第32話:瞬くは虹の閃光
私―ルナモニカ・フォン・エクスマキナ―は彼女―フレアニア・フィア・ヘカテリア―とその相手―ドラゴン―との戦いに魅入ってしまっていた。今、フレアはドラゴンの周りに魔法陣を複数展開した。恐らく私の前で使ったことのない、大規模な魔法を使う気なのでしょうか。瞬間、魔法陣で囲まれた領域内が炎で満たされた。地上にいる私が少し熱を感じるレベルの炎でした。
―しかし、それすらもドラゴンにとっては致命傷になっていないようです。
それ以降、フレアは攻撃を仕掛けなくなってしまいました。いや、正確にはそんな余裕がない感じなのでしょうか?魔法をすべて防御と回避のために使っている感じがします。とは言え、時間稼ぎには成功している印象です。恐らくあと三十分、三十分も耐えれば軍がドラゴンを射程圏内に収められるはず。…射程圏内に収めたところで傷を与えられるのでしょうか?フレアの火力が通じてないのでどこか不安です。
しかし、事態は軍の到着を待ってはくれませんでした。
フレアの態勢が急に崩れました。箒は持っていませんが、あの崩れ方は初めて会ったときと同じような?守りに徹しているとはいえ拮抗状態だったところでこれです。そんな状況でフレアが隙を見せたのです。ドラゴンがそれを見過ごすはずもなく。ドラゴンの口で何かが瞬くのが見えました。あれはもしかして本にあったブレス?今の状態のフレアがあれを食らってしまえば…。
それに気づいたとき、身の毛がよだちました。そして、考える前に銃を構えていました。一発、二発、三発、弾を撃てるだけ放ちました。しかし、ここは地上で、空高くに存在するドラゴンまで届くはずもなく。弾を撃ち切っても届いたものはやっぱりありませんでした。
(このままじゃフレアが、死んじゃいます。それは、嫌!)
そう思ったとき、私は弾切れとなったはずの銃を構え直していました。まるで、そうすればその気持ちの答えが出てくるかのように。ドラゴンの頭を標準に収めた後、引き金に指を当てました。その時―
銃口から虹を纏いし閃光がドラゴンめがけて放たれました。
その閃光はドラゴンまで減衰することなく届き、頭に命中しました。私はそれを認識する前に無意識に次の行動に移っていました。持っていた銃を置き、腰に掛けていたレイピアを抜きます。そして、空へと駆け出していました。まるで、それができることを知っていたかのように。無我夢中に、フレアを助けるためにドラゴンまで接近し、さっきと同じ閃光をいつの間にか纏っていたレイピアをドラゴンに突き刺していました。
***
虹の閃光が瞬いてドラゴンに直撃した。そして、ドラゴンの悶絶するような声が響き渡った。嘘でしょ、通じてる。でも、どこから?その答えは下から迫ってきていたみたい。
「はああああああああああああああああっ!」
その声は最近では聞き慣れたものになっていたルナの声だった。ステップを空中で踏んでこちらに向かってきている。その手にはさっきの閃光と同じ色を纏ったレイピア。それを、ルナはドラゴンの首に突き刺した。そう、突き刺したのだ。
(嘘でしょ?私の攻撃でもほとんど通らなかったのに。何より―)
なんて奇麗なの。閃光の余波の残る中にいるルナはその閃光の幻想的な雰囲気と合わさって見惚れてしまいそうになる。。
「フレア!!」
ルナのその声で私は我に返った。それと同時にルナが私の隣に立っていることに気づいた。私を支えてくれていた。
「フレア、お願いがあります。」
「色々と聞きたいことはあるけど、何?」
「私がドラゴンに刺したレイピア、あそこに全力で雷を注ぎ込めますか?」
「…わかった、やってみる。けど今魔法がうまく制御できなくて…、ってあれ?」
いつの間にか魔法の制御が戻ってきてるんだけど、なんで?一方、相対するドラゴンは横合いからの閃光とレイピアによって動きが鈍くなっている。今なら近づけそう。
「ルナ、行ってくるね。」
「はい、最後は任せましたよ。」
その声を聞いた後、一気にドラゴンとの距離を詰める。手負いになったドラゴンは私の接近に気づくと最後の抵抗と言わんばかりに暴風を巻き起こす。でも、それはさっきまでの緻密なものとは違う。これなら!!
魔法の隙間を通り、ドラゴンの首元に迫る。目指すはルナの残したレイピア。そして、手が届いた。
「これで終わらせる!〈サンダリング・フルバースト〉!!」
雷の閃光が瞬いた。その雷は首のレイピアを通してドラゴンの体内へと流れていく。そして、神経を通って、全身へと雷が浸透していく。それは当然脳に対してもである。
ドラゴンが地へと堕ちる。
それと同時に私の体が重力に引かれたのを感じる。どうやら魔力をすべて使い果たしちゃったみたい。この高さから落ちて生き残れるのかな?ドラゴンを倒せたしまあ、いいかな。満足しちゃったや。そのまま運命を受け入れてしまいそうになっちゃったけど、
「フレア!」
ルナが落ちていく私を両手で支えてくれた。そして、そのまま少しずつ降りていき、ルナは地面に立った。
「フレア、大丈夫ですか?」
ルナが私の顔を覗き込んで聞いてくる。そのとき、私がルナにまあ、所謂お姫様抱っこをされていることに気づいた。顔が少し熱くなるような感覚を覚える。
「ルナ、とりあえず下ろして、ねえ。」
ルナは素直に私を下ろしてくれた。うう、下ろしてもらっても何故か顔の熱が収まらないなあ。なんなんだろ、これ。そこでふと全身の体が抜けて倒れそうになる。魔力だけじゃなくてやっぱり体力もなくなっちゃったかなあ…。ルナがすぐに私を支えてくれた。そして、ルナは支えたまま座って膝枕の体勢になった。
「ごめん、ルナ、私魔力も体力も使い果たして疲れちゃった。ちょっとこのまま寝ちゃってもいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ。少ししたら軍が来ると思うので、それまでですが。」
それに対して軽く頷くと、ルナの膝の上ですぐに意識を手放してしまった。
あと2話でこの章は終わりの予定です。
少し補足すると、ルナの攻撃があっさりドラゴンに効いたのは相性の問題です。それがどのようなものなのかについては後程、の予定。
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