閑話:フレア王女の日常
「母上、やめて、タイムタイム、それ以上はまずいってー!」
私−フレアニア・フィア・ヘカテリア−は今、ちょっとした模擬戦中。
なぜこうなってしまったのかというと、事の発端は祝勝会まで遡る。どうやら母上はまあ案の定、私が魔法を使ったことに気づいていたみたい。使ったこと自体には特に言及もされなかったし話していた内容も聞きはされなかったんだけどね。でも、どうやら母上は魔法の制御とか精度に不満を持ったらしくて。曰く、この国の人が魔法を使えないからまだいいけども我が国ではバレますからね、とか、同じことをされたら相殺されて無意味になるとか。で、その結果として、魔法の特訓を母上自らそのときの礼儀作法とかの件の説教込みでやる羽目になってしまった。そのときの礼儀作法は母上的には不合格だったらしい。私頑張ったのに…。ルナと比較とかしてないよね?そうだよね?
で、先に述べたように説教も込みでの魔法の特訓、という形になっちゃったから模擬戦形式になったんだよね、それもかなりスパルタな。だって母上が模擬戦用の装備で出せる全力出してきてるんだもん。
そして、その結果がこの状態である。私は母上の使っている魔法によって近づくことができない。一方、母上はその中から矢を何本も同時に、そして連続に放ってくる。その魔法は〈サンダリング・カタラクト〉。内容としては母上の周りに雷の網を形成する魔法。母上はこの国で最強の一角と言われているけれどもその一番の要因はこれだろうね。この壁を突き破るのは至難の業。正直、突き破れないこともないけれどもそのためには剣に魔力をいつも以上に込めないといけなくて。そんな隙を母上は与えてくれない。結果として、私が攻めあぐねている間に一方的に攻撃されるということになっちゃってる。
「〈ファイア・バレット・フルバースト〉!」
「そんなもので私の魔法を崩せるとでも、フレア?」
私の放った炎の弾丸は雷の網によって捕捉され相殺によって、爆発が起きる。その奥から雷を纏った矢がざっと数えて五本、さらにその後ろに五本見える。
「やっば、〈アイス・バリア〉!」
私は咄嗟に目の前に氷の壁を生成する。刹那、それは消し飛ばされる。すぐに次がくる。そちらは二本の剣に魔力を突っ込んで弾く。
「まあ、もういいでしょう。これで終わりにしましょう。」
結局、母上が私を解放してくれたのは模擬戦を二十分したくらいのときだった
「今回の評価ですが、まあ七十点くらいですかね。前回は六十点だから少しだけ上がりました。」
「全っ然、嬉しくないんだけど、母上。」
私は地面に両手両足を投げ出していて、それを母上がのぞき込む形になっている。
「まず良かった点から。ある程度フェイントを混ぜられるようになってきましたね。あと、魔法の発動速度も上がっています。」
どうやら、ルナとの剣舞はかなり私にとって有意義だったみたい。魔法の方は多分ドラゴン戦のせいかなあ。
「一方、悪いところ。まず、私の魔法を突破しようとしてこないところ。フレアなら同じ魔法をぶつけて相殺できるでしょう?」
「母上、私、あの魔法を動きながらは使えないんですけど。」
そう、私も〈サンダリング・カタラクト〉を使うことはできる。できるんだけども、動きながら使おうとすると純粋に制御が難しすぎて使えないんだよね。棒立ちでなら使えるんだけど。
「言い訳はいいです。他に、基本的に矢を避ける動きをしなかったこと。剣で弾くか魔法で壁を作って防ぐ以外していませんでした。」
「だって、そっちのが楽なんだもん…。」
「そうしていると、いつか足元をすくわれますよ。」
そのあとも母上による一方的な反省会は続いた。
それらが終わって王城へと戻る最中、母上が口を開いた。
「そういえば、貴方はエクスマキナ王国のことをどう捉えましたか?」
私は少なくとも敵対する意思はなさそうなこと、魔法がなくとも、戦えるだけの技術力をもっていることを伝えたうえで、私見として、こちらも敵対すべきではない、むしろ友誼を結ぶべきと考えていることを伝えた。
「そうですか、参考にはさせてもらいます。それと、ルナ王女については?」
「んー、天才だと思いますよ?それと同時に真面目で誠実であろうとしてたかな。大人びている感じ。私よりよっぽどね。」
「貴方はどう思っているのですか?」
「大切な人かな。一緒にいたい感じ。」
それを聞いた母上は少し意外そうな表情を見せた。
「…そうですか。大切にしてあげてくださいね、フレア。」
「はい、もちろんです。」
その後、王城に着いた後、二人は別れた。そんな中、ソラエル・リラ・ヘカテリア―フレアの母で現王妃―はフレアとの会話、正確に言うとその時のフレアの表情を思い出していた。
「あの顔は間違いなく友情以上の感情を抱いていますね。どちらにしてもこの件は少し様子見です。」
フレアがルナをどう思っているか答えたときの顔、それはフレアが今までに見せたことのない顔で、それを表すような言葉は一つしか思いつかなかったのだから。
「んー、疲れた!でも次にルナに会いに行くための準備もしないとね。」
一方、フレアはそんなことも露知らず、ドラゴンの素材解析の準備を進めていた。そのときに再会するルナのことを想いながら。
これで閑話は終わりで次から新章です。
面白いと思って頂けたらいいねやブックマークを頂けると作者が跳んで喜びますので、是非是非お願いします!