第55話:今後の計画
戦いが終わって、私は兄上と一緒に砦へと帰還していた。砦は色々とてんやわんやの状態だった。今回の作戦で、ほぼ相手の全軍の無力化に成功したみたいだからそりゃそうだよね、うん。今は、作戦の成功の報告のために、スペランテ王子のところに来ている。
「戻ってきたか、一応外の様子や、兵からの報告で把握はしているが、作戦はどうなった?」
「そりゃ、お察しの通り大成功です。しっかり、人も兵器群も無力化した上で、補給路もすべて破壊しました。しばらくは王都側からの援軍は来ないと思われます。」
「僕から少しだけ補足すると、破壊するように指示された場所しか破壊していないから細かな道とかから少数精鋭で攻めてくる可能性自体は残っていると思うよ。」
私達の報告を受けて、どう見ても疲れているスペランテ王子は少しうなづいた。
「これでしばらく、砦が攻められる可能性は低くなった、はずだ。不安要素として一つあるが。」
「不安要素、ですか。」
「ああ。航空機と言うのだがな、一応最近試作機が出来たという話は耳にしているのだ。それを持ち出される可能性がある。」
「それはどういうものなので?」
「空を飛んで、爆弾とかを落とす兵器の一種だな。」
「それなら補給路が途絶えていてもこちらに攻撃ができると。」
「そうだな。一応警戒はしているが、如何せん、対空に関してのノウハウがまだなくてな。来ても落とすことができるかというと、微妙なところだな。」
「来たら私か兄上で落とせばいいですか?」
「出来たらお願いしたいな。来たらの話だが。」
航空機、か。前に少しルナからその存在を聞いた気がする。ルナが一応基礎設計に関わったらしいけどその先は知らないとか言ってたかな。あ、ルナのこと思い出したら、棘が刺さっているような感覚が帰ってきた。でも、これを忘れたら別の沼に吞まれそうだから今はありがたい。
「では、二人とも、明日一日休んでほしい。特にルナ王女はな。」
「明日一日休み、ですか?確かに余裕は出来ましたが、手伝わなければいけないことがあるんじゃないですか?」
「いや、大丈夫だ。休んでほしいのにも理由があるからな。」
「理由、ですか?」
「砦が安全になったのだ。教会もすぐにこれを把握してすぐにまた軍を使ってくるだろう。ただ、それには補給路の復旧の作業をしなければならないから時間がかかる。」
そこで、彼は言葉を切った。
「そこでだ、私達は王都へ攻め入るぞ。ルナと、父上を助けるためにな。タイミングはルナを処刑すると教会が宣言した日だ。そこなら、恐らく、ルナが表に出てくる。そこを救出するんだ。父上に関しては、正直情報がなくてな。なら、ルナの救出とともに、教会を制圧して、父上も救出する。」
「それは本当ですか!?」
「ああ、やる。そこで、教会側を完全に潰すぞ。」
ルナを助けることができる、そのことを聞いて、私は感情が抑えられなくなってしまった。体がすぐに動きそうになってしまう。
「スペランテ王子、その時の作戦はあるのかな?」
「ホルン王子、もちろん考えてある。二人はどちらもかなり重要な仕事があるぞ。ホルン王子は、王都周辺の制圧だな。そしてフレア王女には、ルナの救出を。私は軍を率いて砦から王都へと向かう。こちらは、捕虜を交えて、再編の終了後に行う予定だ。」
「なるほど、目的さえ果たせれば私達に手段は問わない形でいいのかな?」
「だな、一応、特にフレア王女にお願いしたいことはあるのだが。それは作戦決行の直後に伝えよう。」
そのまま、話は終わりへと向かい、私は部屋のベッドに倒れこんだ。
「やっと、やっとか。ルナ、待っててね。」
助けに行けるから。それと同時に、少し、心の傷が痛む。私はこの戦いの中で何人、何人に魔法を使ったんだろう。そして、それでいくつの命を。そう考えると、押しつぶされそうになる。その二つの感情に板挟みにされていると、扉が叩かれる音がした。
「フレア王女、入ってもいいかしら?」
その声はトリステラ王妃殿下のものだった。私が入っていいと許可を出すと、その人は部屋に入ってくるや否や、私が寝転がっているベッドに腰掛けた。距離近いな、この人。
「あのね、私、少しフレア王女が心配でここに来たの。貴方、何か悩んでたりいない?」
トリステラ王妃殿下は、私にそんな問を投げかけてきた。あるには、ある。けれど。
「特にないですよ?心配かけたようならすみません。」
「本当に?じゃあ少し質問を変えようかしら。貴方は魔法をどのように使いたいの?」
「魔法を、ですか?私は、魔法を人の為に使いたいですね。人の命を救えるよう、に。」
そこまで言って、私が何をしたのかを意識しちゃって、涙がこぼれそうになる。
「そこまで、言いたくないなら、無理に聞かないわ。でも、これだけは覚えていて欲しいの。」
その次の言葉は今の私には言い訳にしか聞こえない言葉だった。
「何をするにしても、何かを失ったり、奪ってしまったとしても、その裏では、何かを手に入れてたり、救えてたりするものなのよ。」
トリステラ王妃殿下は、そう言い残すと、立ち上がり、手を振りながら、私の部屋から出て行った。…なんだったんだろう。結局、考えても、その言葉は言い聞かせてるようにしか思えなくて、納得できなくて、そんなことを考えているうちに、疲れ果てていた体は意識を飛ばしてしまった。
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