第42話:黒の夜が近づいてくる
私―フレアニア・フィア・ヘカテリア―は今、昨日ルナからもらった伝言の通り、昼過ぎにエクスマキナ王国の王城に訪れた。その目的はこの国の第一王子であるスペランテ・ボナ・エクスマキナに会うため。そのために王城の侍従にスペランテ王子の執務室の場所を聞いてそこに向かっている。
その道中、正面から白髪で父上よりも一回り年上くらいでこの国ではあまり見かけない、かなり豪華なローブ調の服を着ている男性とすれ違った。その人は私を一瞥したかと思うと、小さく、チッ、と舌打ちをした。え、なんだこいつ。私は一応王女なんだが?恰好的に多分教会の関係者?一応私この国に半年はいたから少なくとも王城に出入りするような人物には知られているはずなんだけどなあ。そういえば教会って魔法とか魔女を毛嫌いしてるんだっけ?んー、私って確かに魔法使うけど多分魔女ではないんだけどねー。多分、なのは魔女が何を示しているのかがイマイチわかっていないからなんだよね。
そんななんとなく嫌な男と遭遇してから少し歩いた後、目的地に着いた。扉を叩くと、中からフレア王女か、入って大丈夫だ、という声が聞こえた。中に入ると、スペランテ王子、ただ一人が座って待っていた。
「ご機嫌麗しゅう、スペランテ殿下。本日は何用で私をお呼びになったのでしょうか?」
「フレア王女、堅い。今ここには私達二人しかいないのだ。そんなに堅くしなくていいのだぞ。」
私がわざわざ丁寧に挨拶をしたのに対して、スペランテ王子はその必要はないと告げた。まあ確かに今二人だけしかいないけどさ!互いに王族で身分もほぼ等しいけどさ!というか何で二人きり?護衛とかなくていいの?
「…はあ、わかりました。では改めて。今日はなんで私を呼んだんですか?」
「以前、舞踏会でお願いしたことを覚えているだろうか。」
「ああ、なるほど。では、大丈夫でしょうが、一応魔法で外に会話が聞こえないようにしますか?」
「お願いしようと思っていたところだ。頼む。」
わざわざ私を呼び出したあたり、話したい内容というのは想定出来ていた。だから、合図を出されたのを確認してから、前に使ったのと同じ魔法で、部屋の中で行われた会話が聞こえないようにした。
「はい、これで外にこの部屋での会話は聞こえなくなった、はずです。」
「ありがとう。では、早速だが、一週間後だ。」
「…一週間後にルナを私がヘカテリア王国に秘密裏に連れて行けばいいんですね。」
「理解が早くて助かる。十日後にこの国ではもうそろそろ教会の過激派の強制調査を行う。その前にルナをこの国から一時的にでいいから出国した状態にしたいのだ。」
どうやら、この国では教会の調査をすることを決めたようだ。理由を尋ねてみると、どうやら教会での今の多数派は過激派らしい。過激派の考え方には魔法を敵視する、というものがあり、それが国の方針、まあつまりヘカテリア王国と友好的な関係を築きたい、というのと相反するからみたい。実際、調査で何か黒いものが出てくる必要はなく、国による調査を受けた、という事実だけでも欲しいみたい。そうすれば、今は少数派に甘んじている穏健派が多少有利になって国がやりたいことがしやすくなるだろう、という判断の模様。つまりはまあ、政治的な問題みたい。…これ私が聞いていい話?
「これでなんでルナを国外に連れていくって話になるんですか?」
ここまで聞いて、というかずっと疑問に思っていた点を確認してみた。
「以前も理由を説明したような気がしないでもないのだが、フレア王女はルナが今、魔女と疑われていると知っているだろう?」
「はい、話には聞いています。」
「調査が入る前に教会がルナに手を出すパターンが一番厄介だ。それを回避したいのだ。」
「わかりました。念のため、最後に確認したいことがあるのですが、この話を知っている人は何人いるのですか?」
「私とフレア王女、それと父上と母上、あとそなたの父上だけであるな。」
「かなり少ないですね。少なすぎてそれはそれで心配なのですが。」
「敵をだますならまず味方からと言うだろう?できるだけこの情報を知っている者は少なくしているのだ。」
その後、追加でもう少し話をしたのち、解散となった。最後に、スペランテ王子にこう頼まれた。
「私は貴方を信用しているのだ。妹を頼む。」
今までの会話にはほぼ間違いなく政治的な要素が混ざっていたが、この言葉だけは、それだけは、家族としての言葉であると感じた。
私が王城から出ようと、廊下を歩いていると、スペランテ王子と話す前にすれ違った男性とまたすれ違った。こいつやっぱなんか嫌な感じがするんだよなあ。
そんな想いを仕舞いこんでルナのいる離宮へと向かう。今日は実験とかじゃなくてちょっと昨日の夜に思いついたことの為にドラゴンの素材をもらいにいくのが目的。
「ルナー、少し用があるんだけどいい?」
「はい、なんでしょうか?」
「ちょっとドラゴンの素材をいくらか持っていきたいんだけどいいかな?」
「いいですけど、理由を聞いてもいいですか?」
ルナに理由を聞かれて、昨日思いついたことを話した。それは、
「ドラゴンの素材を使った剣とローブですか?」
「うん、そう。私って剣を魔法使うときの杖代わりにしてる面もあるんだけど、そこで考えたのがね、剣を作るときの金属にドラゴンの素材を混ぜたらそれを触媒としてドラゴンの魔法が使えるんじゃないかなって。ローブの方については鱗だけで作って〈ドラゴ・インビシブル〉用にする予定かな。ローブに関しては多分すぐできると思うからできたら持ってくるね!」
「はい、楽しみにしてますね。」
あとは、細々とした質問をしたり、世間話をしてから帰路に着いた。ルナが管理していた素材のうち、半分くらいもらえたからこれで色々と作れそうかな。あ、そうだ、これだけあれば作りたいもの作っても余裕あるし、ルナに何か作ろうかな、例えば、ドラゴンの魔法を使えるレイピアとか。よーし、色々と設計するのが楽しみだなあ。
夕暮れの中空を駆ける彼女の影は伸びていく。そんな彼女は知らなかった。これから巻き起こることはエクスマキナ王国の政治的な問題では収まらず、自分自身、そして、ルナの在り方を大きく変えてしまうことを。
***
「やはり間違いないだろう。」
「軍が調査の用意をしている、ということが軍内部の信者より報告されていますが、どうしましょうか教皇様。」
「では、こうしましょうか。魔女に裁きを施すことによって、私たちが正しいということを神の名のもとにこの世に示しましょうか。」
そう言って、白髪の妙齢の男性、教皇テラニア・ボーガンは不敵な笑みを浮かべるのであった。
モチベが高いので投稿頻度しばらく高めです。多分書きたいところまで全力で走ると思います。