第52話:開戦
教会からの宣戦布告を受けた翌日、砦では、防衛の用意が行われていた。早ければ今日中に戦いが始まる。そんな中、私は会議室に来ていた。
「なんでなんですか!なんで私が表に出て戦っちゃダメなんですか!」
私は、前線に出て戦うことになると予想していたけれども、それとは裏腹に戦わなくていいと言われてしまった。それに対して咄嗟に返した言葉がこれ。
「その思いはありがたく受け取っておく。だがな、貴方の存在はできるだけ秘匿したいのだ。フレア王女の力は間違いなく私たちの切り札なのだ。使いどころを考えたい。」
それに答えたのはスペランテ王子。というか、今ここには、私を除くと、スペランテ王子しかいない。パレンタ王子は、軍の総司令官として動いており、トリステラ王妃もまた、彼と一緒に行動中でいない。
「そもそもフレア王女は自らの力がどれほどか理解しているのか?貴方は単騎で、たった一人でドラゴンを足止めした、いや、政治的には倒したことになっている人なのだぞ?そんな人がこちらについていることを知られると、最後の目標のルナ及び父上奪還が難しくなる可能性がある。」
「そう、ですか。」
「まあ、それでも、場合によっては表に出すがな。」
私は完全に兵器みたいな扱いをされているみたい。一応、兄上も私とほぼ同等なんだけど、私と違って自由に動けるわけじゃないからなあ。というか、そんな私を出さざるを得ない状況ってどう考えても詰みかけてるよね。切り札を使わされてる状態だから。
「王子殿下!西から教会の軍が進軍してくるのを確認しました!」
どうやら、ついに戦闘が始まってしまうみたい。
「私はここにいるがフレア王女、貴方はどうしたい?」
「私は」
そこで、一瞬考えて、言葉を紡いだ。
「私は戦場が見える場所に行きます。そして、場合によっては、勝手に動きます。後悔する前に。」
「…勝手に動かないで欲しいのだが。いや、多分言っても意味がないな。だがだな、もし、戦うのならば覚悟をしておいてくれ。もし、せずにいると、貴方が壊れてしまうかもしれない。」
「覚悟、ですか。わかりました。では行きますね。」
私はそう言い残して屋上へと駆け出した。
屋上に着くや否や、西の方角から何かが複数飛んできた。思わず、腰の剣を二本取る。
「〈サンダリング・ランス〉!」
そして、雷の魔法を放ち、飛んできた弾をすべて破砕する。これくらいならいいよね?それらの発射源の西を見ると、こちらに向かってくる軍勢が見えた。どう見ても数がこちらよりも多い。どう見てもこちらの十倍以上見える。これが第一陣って嘘でしょ。こちらは、砦での防衛をするために、砦付近に布陣している。それでもこれ耐えれるかなあ。ついそう思ってしまった。って、また砲弾飛んできたよ。私はそれを再び迎撃する。これ、砲台だけでも破壊していいかな。でも、状況的にはまだわからないのがなあ。あ、また飛んできた。結果として、そう大層に動くこともできず、飛んでくる砲台を延々と潰すことになった。
それから幾ばくか経って、ついに、軍同士の衝突が起こった。こちらは、塹壕、とかいう溝を掘って待ち構えていた。パンパン、と音が鳴りだした。どうやら、銃撃戦が始まったらしい。砦の本当に近くは森になっているから、音から戦況を判断するしかないんだけど、うん、さっぱりわからない。何か助けたいのに、と思いながら屋上で警戒しながら戦場を見続ける。
戦いは、日が暮れるまで続き、そこで音は一旦鳴りやんだ。どうやら、夜に攻撃をしてくる気はないらしい。今のうちに休息を取るためか、兵の一部が砦へと戻ってくる。
「フレア王女、すまなかったな。」
会議室に戻ると、スペランテ王子にそう言われた。
「勝手に動くと言った通り、かつ、戦場に出ないように動いた結果ですよ。」
「それでも、ありがたいものはありがたい。さすがにあれだけ叩き込まれると、何発かは砦に相当の損傷を与えていただろうからな。」
そう感謝される。よかった、私のしたことは間違ってなかったんだ。この調子なら、まだ何とかなる。
しかし、それだけで済んだのは最初だけだった。敵はどんどん数を増し、そして、数を以て突っ込んでくる。防衛側とはいえ、余りにも数の暴力が過ぎる。私は迷いなく、スペランテ王子の元へと向かった。
「フレア王女か、もしかしてだが。」
「はい、多分そのもしかしてです。」
「そうか、覚悟は決めたのか。」
「それは、もちろんですよ。」
「では、頼んだ。」
私は、許可をもらって、空へと駆け出した。向かう先は、敵軍の中。そこに私が降り立つと、戸惑いのためなのかわからないけれども、一瞬、敵全体に動揺が走り、動きが止まった。
「ごめんなさい、〈フォール・ダウン〉」
そんな隙を見逃すなんてことはしない。私が紡いだ言葉により、敵軍を濁流が覆い、それは、人を巻き込んでいく。結果として、その一帯の敵軍は大方片付いた。でも、それでも一部だけ。まだ、やらないとなんだ。今は心を凍らせないと。耐えないと。そう思って、今度は接敵している付近に下がり、移動している兵を狙う。
「ごめんなさい、〈ウィンド・バレット〉」
私はその兵に二つの切っ先を向け、魔法を放った。風の弾丸は狙った通りに飛んでいき、兵を吹き飛ばした。直撃した兵は飛んだ先の木にぶつかり、動かなくなってしまった。生きていて欲しいけど、わからないなあ。意識しないようにしてたけど、これではっきりと認識してしまう。
―私は人を殺してしまったんだと。
って、ダメだ、今は耐える。感情なんて気にしない。そう心に決めて、私は戦場の中へと舞い戻っていった。
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