか?フレア王女?」
私が呆然としていると、私の後ろ、ルナの真正面の建物の窓が割れたところからそんな声が投げかけられた。その声は、二回、聞いたことがあった。
「教皇…。」
「フレア王女?すみませんが、そこをどいて頂けませんか?」
「嫌ですよ。」
「言い換えましょうか、魔女の処刑をするのに、その場所では邪魔なのですよ。それとも、一緒に死ぬ気なんですか?」
「そんな気なんて一切ないに決まってるでしょ。」
「そうですか。まあいいでしょう。どうせ、貴方も後々に隣国の魔女として処刑する予定だったので、それが今になっただけでしょう。」
教皇はそう言うと、手を上げた。そして、それが下ろされると、
再び、銃弾が私達に降り注いだ。全方位から飛んでくるそれは、やはり、私に向かってきているわけではなくて。
「〈サンダリング・カタラクト〉」
一瞬、雷の網を張って弾の軌道を歪め、直撃を避けようとしたけれども、半分くらいしか防ぐことができなかった。私の後ろでは、魔物に対して、矢を打ち込んだのに近い音が聞こえる。
その音は私の中に残っていた何かを吹き飛ばしてしまった。それは何故か、ルナを傷つけた教会への怒りか、それとも、目的を達成していないのにルナを見て、安堵して、油断した私自身に対しての怒りなのか。そんなことはどうでもいい。今重要なのは、目の前の男がルナを躊躇なく奪おうとした、その事実だけだ。
「もう、知らない。」
あとのことはどうでもいいや。ただ、今は、
こいつらを殲滅してから考えよう。
「〈エンチャンテッドソード・オーバードライブ〉」
次の瞬間、振るわれた剣は、教皇のいた建物の上半分を消し飛ばした。