第36話:二人の王女と祝勝会(3)
ついに、ついに!感想を頂きました。とても嬉しく、モチベも上がりました!!
私―フレアニア・フィア・ヘカテリア―は今逃げ込むようにして舞踏会の会場にあるバルコニーに出てきていた。理由は二つ。一つはまあ、正直スペランテ王子以外のこの国の貴族がきつすぎたこと。いやね、パッと見た感じは礼儀正しいんだけどね、なんというかその裏に若干卑しい感情が見え隠れしてるのを感じたんだよね。実際何人かはその感情が言葉に出ちゃってたし。社交辞令として容姿について美しいとかきれいですね、はまあこういう場ではいつも言われるようなことを最初に言われるんだけど、その後の踊りながらのやり取りがまあひどかった。なんか婉曲的に私を口説こうとしてきたんだよね。その果てには私の体についての言及までやってきたとんでもない輩までいた。貴方は魅力的ですね、とか言いながら顔じゃなくて胸元を見てきたりしてきやがった。バレてないと思ったのかねえ。正直すごい悪寒を感じたよね。こんなデカいもん邪魔なんだけどなあ。大きくなり出す前は弓も得物として使えてたのに、今じゃ弦が当たって痛くて使えたもんじゃない。まあ、中には純粋に私に対して興味があってダンスに誘ってきた人もいたからまだいいんだけど。とはいえ、さすがに不快感に耐えきれなくなってきちゃった。
もう一つはまあ、スペランテ王子に私の感情について言及されたのがずっと頭の中でぐるぐる回ってたってこと。ダンスのときも無意識にルナのことを目で探していることに気づいちゃうし。その度に顔が熱くなるのを感じちゃって、それを見た相手に勘違いされて詰めてこようとされちゃうし。まあこのことが一つ目の理由で逃げだすことを加速させたのは事実。でもそれ以上にやっぱり、私がルナをどう見てるのか、正確に言うとどのような感情を抱いているのかわからなくなっちゃった。どんな顔をして面を向き合わせればいいのかわからない。こうしてルナのことを考えていると、また顔に熱を感じる。これ何回目かなあ、もうわかんないや。今は会場の方じゃなくて、城下の方を見ているからこの顔は見られてないはず、はずだよね?
「あれ?フレア?ダンスはいいのですか?」
「ふえっ!?」
私がルナのことを好きなのかどうか、そして、その好きの意味はなんなのか、という問いに答えが出せず、悶々としていると、不意に後ろから声をかけられた。考え事をしていたとはいえ普段は後ろから誰か来たら気配でわかるはずなのに全くわからなかった。振り向いてみると、そこにはルナがいた。
「どうかしましたか?少し顔が赤いようですが。熱でもありますか?」
「え?まあうん、大丈夫。うん。」
私の動揺が伝わってしまったのか、それとも本当に心配してくれているのか、何か不安そうな顔でこちらに近づいてくる。そして、その距離は0となり、私の額に額がくっついた。そこからルナの体温を感じる。
「!?!?!??!?!?!?」
「熱はなさそうですね。ん?どうかしましたか?さらに顔が赤くなったような気がしますが。」
声にならない声を上げてしまっていると、ルナが額を離して一歩下がった。その温もりが離れて行ってしまうのを少し寂しく思ってしまう。それはそれとしてこのままルナのペースに乗せられていたらどうかなっちゃう気がするから一回こっちが主導権を握らないと。
「わ、私のことは大丈夫だから、心配しないで。ところで、ルナはなんでここにいるの?ダンスとかはどうしたの?」
「それはフレアにも言えることじゃないですか?」
そう少し聞き返してきたけれどもまあ、まず、私が答えますか、と言ってその理由を答えてくれた。曰く、どうやらルナも私と理由は同じような感じらしかった。自分に対して気を持ってもらおうと必死な貴族の相手に嫌気が差したみたい。もちろんそんな気を感じさせない貴族もいたらしいけどやっぱり少数だったみたい。
「まあ、疲れましたよ。やっぱりこういう場は得意ではないです。他人の思惑とかそこらへんが見えるので。やはり、純粋に好奇心などで動いてることの多い学会とかアカデミーの方が落ち着きます。」
「その気持ちはわかるなあ。私もこういう政治が絡んでくることの多い社交の場よりも研究に使う自分の部屋とか魔物と戦う平原とかの方が楽だから。」
「その感じだとここに来た理由は私と同じ感じなんですかね?」
そう言ったルナは私の隣まで来てバルコニーの柵に手をついた。その横顔に見惚れてしまいそう。
「ねえ、フレア。貴方はこの城下を見てどう思いましたか?」
ルナの視線の先には城下があった。
「んー、そうだなあ。私の国の城下町とは眺めが全然違うなって。」
「と言うと?」
「私の国では夜に城下はこんなに明るくないの。魔道具での街灯はあるけど数が少ないから。」
私達の目下に見える城下町は街灯の光が道沿いに見えており、星のようにも見える。
「そうなんですね。この景色を貴方は好きですか?」
その言葉に少しドキッとした。あくまでこの景色に対してのものなのに。
「え?んー、好きか嫌いかなら好きかな。」
「なら、よかったです。」
そう言うとルナは城下から私の方へと視線を移して笑みを浮かべる。
「私はフレアに好きになって欲しかったんです。私の生まれ育ったこの国を。」
そう言うルナは珍しく表にはっきりと感情を出している。その感情は喜び、かな。それを見ていると、あることを提案したくなってしまった。丁度宴会場では何度目かわからないけれども曲が変わるのが聞こえた。
「ねえ、ルナ。お願いがあるんだけど。」
「はい、なんですか?」
「私と踊ってくれない?ほら、ルナってエスコートもできるでしょ?」
「え、ええ。できますけど。それはどうなんですかね?その、立場とか。もし、見られていたら好奇な視線を向けられかねませんよ?」
「大丈夫、大丈夫、私は気にしないから。」
「いや、私が気にするんですけど、いや、大丈夫です。」
ルナは何か観念したかのような言い方をしたのち、私へと手を差し出してきた。普段とは違い、ドレスを身に纏うルナは改めて見ると格段に美しく見えた。私がルナのことを好ましく思っていることを自覚したせいなのかな?青色のドレスに銀髪が映えている。それがなんだか神秘的にも見えて。
「では、改めて。私と踊ってくれますか?」
「はい、喜んで。」
私はその手を迷いなく取った。そして曲が流れだす。
「しかし、練習ではなくこういう場で踊ってみると何か恥ずかしさを覚えますね。」
「うん。でも、私はこうしていたいから。」
ルナは私のことを一瞬怪訝そうな目で見てきたが、すぐにそれを消し、私の方を見てきた。その瞳に見つめられていると、私の気持ちとかすべてを見透かされているような気がして…。
このダンスは音楽が止まり、宴の終わりまで続いた。
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