第29話:二人の王女と天翔ける竜(1)
今、二人の王女―ルナモニカ・フォン・エクスマキナとフレアニア・フィア・ヘカテリア―は突如虚空から出現した天翔ける伝説の存在―ドラゴン―と邂逅を果たした。この出会いによって世界の歯車は動き出したのであった。
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「すごい、すごいです!一体どうしてこんな巨体でそんな翼で飛べているのでしょう!?実際に見て猶更興味が湧いてきました。魔法なんでしょうか?気になります!」
ドラゴンとの遭遇で呆気にとられたことによって生じた静寂を破ったのはそんなテンション高めにまくし立てる声だった。
「ルナ、もっとこう、自重とかできないの?」
「…すみません、取り乱しました。つい気になってしまって。」
いや、確かに私も気になるよ?気になるけど、相手が相手だけにそんな隙も見せたくないんだよ。ドラゴンの様子を見ると、幸いそちらも様子を見ているのかすぐさま襲い掛かってくるような気配は感じない。それでもさあ、こんな相手に命の危機よりも先に知的好奇心が出てきちゃうのはどうなのさあ。いや、私も気になったけどさあ。
「フレア、あれどうしますか?」
そんなこと考えていたらルナにドラゴンの対処について聞かれた。んー、このまま放置するのもまずいよなあ。ここってエクスマキナ王国の王都近辺だし。
「そうだなあ。ルナ、緊急事態だから箒使ってもいいから今すぐに王都に戻って騎士団と冒険者ギルドにこのことを伝えてほしいかな。」
「この国にあるのは騎士団ではなく軍ですが…。まあわかりました。フレアはどうするのですか?」
私は…。
「ドラゴンの相手をするよ。」
「フレアが一人でですか?フレアがかなり強いのは知っていますがさすがに無謀なのでは?」
「大丈夫、軍とか冒険者とかが来るまで時間を稼ぐのがメインだから。消耗は避けるよ。」
「それでもっ。」
「早く行って、私がもし本気を出さないといけないような事態になったら、ルナを巻き込みかねない。」
ルナは少し目を伏せて黙り込んでしまった。しかし、すぐに顔を上げて私と目を合わせてきて、私の手を両手で握ってくる。
「わかりました。無茶はしないでくださいね。」
「うん、任せて。」
私の返事を聞いたルナは箒とそれの魔力源となる大量の魔石を持って一瞬私の方を不安げな目で見たあとに王都方面へと飛び去って行った。
取り残されたのは私―フレアニア・フィア・ヘカテリア―と天翔ける伝説の存在―ドラゴン―だけである。
「さあて、ドラゴンさん。まあ、私の言葉が通じているのかはわからないけど。何しにここに来たのかな?できれば帰ってほしいんだけど。」
私の言葉が通じたのか、通じてないのかドラゴンは行動を起こした。それは―魔法による暴風だった。
つまり、こいつは私と戦闘する意思があるってことかな?よし、じゃあ相手しようじゃないか。
「私と戦いたいってことだよね?じゃあ相手をしてあげる。私はフレアニア・フィア・ヘカテリア。ヘカテリア王国第一王女にして王国随一の魔法使い。そして、貴方を倒す人。」
私はドラゴンを指差してそう宣言した。それが開戦の合図となった。
ドラゴンに先手を取られた。さっきの暴風よりもさらに強い暴風に襲われた。さすがに飛ばされかけたけどなんとか耐えれた。危ないなあ、全く。暴風をいなし切った後、二本の剣を抜く。
「〈エンチャンテッドソード・オーバードライブ〉」
魔法を使うと同時に剣に私の魔力が浸透していくのを感じる。これでこの二本の剣は私の好きな属性を纏わせることができるし、いつもよりも切れ味も上がる。さらに全力の強化魔法を使って目の前の脅威と対峙した。
「行くよっ!!ドラゴン!」
そう言って私は一気にドラゴンの元まで飛んだ。脇を通り抜けながら一撃を加えようとした。でも、うまくはいかなかった。剣があっさり鱗を切り裂くものだと思っていたのに、何かに引っかかったような感覚。これは多分、魔力障壁か。これの対処は簡単、出力を上げればいい。剣に込める魔力を大きくする。すると、障壁を破り、ドラゴンの鱗を刃が通る。
(うっへえ、魔力障壁関係なく堅いなあ。これ身体強化系の魔法も同時に使ってるのか。)
そう思いながらドラゴンの背の側まで通り抜ける。さあて、ドラゴンの様子は、っと、いつも通りに探知魔法を使ってドラゴンの動きを見ようとする。でも、見えない。探知魔法で見えない。こんなこと一度もなかったのに。
初めての事態に一瞬だけ隙が生まれてしまった。なんせドラゴンを視界に収めることができていないのは完全に想定外だから。後ろから魔力の奔流を感じた。直感がすぐに私の体をそこから動かした。刹那、私のすぐ脇を魔力の塊が通り抜けていくのを感じた。ドラゴンの方からはっきりと殺気を感じる。こーれは完全に敵認定されたかな。問題はドラゴンをできるだけ視界に入れておく必要があること。あと、ここは空中であること。地上と同じようには戦えない。難しい戦いになるだろう。でも、
「ふふふ、楽しくなってきちゃった。」
だって、久々にほんとの本気を出せるのだから。