第28話:二人の王女と異変の原因と違和感の答え
魔物とエクスマキナ王国近郊で遭遇してから約一か月が過ぎた。私達二人にはこの件について関与できることは特になく、アカデミーでの講義と休日の実験を繰り返す日々を送っていた。アカデミーでの講義はルナの勉強会のおかげで理解度が上がったためにどの講義も楽しめるようになってきた。今ではルナと一緒に教授に対して講義についての質問をできるほどになった。まあ平日はそんな感じの生活をしている。
で、休日はどうかというと、まあ、実験祭りになってるよね。魔力を持たなくても魔法を使えるようにする道具の実験、具体的には魔石から取り出した魔力を利用する実験、の最終段階の調整を主にしていた。前回の実験で使った場所で試していたけど、そのときに何回か魔物の襲撃を受けた。そのたびに倒してはいたが。その折に相手次第ではルナに実戦での剣の扱い方を教えていたりもした。大体は使えるようになったあとにルナに、スペルガンでしたり、今実験しているものを使えば剣の必要性はかなり下がるのではないですか?と言われてしまったときには失笑するしかなかったけどね。そして、今日はその一通りの実験のうち、最後の検証をする予定の日だ。そのために今、王都から出る準備をしている。
「フレア、こちらは準備できましたよ。」
「うん、こっちも。じゃあ行こっか。」
どうやら互いに出発の準備ができたみたい。そのまま二人で一緒に実験場所へと向かう。そのために二人で王都の街並みを歩いているとき、見慣れたものを見つけた。
「あれ、なんでこの国に冒険者ギルドが?」
そう、私の国ではあって当然だった冒険者ギルドである。でもここはエクスマキナ王国なんだよね。とりあえず中に入ってみようかな。そう思ってルナと一緒に足を運んだ。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。」
「すみません、なんでこの国に冒険者ギルドがあるんですか?」
「確かこの国、エクスマキナ王国領内に魔物が現れるようになったということでその対策で魔物討伐に対するノウハウのある冒険者ギルドを誘致した、ということみたいです。」
「そうなんですか、先週は見なかったから直近でできたのかな?」
「いえ、どうやら誘致自体は一か月ほど前に打診が来ていたそうで。今週、やっと人員や展開場所の用意ができたため、活動を開始した、という感じですね。」
「じゃあ、ここに魔石持ってきたら魔物の処理とかしてもらえる?」
「そうですね。ただ、まだ人員の配備が一部終わっていないため、一部の機能は使えませんけどね。」
「んー、わかった。ありがとね。」
「はい、では、がんばってくださいね。」
まあ、そんな感じでこの国に冒険者ギルドが出来た経緯とどこまで機能が使えるかの確認をした。そのあと、再び、目的地へ足を向けたが、ルナは少し悩まし気な雰囲気を醸し出していた。
「ルナ、どうしたの?そんな悩まし気な感じで。」
「あ、いえ。お父様はかなりリスキーな選択をしたな、と。」
「というと?」
そういうと、ルナは懸念点を述べだした。曰く、他国の人間がこの国で簡単に諜報活動ができる土台ができてしまったのではないか、ということみたい。言わんとしてることは理解できるかなあ。
「まあ、うちの国諜報とかろくにしないんだけどね。」
「はい?しないのですか?」
「うん、しないね。正確に言うと他国ではしないのよ、戦う気がないから。」
「はあ、でもなんか信用しきれない話ですね。」
「まあ、そこらへんは価値観の相違ってことになるのかなあ。」
「そうなんですかね?まあお父様の判断なので大丈夫だと思いたいのですが…。」
そのあと、今度はルナは完全に思案顔になってしまい、そのまま黙り込んでしまう。そのまま、目的地へと着いた。
「ルナー、着いたよー?んじゃやろっか、実験!」
「…あっ。すみません、完全に考え込んでました。では、やりましょうか。」
そう言ってルナは今回試す魔道具、そして、全体の実験を通しての完成品になる予定の魔道具を取り出した。それはルナの使っていた銃とほぼ同じ形をしている。違いがあるとしたら、魔石を嵌める場所があって、また、弾を入れる場所、確か弾倉だっけ?のところが引き金を引くたびには回らないところかな。
「それじゃ、ルナ、早速使ってみて?」
「はい、では。」
ルナはそれを構えて、引き金に触れた。そうすると、術式が淡く光り、火の弾丸が放たれた。もう一回触れると、もう一発放たれた。ここまではうまくいってる、ここからが問題かな。ルナが弾倉部分を回転させた。そして、引き金に再び触れた。すると、今度は水の弾丸が撃ちだされた。さらに弾倉を回転させて弾を放つ。放たれたのは土の弾丸。その後も回転させるたびに魔法が発動していく。風の弾丸、氷の弾丸、雷の弾丸。弾倉が一回転して元の位置に戻ると炎の弾丸が放たれた。
「フレア、どうでしたか?」
「バッチリ!魔法の発動自体は成功だよ!あとは魔石の消耗具合の確認かな。今までに7発撃ったのかな。魔石がなくなるまで撃ち続けてみて。」
「はい、わかりました。」
そう言ったルナは魔石の耐久実験を始めた。ルナは魔道具を用いて次々に魔法を使っていく。そして、合計で六十発撃ったところで魔法が放たれなくなった。
「フレア、魔石が消滅しました。」
「これにつけれるサイズの魔石だと六十発までってことか。まあ十分かな。」
「つまり、これで完成ってことで?」
「まあ改良自体はまだまだできそうだけど技術としては完成、と言っていいかな。」
この魔道具は魔石で魔力を抽出し、その魔力で魔法を発動させる、という技術の実用例としてこれで完成したと言っていいと思う。ルナの使っている銃の技術、そして、ルナが考えた薄い金属を用いて複数の術式を省スペースで刻む方法―私達はこれを複層術式と呼んでいる―を使った結果完成したものだ。これは魔法を使えない人が魔石を用いて、魔法を発動することができるものになっている。
「しかし、これ、どうします?」
「んー、そうだなあ。特に考えてなかったや。どうしよっか。」
「私としてはこの魔道具、というかこの技術を公表してもいいとは思いますね。」
「でもそれって大丈夫なの?」
「ちょっとそれは…、わかりませんね。」
「まあとりあえずルナの父上に相談してからでいいんじゃないかな。」
「そうですね、そうしましょう。」
私達は交換留学の間に行っていた実験が成功したことに浮かれていた。王都に戻ろうか、そう言おうとしたとき、異変は起きた。私とルナの上に影が落ちる。
「「え?」」
恐らく、互いにあり得ない、という感情を抱いているだろう。だって、上を見上げても影を落としてくる存在なんて見えなかったのだから。幸いなことにその答えを『それ』はすぐに教えてくれた。『それ』は少しずつ姿を現した。文字通り何もないところから唐突に出現したかのように。私でさえ見たことのない巨体。トカゲのような姿に翼を持ち、悠々と空を飛んでいる。私は『それ』を知っている。ルナも恐らく学院の図書館で見たから知っていたのだろうな。信じられないような顔をしている。
「ドラゴンだ。」
そう、私達の目の前に唐突に現れた『それ』は、私の国で伝説の存在とされており、ある種の畏怖を抱かれている存在、そして、圧倒的な強者でもある、ドラゴンだった。