第35話:二人の王女と祝勝会(2)
「最初に私を誘ったということは私と何か話をしたいんですよね?」
「まあ、そうだな。色々と聞きたいことはあるのは事実だ。」
私―フレアニア・フィア・ヘカテリア―はこの国、エクスマキナ王国の第一王子―スペランテ・ボナ・エクスマキナ―が差し出してきた手を少し考えた後に手を取ることにした。真っ先に来たあたり多分純粋に私と踊るだけが目的ではないと感じたからね。
「その内容は周りに聞かれても問題ないものですか?」
「問題ないものとあるものが混ざっているな。まあ後者についてはこの場ではなくそれこそ離宮などで聞けばいいのだがルナに聞かれる可能性があるのがな。」
どうやら話と言うのはあまりルナに聞かれたくない内容みたい。そこで、私は小声でこう提案した。
「では、私が魔法で会話を遮断しましょうか?」
「そんなことができるのか?できるのならばお願いしたいのだが使ったことがバレたりしないだろうか。」
それについては少しだけ懸念がある。まず、魔力がないからエクスマキナ王国の人は気づかないと思う。でも私の国の人は?人によるけど多分いくら偽装しても気づく人は出ると思う。私の母上は絶対に気づくだろうなあ。他には兄上とかも気づくかもしれない。
と、この旨を伝えてみた。
「ふむ、まあそれくらいなら問題ないだろう。お願いしていいだろうか。」
「はい、分かりました。」
魔法を使う許可が出たから魔法を用意する。仕組み自体は単純で互いの声が聞こえる範囲を二人だけになるように風魔法で制御するだけ。あとはこれを維持すればいい。魔法を発動し終えたくらいで会場に流れる音楽が完全に切り替わった。そして、踊りの場へと変化した。
「私達も踊ろうか。本意ではないかもしれないが。」
「ですね。残りの話は踊りながらで。」
そう決めて私達も踊りの中へと混ざっていく。
「さて、では早速だが、ドラゴンの戦いはどうだったのだ?」
「それはどちらの話で?」
「実際にあったことだな。先に言っておくと私もルナが何をしたのかは聞かされていて把握しているぞ。」
どうやら聞きたいことのうちの一つはドラゴンとの戦いみたい。まあ実際に起きたことを聞きたいなら聞かれたくないよね。厄介なことになりそうだから公表した内容は改変されたものにされたんだし。
とはいえ、あらましを知っているなら話してもいい、と判断して私がドラゴンの足止めをし、ルナが王都へ救援を呼びに行ったこと、ルナが戻ってきて私の攻撃が通らなかったドラゴンにあっさりと傷を負わせたこと、そして、その時には魔法のような、それでいて魔法でないものを使っていたこと、などを話した。
「魔法のような魔法でないもの、か。それはどのような基準で判断したんだ?」
「それを使ったときに私が魔力を感じたかどうかですね。少なくとも、私の国での魔法は発動するときに魔力を感じるものなのですが、ルナからはそれを一切感じなかったんです。」
「そうか。」
その一言を口にした後、スペランテ王子は私から目をそらした。しかし、それも一瞬ですぐに元のように顔を合わせてくる。
「あの、それがどうかしたんですか?」
「少しばかりまずいことになった可能性があってな。前に魔女の話をしたのを覚えているだろうか。」
確か最初にスペランテ王子に会ったときに言われたような…。私が魔女に見られる可能性があることとあと教会に気をつけろ、だったっけな?
