第51話:宣戦布告
あれから三日が経った。私は王都での情報収集をメインに行動をしていたけれども、特に新しい情報を得ることはできなかった。今日も私は部屋から出ると、今日やるべきことを確認するためにスペランテ王子の元へと向かった。部屋に近づくと、中から声が聞こえる。これもしかして昨夜からずっと話続けていたっぽいなあ。扉を叩くと、中に入るように促された。
「よく眠れたかな?フレア王女?」
「ええ、まあ、はい。」
「そうか、ならよかった。」
そう言って、スペランテ王子は笑う。その顔は気持ちやつれているようにも見える。第二王子は不在で、王妃殿下は、澄ましたような感じだった。
「では、今日は何すればいいですか?」
「今日もまた、少し王都でまた情報を集めてくれないか?」
「はい、わかりました。それでは。」
「待って、フレア王女。」
部屋を出て行こうとした私を呼び止めたのは王妃殿下。
「昨日もまた、話の続きをできなくて申し訳ありませんでした。ちょっと話が立て込んでしまって。」
「いえ、大丈夫ですよ。またの機会で。」
「わかりました、早めに続きを話せるようにしますね。」
話し終わった後、私は、王都へと飛んだ。今回も姿を隠さずに素直に入る予定。そうして、王都の近辺に着くと、何か違和感を覚える。一番近いのは、スタンピードが起きたときに、それの討伐に行くために用意を騎士団がしているときの感覚。その違和感を流しながら、王都の門から中へと入る。中はかなり物々しい雰囲気。武器やら、物資やらが積み上げられている一角が見える。でも、これは何用なんだろう。魔物でも湧いたのかなあ。そう思いながら、私は王都を探索する。やはり、昨日と比べて、余り変わった様子は感じない。さっきの戦いの用意をしているのを除いてだけどね。
「今日は教会で何か大事なお知らせがあるらしいぞ、聞きに行こうぜ。」
あてもなく王都をさまよっていると、そんな声が耳に入った。教会か、私が今欲しいのは教会についての情報だし、私も行ってみようか。そう思って、人の流れに乗って教会を目指す。
教会に着くと、中に入りきらずに、外まで人があふれているのが見える。恐らく、みな、教会が何か発表をするというのを直接聞きに来た人たちなんだろうな。まあ、それは私も同じわけで。私は無理にでも奥に入るために、人混みを搔き分けていく。なんとか、中に入ると、前に不法侵入したときとは違い、机などが片付けられ、あるのは、少し高い場所にある主祭台だけだった。その上には何か金属性の物が先端についた棒があって、そこから黒い紐が伸びていた。んー、無理に入ったけど外でもよかったかもなあ。人が多すぎてうまく動けないや。そうして待っていると、王城で出会ったときには私に不快な視線を向け、そして、前に見たときには、ルナに何をしたかを語っていた今回の主犯と思しき人物、教皇が出てきた。彼はそのまま、主祭台の前まで移動し、手を広げて尊大な態度を隠しもせずに話し始めた。
「神に忠実なる信徒のみなさん、私は御存知の通り、教皇、テラニア・ボーガンです。今日はみなさんへ、大切はお知らせがあって、このような機会を設けました。この話は、ラジオ経由で、この国全域へ、同時配信されています。まず最初に、今、この国の政治的な実権は、王族、いえ、元王族から教会へと移行されました。当然、ほぼすべての軍の指揮権もです。何故ならば、元王族は、この国で存在を許されていない、禁忌である魔女と繋がり、いいえ、違いますね、魔女の血族だったのです。そのような存在にこの国を握られてはならないと、私ども教会は行動を起こし、忌々しき一族を逮捕し、政治的な実権を握りました。その際、確保できたのは、元国王と、魔女だけでした。つまり、残りは確保できていません。そこで、この国、いいえ、エクスマキナ聖教国は、残りの魔女の血族の討伐を行うことに決めました。それとともに、魔女の処刑も。」
そう言って、彼が出したのは一枚の紙。確か前にルナに教えてもらった写真、とかいうやつだっけ。少し遠いけれども、私はそこに写っているのが何か見えてしまった。そこには、全身に傷が残るばかりか、打撲痕やら、切られた後やら、赤黒い、恐らく血が固まった物とかが残る、あまりにも痛々しい姿の銀髪の少女が、手を天井から拘束された状態で、そして、生気のない絶望しか見えない目をしていた。私は体内で、魔力が狂いだすのを感じた。感情を抑えるのがあまりにも難しい。このあふれ出てしまう負の感情は止められない。そんな中、忌々しい教皇は話を進める。
「この写真に写るこれは、魔女、ルナモニカ・フォン・エクスマキナです。これの処刑を丁度一週間後、行いましょう。それに先だって、残りの討伐を行うために、東の砦、唯一教会の支配下におけていない砦に、軍を向かわせます。そして、魔女の血族を滅ぼしましょう。すべては神の啓示なのです。」
これははっきりとした宣戦布告だ。正直この場で暴れてしまいたい気持ちでいっぱいだ。でも、今は調査がメインなのもあって、普段使いしている剣を持っていないし、何より、ここで魔法を使ってしまうと、関係のない人が巻き込まれてしまう。だから、我慢するしかない。教皇が裏へと戻っていくのを私は見つめているしかない。さて、このことを知らせるために戻るか。色々と重要な情報が手に入ったし。私は、爆発しないようにしながら、東の砦へと大急ぎで戻った。
砦へと戻ると、割と本気で慌てた様子でスペランテ王子が飛び出してきた。
「フレア王女、非常にまずいことになった。手を貸してくれるか?」
「はい、事情は私も直接教会で確認しました。つまり、戦えばいいんですね。」
「そうだ、ここに迫ってくるであろう、軍を倒すのに協力してほしい。」
私はそれに頷いて答えた。
「これに協力するということは、人を殺すことになるということだ。フレア王女はそれに耐えきれるのだろうか。」
その呟きは私の耳に入ることはなかった。
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