第46話:自覚
王都から撤退して、東の砦へと到着した。真夜中であったのにも関わらず、私達が来たことで大慌てで兵は動き始めていた。
「兄上、それにフレア王女殿下ですか。ここに来てしまったってことはまさか。」
「そのまさかだ。教会に王城が制圧された。それに、ルナが教会の手に落ちた可能性が高い。」
「非常にまずいな、とにかく情報の整理をしましょう、兄上。慌てて動いても碌なことになりません。」
「そうだな。情報を集めて、精査して、それから動こう。恐らく、いや間違いなく失敗は許されないからな。」
彼ら兄弟はやるべきことをするために動き出すようだ。私は、どうしようか。本音を言うと、真っ先にルナを探しに行きたい。でも、私が動いていいのかな。動きたくて、動きたくてたまらないのに、私が動いていいのかわからない。これは他国でのクーデターだから。予め立ててた作戦を果たすために今日は動いていただけだったし。
「でも、いや、大丈夫。うん、大丈夫。」
「あ、そうだ、フレア王女、貴方はヘカテリア王国にこのことを伝えてくれないか?ここからヘカテリア王国までは未だに電話線が通じていないのだ。恐らく、いや間違いなく貴方が一番ヘカテリア王国に到着するだろう?」
「はい、わかりました。それでは行きますね。」
「ああ、辛いだろうが、頼んだ。」
スペランテ王子の気遣いを感じて胸が締め付けられる。この気持ちはベクトルさえ違えど彼も同じなはずなのに。
王都へと戻って、緊急で取り次いでもらって状況を父上に説明した。
「以上、私が把握しているエクスマキナ王国の状況です。」
父上は完全に固まってしまった。真夜中に爆弾を持ち込んだからまあ、うん、そうなるよね。父上は硬直を解除したかと思ったら今度は頭を抱えだした。
「…フレアよ、どうしたらいいのだ。これは。」
「…私に聞かれても困ります、父上。」
はあ、とため息をついている姿に少し哀愁が漂っている。この案件を不可抗力だけども持ち込んでしまったのは私だから申し訳なさは感じるなあ。
「はあ、とりあえずこちらは下手に動きづらいな。はあ、フレア、ある程度自由に動いていいぞ。正直な、今ある情報から考えるとこの件は放置しとくとほぼ間違いなくこの国に被害が出る。」
「自由に動いていいんですか?そうなると一度私は砦の方に戻ろうと思いますが。ここで決めたことの情報の伝達も必要でしょうし。」
「一応戻るのなら明日の緊急会議の後にしてくれ。あと、できれば少しでも休んでくれ。これは国王としてではなく、父としてのお願いだ。」
さすがに、家族としての立場を表に出されると断りづらいなあ。私は素直に部屋に戻ることにした。
部屋のベッドで寝転がると、どうがんばっても涙があふれ出てきてしまった。ルナのことを助けたい、探したい。寂しいよ、会いたいよ。布団を強く抱きしめてそう思ってしまう。幸か不幸か父上から自由に動いていいとは言われてはいるけど、本当に動いていいのかな。ルナの元へ行きたい気持ちはある、あるけども、政治的な問題が私にのしかかる。
「私、本当にどうしたらいいんだろう。」
自然に口から出てきてしまう。今まで、こんな何をすればいいのか全く分からないなんて状況起きたことないのに。ルナと出会ってからは特に。一緒にいると楽しいし、魔法についても色々とアイディアを考えてくれたから研究にも困らなかったし。時間があれば会いに行くこともできたのに。今はそれができない。どこにいるのかなんて一切わからないから。
あれ?私ってこんなにルナに依存してたっけ?ルナがいないとなんでこんなに心細いんだろう。今すぐにでも飛び出してしまいたい。会いたい、助けたい、辛い、辛いよ。ルナと会って、ぎゅうってしたい、そのまま離したくない。あ、そっか、多分これが、これが
「好き、てことなんだ。」
どうやら、私がルナに抱いていた感情は、好意というもので、しかもそれは、親愛的な意味ではなかったらしい。それを自覚するのがルナがどこかに行ってしまってからなのはなんて皮肉なのだろうか。それにもっと早く気づいていたらどうなっていたのかな。そんな感情を抱いても、いや、むしろ抱いたからなのかな。涙は止まらなくて、なのに、それと同時にルナのことが好きって感情があふれだしてきて、嗚咽も止まらず、私はぐちゃぐちゃになってしまった。
「スペランテ王子、戻りました。うちの国から、伝達事項があって。」
結局、涙が止まることはなく、そのまま昼前まで寝てしまって、今私は緊急会議で決まったことと、あともう一つ個人的に非常に不愉快な報告をもって砦に戻ってきた。
「戻ってきてしまったのか。で、報告とは?」
スペランテ王子に聞かれて緊急会議で最低限決まったことを話す。ヘカテリア王国としては、クーデターに関わる予定はない。一方、私はある程度自由に動いていいってこと。主なのはこの二点。なんで私が自由に動いていいのかは、どうせ勝手に動くのだろうから最初から動いていいと許可を出して動きを把握した方がいいと判断したかららしい。あと、不快なこととして、冒険者ギルドが軽く調査をした結果、昨日の魔物の大量発生は人為的に起こされた可能性が高い、ということも報告した。
「ふむ、フレア王女はどうするつもりで?」
「私は、ルナを探しに行きます。王都に。」
「そうか、では、ついでに王都の現状を確認してきてくれないか?」
それくらいなら、そう思って、私はそれを引き受けることを決めた。ルナ、大好きな人、絶対に探し当てるからね。
大切なものは失ってから気づきますよね
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