第57話:真夜中の空中戦
私は、兄上から魔法を教えてもらったその夜、砦の上に来ていた。もうすでに暗くなってしまった空には、星が幾つも光り輝いている。そんな中でも、一際目立つのは、少しだけ欠けている月。あと少しで満月になるのかな。
「はあ、どうしようかな。」
少し下を見ると、作戦の準備なのか、昼間と変わらず、人の動きが活発なのがわかる。それを見ていると、あと少しでルナ救出作戦、つまり教会との決戦が近いことがひしひしと伝わってくる。私は、必ずルナを助け出す。
「でも、できれば戦いたくないんだよなあ。」
その時に、戦いになって人をまた殺すのが怖い。できるだけ殺さずに無力化したいから、兄上から魔法を教えてもらった。兄上には理想論と言われたけど、私はそれにすがりたいの。そうしないと、最後まで多分もたないから。
「ああ、月が奇麗だな。」
少しでも不安な気持ちを抑えるために、そんなことを言ってしまう。そんなときだった。王都の方から何か、聞き慣れない音が聞こえてきたのは。
「何の音だろ、正直耳障りなんだけど、こっちに来てる?」
音が聞こえてすぐに発動した探知魔法に、何かが見える。大きい鳥っぽい?王都からこちらに向かってきてるってことは敵?なのかな?もしかしてこれが航空機?これはどうすべきなのかなあ。今日は休んでほしいとは言われているけど、このまま放置するのもまずい気がする。私は、その考えに従って、その方向へと向かって空に駆け出した。
私が探知魔法で見つけた推定:航空機が目視できる位置まで来た。私の目に映るのは、月明かりに照らされた、羽を広げて、それを固定したような鉄の鳥。その頭にあたるところには何かが回転しているのが見える。それが十二機確認できた。これ、放置しとくとまずいのかなあ?そう思って、様子を見ていると、航空機の動きが変わった。そして、バババババババッ、そんな音が鳴り響いたかと思うと、何かが無数に飛んできた。これ狙われちゃってるじゃん!
「〈エア・カッター〉」
私が剣を抜き、そう唱えると、剣先から風の刃が放たれた。それは、こちらに向かってくる航空機のうちの一機の羽の根本を穿ったかと思うと、その航空機の羽はもがれた。それによって、鉄の鳥は、バランスを崩し、地へと墜ちていった。羽をもげば、航空機は落とせるのか、なるほどね。なら、いける。様子見はやめだ。
「〈エンチャンテッドソード〉」
私は使い慣れた魔法を使う。見た感じ、航空機の速度は私よりも遅いし、小回りも碌に効かないんだと思う。攻撃も、何か、弾を連射してくるだけ。そんなの、いくら数が多かろうと、ドラゴンに比べると相手にするのは容易い。
まず、一番近い航空機の方へと剣を向ける、攻撃をしてくるけども、碌に当たらないし、当たる軌道で来ても、それくらいなら、魔法をぶつけたり、素直に避ければ何の問題もない。致命傷にさえならなければ当たることすらも許容するし。そして、剣が届く位置まで近づき、羽をもぐ。すると、その航空機は空から脱落していく。同じように、すぐに近くの航空機へも迫り、同じ事をする。これで三機。そこで、振り向くと、目の前に、航空機が見えた。いくら撃ってもキリがないからって体当たりって冗談じゃない。思わず、剣を振りぬいてしまう。その剣は、あっさり、その鳥に命中し、頭のほうから、真っ二つになった。これであっさりと切れちゅったのか。私が落とした鳥はこれで四機。残りはというと、方向を変えて王都へと戻ろうとしている。でもさ、そんなことさせるわけないじゃん。
「〈エア・カッター〉」
私の紡いだ魔法は、風の刃を生み出して、逃げ出している鉄の鳥へと飛んで行った。それは、確実に、鉄の鳥の群れを傷つけていった。数が多くて、少し距離もあったせいで狙いがおおざっぱだったために致命傷になったものは少なかった。それでも、二機は脱落した。残りは、直接羽を折ってしまおう。剣を握りしめ、航空機を追う。そして、そのまま、六機の鳥は、私の剣と魔法によって羽がもがれ、すべてが地へと墜ちた。
「これで終わりでいいよね?追加こないよね?」
空にあるのが自分自身だけになったとき、答えてくれる相手もいないのにそう呟いてしまった。少し、様子を見ていたけれど、来そうな気配は一切ない。そこで、緊張の糸が切れてしまう。そして、戦いの途中で見えてしまった目を背けたい現実に気づいてしまう。
(一瞬だけど、人が乗っているのが見えた。つまり私はまた)
人を殺してしまった。
でも、これをしなかったら、味方が死んでいたかもしれない。だからこれでいいの。これが正しかったの。うん、大丈夫。私は気合を入れるために、頬を叩く。
「じゃあ、戻ろうかなあ。そして、寝よう。」
そうして、私と、航空編隊の真夜中の空中戦は、私の勝利に終わった。
砦へと戻ると、にわかに騒がしくなっていた。多分、私が航空機を落としたせいなんだろうな、あれが墜ちたときの音、かなり大きかったから。スペランテ王子への報告は、まあ明日でいいかなあ。そう思って、部屋へと戻ると、私はすぐに眠りへと落ちてしまった。私にとって不都合なことに気づかないふりをしながら。
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