第58話:救うための引き金を
「昨日の騒々しい音やら、爆発音、揺れは航空機とフレア王女の戦闘が原因だったのか…。」
朝起きて、昨夜のことをスペランテ王子に報告したら、なんかこれで合点が行ったといったような返事が帰ってきた。
「あの、勝手に戦ったのはまずかったですかね…?」
休め、と言われていたのに、つい戦ってしまったから、不安に思ってそう尋ねてみる。
「正直、本当に休んでほしかった、というのが個人の感想なのだが、それと同時に、そして、全体として見ると、航空機をすべて墜落させてくれたことはありがたい、というところだな。あれがそのまま来ていたら恐らくここは無事ではなかっただろうからな。」
スペランテ王子は何とも言い難い、複雑な感情を込めた声でそう告げた。よかった、私のしたことは間違ってなかったんだ。うん、そうだよね。
「で、しっかりと休めたのか?」
「はい、しっかりと。ルナのところにいくのに万全な状態です!」
「そうか、王都での作戦では、フレア王女には相当大きな負担をかけてしまうことになってしまう。先に謝っておきたい。申し訳ない。」
「いえ、スペランテ王子が謝る必要はありませんよ。私はそれを、ルナを助けたくてここに来ているんです。私は無茶を言ってる立場だと思っていますから。」
「そうか、では言い換えておこうか。ありがとう。」
スペランテ王子は感謝の感情をぶつけてきた。その感情が、限界に近い私に心に少しだけ余裕を与えてくれる。
「さて、近いうちに、その本命の作戦を行うわけだが、貴方にお願いがあるのだがいいだろうか?」
「はい、なんでしょうか。」
お願い?ルナを助けるときにってことだよね?なんなんだろう。
「ええとだな、非常に難しいことだとは思うのだが白髪の老齢の男性がいたら生かして無力化してほしいのだ。」
「はあ、なんでそんなことを?」
「そいつは、今の教会の教皇で、過激派のトップの人間だ。今回の件について、捕らえたうえで法の裁きを受けさせたい。とはいえ、最優先はルナ、そしてフレア王女の命だからな?もし、教皇を殺さないといけない状況になったら、容赦なく殺すんだ。躊躇してると自分が持ってかれるぞ。」
確かにこれはお願いだ。可能ならばって範囲だと考えるとね。
「はあ、善処はしてみます。一応、命を奪わなくてもいいように用意はしてましたし。」
「そうか、ではお願いさせてもらおう。」
言葉の通り、教皇含めて殺さないつもりではある。そのために色々と魔法を兄上から教えてもらったんだし。
その日の午後、後から来た兄上を交えて、情報の確認をした。そこで一つ問題として出てきたのが王都の今の状況。
「なんで僕が行ったことのないこの国の王都に行かされたのかだけ確認したいんだけど、まあ後でいいかな。」
「いや、それくらいなら今すぐに答えてやるぞ?それはホルン王子の顔がうちの国の王都ではまだ知られていないからだ。」
「あら、あっさり答えてくれるのか。って、とりあえず本題に移ろうかな。まあ冒険者ギルドで集めた情報なんだけどね。」
そこから語られたのは王都の現状。王都では、現状、教会側によって、とあることの用意、兄上は言葉を濁したけど、まあルナの処刑のことなんだろうな、が整えられているみたい。考えたら辛くなってきた。で、問題はそれ以外、具体的には民衆の動きなんだけど、どうやら今にも爆発しそうな状況みたい。どうやら、今の王家への民衆の評価はかなり高いものだったらしく、今にも教会に突っ込んでいきそうらしい。教会の穏健派がどうにか制御しようとはしているけれども、相当難航しているらしい。
「で、今穏健派は冒険者ギルドに身を寄せているみたいでね。あそこって今治外法権が働いているんだよ。法的には何かしらの戦闘状態にエクスマキナ王国が入った時、一時的にだけど冒険者ギルドの建物はヘカテリア王国の領内として扱う、ということになっている。これは外交的に決めたことだから教会がすぐに変更することはできないし。だってうちの国は完全に王家側だからね。」
兄上はそう補足する。
「はあ、民衆の動きまで把握しきれていなかった。これでは作戦に支障が出る。それと、教会の穏健派と改めてコンタクトを取らなければ。もっと早く情報を集めるべきだったな。」
そう言うスペランテ王子からは後悔がにじみ出ている。
「とりあえず、だ。民衆の動きの予想はかなり簡単だ。恐らく、処刑のときに、その場所に押し寄せるだろう。無秩序な暴動を伴ってな。かなり難しい戦いになるな、間違いなく介入なしだと、民衆側の犠牲が出る、しかもかなりのな。フレア王女。」
「はい、なんでしょうか?」
「貴方にはさらに苦労を掛けてしまうことになりそうだ。当然私もカバーはするけれども、それでもだ。」
私はどうやら、ルナだけじゃなくて、この国の民衆までも救わなければいけなくなっちゃったみたい。正直言って、後が怖い。何か、背筋に悪寒が走り、心臓に細かい針が刺さるような感覚。
「大丈夫ですよ、私ならそれくらいできますから。」
そう言って片手で胸を叩く。自分を奮い立たせるために。大丈夫、私の魔法は人を救うためのものだから。
それから、ついに、この時が来た。私の眼下にはここへと詰め寄った民衆がある。その民衆が入れないようにされている空間には、まばらに人が見え、その中央には所謂ギロチンとかいう処刑装置と、そこにいる、銀髪の少女。夜空には、月が見えていたはずだけれども、その姿は小さくなっている。これがここから先の暗示ってならそんなことはさせない。
「〈サンダリング・パラライズ〉」
私は、姿を隠したまま、戦いの始まりを告げる魔法を告げた。
次回、2話か3話分ルナ視点入る、予定です。直接的な描写は避ける、予定。
気に入って頂ければ評価、ブクマ、是非是非お願いします。