第27話:二人の王女と異変と違和感
離宮への帰還後、私はルナと一緒にすぐさま王城に訪れていた。
「はい、今すぐにお父様にお伝えしたいことがあるので取次をお願いします。」
「わかりました、少々お待ちください。ルナ王女殿下、フレア王女殿下。」
ルナがルナの父上、つまり国王陛下への取次をお願いしているのを横目に今回の魔物の生息域の移動、それがなぜ起きたかについて考える。魔物の生息域の移動に関してはスタンピードによって起こり得ることだし、実際うちの国でも結構な頻度で規模問わず発生している。でも、今回の件は少し違和感があるんだよなあ。魔物の群れが競合相手の少ないエクスマキナ王国の方へ少しずつ移動しているともとれる。その割にはその移動速度が少し早すぎるように感じる。なんなんだろう、なんか、今までに見たことのない不可解な事案に感じる。そんな思案に耽ていると、ルナが袖を引っ張ってくる。どうやら謁見の用意ができたみたい。
「ルナ、お前から知らせたいことがあるとは珍しい。それにフレア殿も一緒とは。一体何があったのだ?」
執務室に入るとジョイア国王陛下は開口一番にそう尋ねてきた。ルナは今日あったことを説明した。王都からヘカテリア王国側に一時間くらい進んだ森でエクスマキナ王国にはいなかったはずの魔物と遭遇し、その討伐をしたことを。
「…なんのためにそこまで行ったのかはあえて聞かないでおく。問題は魔物が王都から一時間程度の位置に現れるようになってしまっていることだ。軍の方から国内に魔物が現れるようになった、という報告は受けてたが、ついにここまで近づいてしまったのか…。」
ジョイア国王陛下は私達の報告を聞いて顔色を変えないながらもどこか心配げな雰囲気を出した。
「フレア殿、貴方は魔物討伐などの経験があると聞く。では、今回の件について何か意見はないか?」
不意にそんな感じに話を振られてしまった。んー、内容的にはさっき考えてた内容を伝えればいいかな。ということで、先ほど考えていたことを述べてみた。
「不可解、であるか。フレア殿でさえわからないのであるか。わかった。ここから先は国内の問題になる。その関係でこの話に他国の者を関わらせるのは難しい。こちらから何かこの件について意見を求めたいことがあれば連絡をさせていただく。」
それが謁見の終わりの合図となった。離宮へ戻ったあと、実験のまとめについてルナの部屋で話し合っていた。
「実験としては三つとも一応成功かな?」
「ですね。ただ一応課題自体はありますよね。」
「だなあ。箒に関しては燃費が案の定悪すぎるんだよねー。対策も多分術式の効率化しかないと思う。あと一つの杖で複数の魔法を使えるようにした杖だけど、これ微妙に取り回し悪くなかった?」
「ですね、悪かったです。あれを実戦で属性を変えながら使えるかというと怪しくはありますね。」
「やっぱりかあ。ルナがくれたスペルガンに使われている術式の刻み方を流用するなりすれば省スペース化できてだいぶよくなるかなあ。」
「それについては少し考えがありますよ。」
「え!ほんと!?どんなの?ねえねえ、どんなの?」
「それはですね…。」
実験のまとめは夜が更けても続いていく。
それが一段落ついて、さらに次に実験することも決めた。それで私は寝ようかと部屋に戻ろうとした。
「フレア、魔物の件についてもう少し聞いてもいいですか?」
そう呼び止められてしまった。それに応じるために私は椅子へと腰を下ろし直す。
「うん、何?」
「フレアは魔物のが移動した原因についてどう考えているのですか?」
「どうも何もルナの父上に言ったのとほぼ同じ感じだけども…。」
「他にはないのですか?」
んー、ないわけではない。ないんだけど、んー。少し悩んだのち、その可能性について述べておくことにした。
「つまり、強大な魔物から他の魔物が逃亡するために発生したスタンピード?というものであると。」
「うん、可能性は低いよ?それにしては移動速度が今度は少し遅いんだよ。かといって生息域の移動として考えるには早すぎる。だから不可解ってあの場では言ったんだよね。」
「なるほど、大体わかりました。つまり、フレアも遭遇したことのない状況ってことですね?」
「そういうこと、何か嫌な予感がするんだよね。」
そう、私はこの不可解な魔物の移動に対して一抹の不安を抱いている。今までに見たことないんだもの。未知に対して警戒しない方がおかしい。
「まあ、そうは言っても私たちにできることは限られてるんだけどね。考えすぎるだけ無駄かな。」
「そうですね。可能性としては考慮しておきますが。」
「うんうん、そんな感じでいいよー。んじゃ、こっちはもう寝るね。おやすみ、ルナ。」
「はい、おやすみなさい、フレア。」
そうやってルナと別れて、与えられた自室のベッドの上で寝転がる。んー、ダメだ。どうしても気になる。できればイレギュラーな事態にならなければいいんだけど…。つい、そう思わずにはいられなかった。