第30話:二人の王女と天翔ける竜(2)
ここはエクスマキナ王国王都の城壁にある駐屯地である。そこで駐屯しているある兵士は暇を持て余していた。彼は本来はここではなく、別の場所で訓練をするはずであった。しかし、国内での魔物出現及び、王都への接近の対策のためにここへの駐屯を命じられてしまったのであった。
しかし、そんな暇は今日その日消し飛んでしまった。なぜなら、
「ん、なんだあれは?」
彼は城壁の上から望遠鏡で東の方角の確認をしていた。普段なら特に変わったことなんて観察されないはずであった。あったのだが、今日は何か高速でこちらに接近してくる物体が観察された。彼は警戒しながらも観察を続けた。そして、その姿がはっきりしてきたところで、つい声を上げてしまった。
「ルナモニカ王女殿下!?なんで空を飛んで、いやそうじゃなくて。」
そう、それは銀髪をたなびかせ、何故か箒に跨ってこちらに飛んできているルナモニカ・フォン・エクスマキナ王女だったのである。
彼が下に大急ぎで降りると、驚いたことにすぐ近くまで接近していた。彼の目の前に着くと、彼女は箒から飛び降りてこう告げた。
「ここから東に徒歩で一時間くらいの場所に魔物が出現しました。今すぐ全軍を動かせるように準備することをバロールレ公に伝言してほしいのです。」
彼女は普段は冷静で表情の変化の乏しい方である。しかし、今は焦っているような感情をはっきりと表に出している。彼女はこう続けた。
「理由を聞かれる前に先に言っておきますね。その魔物は伝説上の存在である、ドラゴンです。」
その言葉を彼は一瞬信じることはできなかったが、彼女の真剣な表情、そして、彼女の身分からその内容を軍参謀本部へと伝えることを決めた。
「では、私はこのまま冒険者ギルドの方へと向かいます。後はお願いしますね。」
最後にそう言い残して彼女は箒で王都の中に飛び去って行った。
***
王都の軍にドラゴンのことを伝えた後、冒険者ギルドでもそのことを伝えました。すぐに緊急依頼として通達する、との返事をいただいたので、すぐに援軍があるでしょう。
さて、私はどうしましょうか。フレアはこうしている間にもドラゴンと戦っているはずです。戻るべきなのでしょうか?でも巻き込みかねないと言ってましたし…。
逡巡の末、私は決めました。
―フレアのところに戻ろうと。
これはある種の直感のようなものです。戻った方がいい、そんな気がするのです。
そして、その決意が消えてしまう前に箒に跨って、元来た方、フレアがドラゴンとの戦いを繰り広げているであろう方へと向かった。
***
時は少し遡り…。
私はドラゴンの方へと体を向ける。
「〈エレメント・バレット・フルバースト〉」
私の声に反応して魔法が発動する。空中に魔法陣が一、二、三、いやそれ以上、計三十以上出現した。そこから各種属性を纏った魔法弾が出現し、弾幕を形成する。それらの狙いは目の前のドラゴン、それのみ。間違いなく単体の相手に使うのには過剰な量。しかし、そのほとんどは魔力障壁に阻まれてダメージにはならない。でも、それは陽動。私は一方の剣に火を、もう片方に水の属性を乗せて弾幕の中からドラゴンに迫る。切りつけようとした刹那、ドラゴンは暴風を起こした。でも、私は勢いそのままにその暴風の中に突っ込み、二本の剣を突き刺そうとした。結果としては、魔力障壁の抵抗により、刃は滑り、鱗の表面に傷を与えるだけに終わった。
(やっぱり魔力障壁が厄介すぎる。)
足止めがメインとはいえダメージをある程度は与えておきたい。そうしないと私を狙ってくれない可能性が出てくる。
斬撃を与えたのち、反対側に勢いのまま通り抜け―ドラゴンを視界から外さないようにしながら―態勢を立て直そうとする。立て直したが、そのときには目の前にドラゴンの巨体が迫っていた。んげ、まずい。これに当たるとシャレにならない。ドラゴンの下側に逃れながら剣を使って、それを受け流すと同時に剣に魔力を追加で通す。ドラゴンをいなし切ることに成功した。ドラゴンの方はというと…、一筋の、それでいて確実な切り傷が出来ていた。
(よし、カウンターならダメージは入った。これの繰り返しで倒せればいいんだけど…。そんなこと許してくれるのかな?)
さすがに相手は伝説の存在。そうなると一度手痛い反撃を食らった攻撃はしないだろう。
実際、カウンターを恐れてか体当たりをしてくることはなくなった。でもドラゴンの勢いを使わないと火力不足なのも事実と言う訳で。つまり、ここから先は本当に時間を稼ぐことがメインになってしまう。
そんな感じで私がドラゴンの魔法をいなしつつダメージを与えられるような機会を探っていると、ふいにドラゴンの方から濃密な魔力を感じた。具体的には口から。あ、これやばい、多分あれだ、ブレスだ。ドラゴンの必殺技とも言われてるやつ。
って、やばいってこれ。どうすんのさ!?