第37話:二人の王女と交換留学の終わり
「ん-、よく寝た。」
今日は私―フレアニア・フィア・ヘカテリア―の交換留学の全日程が終わり、国に戻る日だ。祝勝会が一週間前。最後にルナとバルコニーで踊っていたのを誰か咎めてくるか心配ではあったけど特に言及はなかったから杞憂で済んだみたい。それから今日まではアカデミーでの講義とかあと空いている時間を使って私達のものになったドラゴンの素材の解析を試みたりしていた。前者については十分に慣れたし内容もしっかりと理解できるようになったからほんとに有意義な時間だった。
後者については、正直あまり進展はなかった。まず、鱗やら骨とかの素材について、こっちは魔力浸透率や魔素浸透率がかなり高い素材だということがわかった。代わりに物理的な強度は思ったよりも強くなくて、強化魔法を使って剣で切るとあっさり真っ二つになって、ルナが銃で撃つと、弾が貫通した。ここからわかったのはドラゴンの魔法なしでの耐久性能はあまり高くなかったこと。じゃあなんで私の攻撃でのダメージが著しく低かったのか、これはほぼ魔力障壁と強化魔法の効果によるものだと思う。で、ここでドラゴンの魔石の話になるんだけど、どうやら死んでもなお魔石とドラゴンの各種素材間に何か魔力的な繋がりを感じるんだよね。ただ今ある機材じゃその繋がりが具体的に何のためにあって、何の役目をしているかまでは解析できなかった。先にわかったことと合わせると各種魔法と関連が間違いなくあると推測はできるんだけど、確定はできない。まあ、つまり、一回私が国に戻って必要な機材を持ってこないとこれ以上は進捗が得られない状態になっちゃった。そういうことでドラゴンの素材の解析は一旦保留、ということで話がまとまった。
そして、今日の日を迎えた。私は今、昨日のうちにまとめた荷物の確認作業をしている。それと同時に、祝勝会の日のことを少し想起していた。正直、私の気持ちについて、まだ自分の中で確信できた感じはしない。
「結局、私はルナのことをどう思ってるんだろうな。」
思い浮かぶのはドラゴン戦で私を助けるために駆けてきたルナの姿。本当にかっこよかった。そして、奇麗だった。あの光景が脳裏からはがれない。ああ、ダメダメ、ドキドキしてきた。んー、多分この感情は好き、ってことなんだろうけど、確定するのがどうしてもためらわれる、うーん。
「すみません、フレア、入りますよ?」
私がルナのことで悶々としていると、その当人が扉越しに声をかけてきた。
「えっ!?あ、うん!入って大丈夫!」
慌てて返事をすると、ルナが部屋の中に入ってきた。そして、広げてあった資料とかを片付けた結果、がらんとしてしまった私の使っていた部屋を見回す。
「今日、貴方はここを発ってしまうのですね。またすぐに戻ってくるといってもやはり寂しいものです。」
「ルナも?私も。まあ、ドラゴンの素材の解析のためにすぐに戻ってくる予定だけどねー。」
寂しさを紛らわすようにそう言った。
「片付けはほとんど終わったのですか?」
「だね。もうこれだけ確認したら完全に用意終わり。」
そう言って、私は最後に整理している荷物―講義資料―をチェックしていた。この内容、最初は理解できなかったんだよなあ。今ではルナに教えてもらったおかげで大体は理解できるようになったんだけど。ほんとにルナに感謝だよ。
そして、確認し終えて、荷物の中に仕舞う。
「さて、行こうか。荷物の運び込みしないとだし。」
「ですね。では、行きましょうか。」
その顔にはさっきの通り寂しさの感情が見えた。
荷物の運び込みが終わり、私が王都を発たなくてはいけない時間になってしまった。
「ルナ、まあ、多分すぐに機材持って戻ってくるけど一回、さよならだね。」
「はい、さようなら、また会えるまで。」
今まで一緒にいたルナとしばらくはいれなくなることを考えてしまうと、なんか居ても立っても居られなくなってしまった。感情のままにルナに思いっきり抱きつく。
「どうしたのですか?」
「いや、なんかこうしたくなっちゃって。いやだった?」
「嫌じゃないですよ?」
そう言ってルナも抱き返してくる。伝わってくるルナの体温が心地よくて、すぐにこの温もりを離さないといけないと思うと残念に思ってしまう。互いに少し離れるとルナに頭を撫でられた。
「では、改めて、また今度。」
私が完全に不意を突かれてしまってドギマギしてしまっていると、ルナが挨拶をしてくる。
「え、うん、また今度。」
そう言った後に馬車に乗る。そして、私が乗ったのを確認したからだろうか。馬車が動き出した。
「また、すぐ会いに来るからね。ルナ。」
私は改めてそう心に決めるのであった。
* * *
フレアの乗った馬車が地平線の向こうへと消えていきます。ドラゴンの素材関係でまたすぐに会えるとはいえ、やはり少し寂しいものです。一緒にいるのは心地よかったもので。
「すぐに会いに来てくれることを期待していますよ。フレア。」
今回で二人の出会いの物語はおしまいです。少し閑話を挟んだ後に、新たな物語へと突入予定です。
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