第41話:ドラゴ・インビシブル
あの後、外に出した機材を部屋に戻して軽く今日実験でわかったことをまとめたら外はもう暗くなってしまっていました。
「それじゃ、私は一回国に帰らせていただきます。」
「はい、気をつけて帰ってくださいね。」
何故かフレアが普段しないような話し方をしている中、別れの挨拶を交わしました。
「ま、どうしても確かめたいことがもう少しあるから明日また来るんだけどね!」
そう言い残してフレアは飛び去って行きました。フレアの姿が星に混じっていくのが見えます。それを見届けた後、私は部屋の中に戻りました。そこにフレアが置いていったメモを見つけました。どうしても気になったので読んでみましたが、やはり魔法的な話はイマイチ理解できません。
「ルナ、フレア王女はまだいるか?」
読み込んでいたところ、扉の向こう側から声が聞こえました。お兄様ですしょうか?
「いいえ、少し前に帰りましたよ。どうしたのですか?お兄様。あ、扉に今は鍵かけていないので入っても大丈夫ですよ。」
そう言うと、扉が開く音が聞こえました。その方向を見ると、スペランテお兄様が入ってくるのが見えました。
「それで、何用ですか?」
「フレア王女に用があったのだが、次に来る日はいつかわかるか?」
「明日また来るみたいです。まだやりたいことがあるそうで。」
「では、今日の明後日、つまり、明日の明日に王城で私のところに来てほしいと伝えてほしい。」
「わかりました。その理由については聞いても?」
「国同士で少しやりとりをしていてな。そのことについて直接話したいのだ。」
「では、明日会ったときに伝えておきますね。」
「ああ、頼んだ。それでは。」
そう言い残してお兄様は帰っていきました。しかし、フレアとお兄様は何かやりとりをしていたのですか。…なんか少しもやもやしますけど、まあやり取りの中身的には気にするほどでもなさそうですね。明日いつ来るかまでは言っていませんでしたが朝一で来る可能性もあるので今日は早めに寝てしまいましょうか。そう考えて、さっき読んでいた物をキリがつくところまで読み切り、そのままバタンとベッドへと倒れこむと体と一緒に意識も沈んでいきました。
翌朝、朝食を食べて、本を読んでいたところ、外から何か物々しい音が聞こえました。窓から外の様子を伺うと、見慣れた金色の髪が見えました。その髪の持ち主もこちらに気づいたようで手を振っています。部屋を出て、外に現れた人物、フレアのもとに向かいました。
「やっほー、ルナ!朝一で来ちゃった!」
私の姿を視認したフレアはそう言って駆け寄ってきます。まさか本当に朝一で来るとは思っていませんでした…。
「はい、おはようございます。今日は昨日の続きをする感じですか?」
「うん、そのつもりだね。昨日、部屋で考えてたんだけどなんか、ドラゴンの魔法が一つ足りないような気がするんだよね。」
「一つ足りない、とは?」
私が尋ねるとフレアはこう答えました。どうやら、今わかっている魔法では最初のドラゴンとの遭遇時に、何もない空間から出現したことが説明できず、それに関する魔法があるのではないか、と推測しているようです。
「で、それを今日は見つけるのが目標かな。ルナは何か確かめたいこととかある?」
「私は特にないですね、魔法的なことはイマイチわからないので。なので、フレアのやりたいことに合わせますよ。」
「オッケー。これで決まりだね。じゃあ早速機材を外に運び出そうか。昨日みたいに事故起こしたくないしね。」
その後、実験の打ち合わせをしながら、機材や使う材料の外への運び出しを行いました。昨日と同じようにフレアが機材を一人で移動させていましたが、魔法の力で筋力を上げているようで、軽々と持ち上げていました。私はその横で各種材料を持っていましたが、普通に重くて苦労したので改めて魔法は面白いもので、そして便利であると思いました。
「んじゃ、昨日粗方試したはずだけども再度最初から確認してみようか。」
そうフレアが言って、今日の実験が始まりました。
しかし、日が天頂を過ぎ、沈みかかったときになっても、新しい魔法は見つかりませんでした。
「ん-、見つからないなあ。これどうしようかなあ。ないと割り切るべきなのか、でもそれだとやっぱりドラゴンが急に出てきたことが説明できないし、どうしよう。」
そう言って腕を組んでうなっているフレア。何か考え込んでいるようですが、私が指摘できることは既にすべて指摘し尽くしてしまいました。うだうだしていたフレアが何か考えに行き当たったようで少しうなだれながらもこちらに向かってきて、肩に手を置いてきました。
「ダメだ、何も思いつかない。助けて。」
「そう言われましても、私は正直魔法的なことはわからないので…。」
フレアの懇願するような声を聞いてもそう答えるしかありませんでした。結局、あきらめて機材などの片付け作業に入ろうとしたときのことでした。
「ねえ、ルナー。機材にセットしてあった鱗知らない?」
フレアにそう言われて、私も機材を確認してみると、確かに最後に試した組み合わせで使っていた鱗が一枚消えていました。
「あれ、本当ですね。ここにあったはずなのに。」
私がそう言ってそこに手を伸ばすと何かが当たる感覚がしました。そして、
「あれ?ルナが持っているそれってドラゴンの鱗じゃない?」
そう指摘されて、手に持っている物を見てみると、確かにドラゴンの鱗でした。試しに手を離してみると、鱗は見えなくなりました。あれ?これって。
「待って、これが探していた魔法じゃないの!?ルナ、お手柄だよー!」
私が何か言う前にフレアが思いっきり抱き着いてきました。
「待ってください、せめて再現性だけでも確認してみないと本当にその姿を消す魔法なのか確定できないですよ。」
そう言うと、あ、うん、そうだね、と言ってフレアが慌てた様子で離れていきました。
その後、再現性を試すために様々なことを確かめてみました。結果としては、まず、魔法の名前は〈ドラゴ・インビジブル〉。そして、その効果はドラゴンの鱗の透明化、というのも少し違いますね。周囲の風景と同化している、というのが正確なのでしょうか。恐らく、これを使って風景と同化していたのでしょう。次いで、もう一つ。どうやらこの魔法は他の魔法との併用が不可能であり、かつ一度魔力を注いでさえしまえばしばらくはその効果が続くらしいです。私自身で確かめたわけではないのであくまで伝聞ですが。
「ふう、満足した。これでドラゴン戦の開幕が説明できる。」
ホクホク顔のフレアはとても嬉しそうです。それを見ている私も嬉しくなってきます。
「じゃあ今日は片付けだけして戻ろうかな。最後の実験でだいぶ時間使っちゃってもう暗くなってきちゃったし。さらに細かいところを詰めるのは次の機会ってことで。」
そのフレアの声が合図となって、今日の実験の後片付けが始まった。
そして、別れ際、昨日お兄様にお願いされていたことを思い出しました。
「あ、そういえばお兄様が明日、王城で会いたいと言っていましたよ。」
「ふえ!?明日かあ、急だなあ。わかった。それじゃ昼過ぎに行けるようにするから伝えといて。それじゃあ帰るね。」
そう言ってフレアは昨日と同じように東の空へと飛び去っていきました。また会いましょうね、フレア。
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