第44話:消えた月
久しぶりの更新となります。詳しくは活動報告を確認していただければ幸いです。
「やっほー、オスト!ローブ取りに来た!」
「よう、フレア様。ローブだけはできてるぞ。それ以外は時間がもう少しかかりそうだ。」
色々とオストに頼み込んでから三日後、今日決行する作戦に必要なローブを回収しにオストの元を訪れていた。
るとは何かやりたいことでもあるのか?」
「うん、ちょっと野暮用でねえ。」
オストからローブを受け取って確認すると、前に渡した設計図通りのものが完成していた。さすがオストだなあ、いや、確か服飾関係はコレイがやってるんだっけな?どちらにしてもかなりありがたい。これでルナを連れ出す算段がついた。
「それじゃ、私はこれで帰っちゃうね。残りのも追々取りに来るからよろしくね。期待してるよ。」
「おう、じゃあな、フレア様。しっかりと期待通りのもん作って待ってるよ。また来な。」
オストに見送られながら私は帰路へとついた。
王城から戻ってからルナのもとへと向かう用意をしながら、夜になるまで待っていた。ええと、いつもの剣二本に今回最重要のローブに、あと細々とした色々。あと箒はいつもの一人用じゃなくて、今回用にせっせか用意した二人乗っても問題ないサイズのを持ってかないと。大方用意が終わって外を見ると日が沈みかかっているのか空が赤くなり出していた。
「もうそろそろいい頃合いかなあ。出発しますかね。」
窓を開けて荷物を持って外へといつものように飛び立った。
「待っててね、ルナ。」
正直、ルナを少しだますようなことをしてしまうのは申し訳ない気持ちがある。でも、これもルナのため、そう思って西へと進路を取った。
ルナの離宮へと進路を取ってしばらくが経ったころ、少し問題が起きているのに気づいた。
「ん?なんだろ、地上から魔力を感じる。戦ってるのかな?規模的にこれシャレにならないかも。この位置街道に近いし。」
地上での戦いの気配を感じた。探知魔法で見ても、戦っているのが見える。ただ、これ魔物が多すぎて戦っている冒険者側が持たない気がする。正直あんまし寄り道はしたくないんだけど冒険者を見捨てるのも気まずいし、残しとくと後で響きそうだと直感が告げている。箒の先を少し下ろして地上へと急降下する。
地上が近づいてくると、その惨状が目視できるようになった。なんだこりゃ、多種多様の、それこそ普段は喧嘩してばっかりのやつまでみんな仲良く、冒険者めがけて突っ込んでいる。冒険者は元々は二十人くらいいた感じがする。でも今、戦えているのがその半分以下の九人、七人は戦闘不能、そして、残りの人は事切れている感じがする。かなり苦戦してるなあ。
「〈エンチャンテッドソード〉、〈ファイア・バレット〉!」
彼らの救援の為に、私は魔法を行使しながらその魔物の群れに突っ込んだ。
「うお、なんだ!?空から人が!?」
飛び込んだ先で驚くような声が聞こえた。
「そこ、驚いている余裕があったら態勢を立て直して。殲滅は私がするから。」
圧を込めてそう言うと、彼らは一瞬怯えの感情を見せたけれど、すぐに表情を引き締めて動き始めた。数が多すぎてきつかっただけらしく、動き自体は悪くはないかな。じゃあ、私は宣言した通り、この数の魔物の殲滅をしようか。
「〈ドラゴ・インフェルノ〉」
片方の剣を前に突き出し、もう片方の剣を持つ手で持ってきたローブを掴んで魔法を放つ。それは放たれるやいなや視界を炎で埋め尽くした。うわあ、撃つ角度には気を付けて試しに使ってみたけど、さすがドラゴンの使っていた魔法、素晴らしい威力。その炎が消えるとそこには何も残っていなかった。どうやら魔石すらも残っていないっぽい。うん、火力高すぎてダメだね、こういう時以外は封印しよう。面白くない。魔物の群れはその一部、大体一割くらいが消滅したからだろうけど、生存本能に基づく怯えをみせた。残りはまあいつも通り倒してしまおうか。
「〈エレメント・バレット・フルバースト〉」
その声によって、ドラゴン戦のときにも使った魔法が私の周りに放たれた。それらは、魔物を穿ち、一体、また一体と仕留めていく。それと同時に、二本の剣を振るい、いつもの様に敵を打ち倒していく。しかしまあ、一割くらいを一撃で消し飛ばしたとは言え、とにかく数が多い、ドラゴンとの戦いのときは圧倒的な質との戦いだったけれども、今回は物量、別ベクトルできついものがある。とはいえ、それでも総合的に見るとさすがにドラゴンよりは楽だった。そう思えたのは魔物をすべて制圧し終えてからだった。
戦いが一段落ついて、魔物に囲まれていた冒険者の方を確認する。どうやら、新たなけが人は出てしまったようだけど、犠牲者は出ていないっぽい。でも、彼らの状態は芳しくないように見える。とりあえず、彼らに回復魔法をかける。
「大丈夫だった?」
「今では回復のおかげで大丈夫ですが、パーティとしてみると、とてもじゃないですが。」
それはそうだろうな。仲間が死んでいるんだから。
「そんな貴方たちに酷だろうけどお願いがあるんだ。聞いてくれる?」
「はい、貴方は命の恩人なので従いますよ、フレア様。」
ありゃ、誰かバレバレだったか。
「バレてないつもりだったんだけどな、まあ話が早いかな。それじゃ、このことを冒険者ギルドに報告して調査までお願いして。代わりに素材とかは全部あげるから。」
「はあ、それなら引き受けますが、その前に、今回死んでしまった仲間の弔いをしても…?」
「うん、そうして。いや、そうしてあげて。」
正直、私は冒険者として動くときはある例外を除いて一人だ。冒険者という職業は死と隣り合わせであるとはいえ、その死というものを私は突きつけられたことはない。だから、それに向き合っている彼らにどういう顔をすればいいのかもわからないし、どうすることもできない。結果がこの言葉となって現れていると思う。
「それじゃあ、私は行っちゃうね。ちょっと急ぎの用があるから。」
「はい、助けていただきありがとうございました。お願いされたことはしっかりとやっておくので。」
彼らと別れた後、私は再び離宮へと飛んだ。星の動き的に、予定よりもかなり遅れて着いてしまうことになりそう。んー、でもタイミングが悪すぎるよなあ。さすがにあの魔物の数を見逃すわけにはいかないし。その結果としてかなり作戦決行が遅れてしまう結果になってしまった。なんだろう、すごく嫌な予感がする。もしくは何かを見逃した?ダメだ、わからない。そして、その予感は最悪の形で実現してしまった。
離宮へと着いた。いつも来るときのように扉を叩いてみた。すると、そのときに帰ってくる感触が違った。よくよく見ると、少し扉が開いている。背筋に悪寒が走った。扉に手をかけて慎重に扉を開けると、荒れた玄関があり、そして、血痕が残されていた。そして、探知魔法で探してみても、ルナの姿を離宮内で見つけることはできなかった。
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