第48話:教会にて
一部描写が過激になっていますので、ご注意を
そういえば、教会に行きたいといっても私、教会どこにあるか知らないじゃん。どうしようかな、下手に人に聞きたくないし。とりあえず、大きい建物を探してみるかなあ。私はそう決めて、冒険者ギルドから出て大通りを歩いていた。王城の方へ歩いているけれども、通りの様子は王城に近づけば近づくほど兵が増えて、物々しくなっていく。もうそろそろ、城下と王城の境になる場所へと来ると、そこでは何かせわしなく、人が出入りをしていた。その人らの服装はローブだったり、修道服だったりと、ある程度の統一性を伺わせるようなものだった。教会の関係者なんだろうけど、王城から出てきてるってことはやはり、王城は教会に制圧されているので間違いなさそう。王城から出ていく人を追えば、教会にたどり着けるのかな。そう思って尾行、というか、同じ方向へ行くことに決めた。
「おい、そこのお前、ここから先は部外者は立ち入り禁止だ。」
不意に、近くの兵に呼び止められてしまった。
「あ、すみません。私、この先に親族がいるので、会いに行きたいのですが…。」
「それでも、ダメだ。」
咄嗟に言い訳考えたけどさすがにダメか。強行突破できるけど、今は騒ぎを起こすべきでもないからなあ。
「そうですか、久しぶりなので会いたかったのですが、仕方ないです。」
そう言い残して、私はその場を後にした。教会は多分あの方向にあるんだろうな。さて、どうしようか。教会に潜入するか、王城内部へと潜入するか。正直潜入自体はこの前のローブを持ってきてるから〈ドラゴ・インビジブル〉を使えば成功すると思う。いや、間違いなくこれが最適解なんだと思うけど。どっちに行くかなんだよなあ、砦の方に戻る時間を考えると今日はどちらか片方しか行けない。人の流れを見てると恐らく本部、というか統括は教会の方だと思うんだけど、かといって王城の方の放置もできないかな。うん、決めた、教会の方を優先しよう。こっちの方が手に入れられる情報の質も量も上だと思うし。問題、と言っても自分の中での、はあるけど、まあそれはどっちに行っても変わらないかな。そう決めて、一旦、教会のある方向と逆方向へと足を向けた。
王都を囲う壁から外へ出てすぐ近くの森に入ったところでローブを羽織る。やろうとしてること的に人に見られたくないからね。
「〈ドラゴ・インビジブル〉」
そして、透明化をする魔法を使った。これってドラゴン由来だからか、ドラゴンの素材を触媒にする必要があって、地味に魔力消費がデカいという弱点はあるけど、大概ずるい魔法だと思うんだよなあ。ドラゴンの魔法で一番恩恵大きいのこれだろうな。そんなことを一瞬だけ考えたけど、どうでもいいとサクッと切り捨てて飛行魔法を使う。そして、壁を乗り越えてそのままさっきの方向、恐らく教会があると思われる場所へと向かう。空から見ると、封鎖されている区画がよくわかる。その中の人通りはまばらで、武器を持った、所謂僧兵とかいうのかな?が見回りをしていた。その区画の丁度中心辺り、そこにそびえたっている、王城ほどではないが、豪華な建物、これが恐らく教会なのだろう。んー、とりあえずは周りを少し歩いてみよう、魔法は維持したままで。教会のある通りから一本外れた場所へと降り立ち、教会の周りを歩く。外にいる者は無駄口を叩くことなく、それぞれの仕事をしているようだった。彼ら、彼女らの目は何か狂気を孕んでいるようで、思わず声が出そうになってしまった。姿を隠しているだけだから声とかは聞こえちゃうんだよね。足音対策で地上に降りたとは言え、少し浮いて移動してるし。
まあ、そんな感じだった関係で外で得られる情報はろくになかった。中に入るしかないのか。そう思って、私は意を決して教会の入り口へと向かった。教会の入り口は私の身長の五倍くらい、大体7mくらいあるようで、それが今は開け広げられていた。この高さなら上から飛んで入れば問題ないね。中に入って、天井の明かりの上辺りで一回、様子見をする。中では、何やら大量の書類を処理しているようだった。影に気を付けながら文字が読めるくらいの高さまで降りて、書類を見てみると、法律やら、会計報告書とか、恐らく王城から持ってきたであろう事務関係のものだった。多分、これは王城の政治的な機能をここに移しているのだろう。逆説的に王城の政治的機能は失われたと考えるのがよさそう。どうやら、ここではこのこと以外のことをしていないらしく、他の情報はなかった。入り口の反対側、主祭台のある側に扉があるのが見える。あそこからさらに奥に行けるのかな。そう思って、扉の近くへと降りて、扉が開くのを待った。少し経ったくらいで神官らしき男性が扉を開いた。閉じてしまう前に大急ぎで扉の奥へと入る。扉の先は片側に扉のある長い廊下となっていた。探知魔法で開いている扉がないかを調べてみる。すると、奥の部屋の扉が開いているのが確認できて、その部屋の中には何人かの人がいるのも見えた。
見つけた扉の開いている部屋の近くまで来ると、中でのやり取りが聞き取れるようになってきた。
「教皇様、現在、政治機能の移転を行っており、こちらの状況は順調です。早ければ一週間後、すべての機能の移転が終了するでしょう。」
「そうか、最優先で行うように。」
「それと、元国王陛下ですが、現状、王城での軟禁状態に置いております。最上階の部屋のため、入り口をふさいで逃げられない状態にしております。」
「必要な時までは生かしておくように。元王妃、元第一王子、元第二王子は未だ見つかっていないのか?」
「はい、未だに。元第一王子は昨夜、王城内で追い詰めはしましたが、屋上から飛び降りてそのまま行方不明です。元第二王子はどうやら東の砦にいるようで、今、掌握した軍を身柄拘束のために動かす用意をしています。東の砦には掌握できていない軍がいるので戦いは起こるでしょうが、数の差で用意にすりつぶせるでしょう。元王妃はアカデミー内にいるようで、今は手出しが出来ない状況になっています。」
「全員速やかに探し出し、確保しなさい。最後に、魔女の状態は如何に。」
いくつか重要な情報があっさりと手に入ってしまった。それでも、今までは感情を表に出さず、耐えていた。でも、最後の言葉でびくっとしてしまった。冷静に、冷静に。
「はい、魔女についてですが、現状あれには魔女であることを自白させようとしている状態ですが、口を割る気配がありません。いくら傷をつけようと、侮辱してもです。とはいえ、精神はすり減っているでしょう。そのうち自白すると思われます。それに、普通なら死んでもおかしくない量の血も流れていますが、死ぬ気配はないので、状況証拠的にはほぼ魔女で確定でしょう。」
「ならよい。まあ、あれが認めようと認めなかろうと、魔女であることは決定事項なのだがな。すべては、神のお導きのままに。」
こいつら、今なんて言った?ルナに何をしているの?動揺と共に、どす黒いなにかが体から吹き出そうになっているのを感じる。こいつら同じ目に合わせてやろうか?正直合わせるだけなら簡単。だって、今ここで魔法を使えばいいだけだから。でも、そうしたとて、問題は一切解決しない。なら、ここは耐えるしかない。いや、この場を離れよう。衝動的に動いてしまいそう。私はそう決めると、風魔法で遮音をした後、廊下の窓を割って、外へと脱出した。教会、私の愛しい人に手を出したことへの罰はいずれ、絶対受けてもらうから。
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