「はい、覚えていますが、それが?」
「まず、今の貴方とあとルナのこの国での評価について話しておいた方がいいな。」
そう切り出して話したのは私達のこの国での評価。どうやら私達はドラゴンの討伐によって英雄として見られているらしい。王都に迫ったドラゴンを討伐した二人の王女。一方、私が魔法を使って倒した、そして、ルナが王都内で緊急時とはいえ堂々と魔道具を使った、という事実は教会の熱心な信徒を中心に反感を買っているらしい。まあ魔女をなんか敵対視しているみたいだしそりゃそうだよね。
「んー、なるほど?大体私の予想通りかな。」
「で、だ。ここからが問題なのだが。教会の勢力は地味にだが国の中枢に入り込んでいる部分があってだな。」
「…それってつまりドラゴン戦の真実が教会側に伝わる可能性が存在すると?」
「察しがいいな。その通りだ。そこで相談なのだが、どうにかルナをこちらが教会の過激派の駆除をするまでそちらで預かってもらえないだろうか?」
とんでもない話が出てきた。いや、教会の過激派を駆除ってどんな言い方よ。害獣かなんかみたいな。
「はあ。外交が絡む話ですし、私がここで即答するのは難しいですね。私としては若干都合がいい面もあって賛成なのですが国として考えるとどうしても貴国との火種を抱えてしまう可能性が出てきてしまうので。」
「まあ、そうだろうな。できるだけ早めにそして内密に貴国へ改めてこのことを相談する予定だ。返事はそれ以降になるだろう。」
「そうですね。」
しかし、思ったよりもまずい状況になっている?
「このことをルナに伝える予定は?」
「決定してからだな。今のところドラゴン戦のときのような力をルナは使っていないのだろう?」
「みたいですね。本人曰く、感覚すら思い出せない、とのことで。」
「とりあえずルナがその力を使っているところを直接確認される可能性は低いのだな。ありがとう、フレア王女。」
どうやら、聞きたいことについてある程度聞き終わったのかそこで一息入れてきた。
その後はまあ、当たり障りのないような感じの話だった。危うく、国家機密を言いそうになったけどまあ誤魔化せたからいいよね、うん。内容的にもこの国では意味ないようなものだったし、うん、大丈夫。
もうそろそろ三曲目の曲が終わるころだろうか。
「そういえば、これは完全に個人的な質問なのだが。」
「はい、なんでしょうか。」
「踊っているときに時々私ではなく別の何かを見ているときがあったか?」
え?別の何かを見ていた?実際心当たりもないから疑問符が浮かび続けてしまって首を傾げるしかなかった。
「自覚なしなのか?一応誰を見ていたのか私は予想がついているのだが。」
「はあ?予想ですか?」
「多分ルナ、だろう?」
…はい?んー、そう言われるとどうなんだろ。ルナの話題の時にルナが視界内に入った時は見てた可能性はあるけども。そんな気になるほどだった?
「恐らく視界に入っているときはずっと目で追っていたんじゃないか?ってくらい見ていたと思うぞ?」
「…そんな気になるレベルでですか?」
「ああ、気になるレベルでだった。」
あー、マジでかー。私が気づいていなかったってことは完全に無意識だったかな。
「もしかして、好きなのか?」
「はえっ?」
やばい、変な声出た。ルナのことを私が?そう考えるとなんか顔に熱を感じてしまう。
「その反応はもしかして本当に意識していなかったのか。変に藪蛇を突いてしまったようだな。」
スペランテ王子は肩をすくめてそう言っているけど私はそれどころではない。はうう、ちょっと待ってよ。これから私はどんな感じでルナに接すればいいのさあ。多分この人の言った好きって友情的な意味じゃないよね?ん-、んー。
「では、もうそろそろ終わりにしようか。」
唐突に投げつけられた爆弾のせいで悶々としていると、私から聞きたいことを聞き終わったのだろう、スペランテ王子がペアの解消を申し出てきた。
「えっ、あっ、はい。わかりました。ありがとうございました。」
そう言って慌てながらもカーテシーをして一礼をする。それと同時に使っていた魔法を解除する。
そのまま去っていくスペランテ王子の背を見送りながらも私は最後に突きつけられたものについて向き合おうとした。でも、どうやらそんな余裕は与えてくれないらしい。よく考えなくてもわかることだけども私って隣国のお姫様なんだよね。まあつまり取り入ろうとする人が出てくるわけで。この国の王子が離れたのに気づいたこの国の貴族たちが次は私も、という感じで押し寄せてきてしまった。
私は今、そんな余裕ないのに!!
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