第26話:二人の王女と魔物、再び
「フレア、フレア。次はちょっとこれを使ってほしいです。」
飛行魔法を使えるようになる箒の実験のあとにルナがそう言ってきた。その手には前にルナが作っていた魔法を撃てる銃みたいなものがある。みたい、というのは前にルナが私の国で作ったものに比べて、前に突き出ている部分の長さが短いから。前回のものもルナが持ってきてるから、それと比べると今回の物は小さいことがよくわかる。
「これって前のに似てるけど同じ感じで使えばいいのかな?」
「そうですね、多分。」
「多分って何!多分って!」
「ちょっと試しにやってみたことがあってそこがどうなるかわからないんです。私は魔法が使えないので試せませんでしたし。」
「なんか不安だけど、わかった、使ってみるね。」
なんか不安な要素があるらしいけどとりあえず使ってみるしかなさそうだなあ。何か変なことになりませんようにっと。前のと同じならこのトリガーに指をあてて、銃口は…、街道とは反対方向に向けて、属性はええと、水にしてみようかな。そうすると、刻んである術式が淡く光り、水が槍のようになって飛んで行った。もう一発、と思うとさらに一発、三発連続で撃とうとすると三発連続で放たれた。
「ルナー、これで大丈夫?」
「はい、大丈夫です。問題なく動いてくれました。」
「これって術式って魔法を槍の形として発射するだけのものだよね?その割には術式の記述部分が短いような…?」
「それは薄い金属板に術式を書いて、それを重ねてるんですよ。」
「あー、そうやってスペースを圧縮してるのか。」
「その関係で魔石から魔力を抽出する術式はオミットしましたけどね。」
「まあ魔石を嵌めるスペースないもんね。」
「それで、です。これはフレアにあげますよ。」
「これを?」
「そうです。この形、私の国ではハンドガンとか拳銃とかと呼ぶんですが、貴方の戦い方だとこっちの方が使いやすいかなと。」
「えへへ、ありがとっ!実際にそうだね。前の長いやつよりかはこっちの方が使いやすい。」
「狙い通りですね。あ、これの名前とか決めちゃってもいいですよ?」
「うーん、そうだなあ。スペルガン、とでも呼ぼうかな。」
私はルナからもらって私が名付けた銃―スペルガン―を見る。私が今までに使ったことのない形の武器。
「ふふ、スペルガンですか。いいですね、その名前。」
「そうかな?愛用させてもらうね。」
ルナはとても満足気な顔をしている。そんなに嬉しいのかな?あ、そうだ。
「ルナ、私もこの箒貴方にあげるね。これでルナも空を飛べるよー?魔石の消費には気を付けないとだけどねー。」
それを聞いたルナは本当ですか!と言いながらぴょんぴょん跳ねだした。なんか、すごく幼げに見える。普段が大人びているだけに。
「そんなに嬉しいの?」
「ええ!すごく嬉しいわ!だって、模倣とはいえ私も魔法を使う手段が手に入ったんだもの!えへへ、ありがと。」
「なら、よかった。作った甲斐があったなあ。」
ルナなら喜んでくれると思ったから作ったけれど予想通りだったみたい。渡したいものは渡したけれどあと少しだけやりたいことが。
「ルナ、ルナ。最後にもう一つ実験したいものがあるけどいいかな?」
「あっ、はい。なんでしょう?」
子供みたいに箒を眺めていたルナは私の声に気づくと取り繕うように反応した。あら可愛らしい。
「これね、前の実験で使ってた杖なんだけど、これ一本で火、水、風の三属性の魔法を使えるようにしてみたんだー。」
そう言って私はオストに頼んでいたものに術式を刻み込んで完成させた杖をルナに渡す。ルナはそれを観察して、合点がいったといった顔をしたのち、杖を起動した。まず、火の玉が飛び、次に水の玉、最後に風の玉が飛んだ。ルナはもう一回一通り起動し、そのあと、今度は風、水、火の順番で発動した。
「これでいいですか?」
「あ、うん。いいんだけど。使い方の説明をする前にあっさりと使い方を理解しちゃうのね、ルナって。」
「まあ、見たときにスライドする場所が増えてるのが見えたので。そこを動かせばいいのかな、と。」
「…まあいいや。とりあえあず機能には問題なさそうかな。」
「もう少し使ってみます?」
「そうだね。もう少しサンプルが欲しい。あ、あと今の魔石の消耗具合も確認したいかな。」
その後、さらにその杖についての実験を繰り返した。そんなことをしているうちにかなり日が傾いてきた。
「ルナー、もうそろそろ戻らない?」
「そうですね、戻りましょう。」
「それじゃ片付けを…、って待って。」
「どうかしました?」
「探知魔法に何か掛かった。これは魔物?」
なんで魔物がこんなところに?ここはエクスマキナ王国の王都からそこそこの距離の森でかつヘカテリア王国の国境からはそこそこの距離があるはず。
「魔物、ですか?この国にはいなかったはずですが。」
「そう、そうなんだよ。武器を持って警戒して。こっちの方向に向かってきてる。」
そう言って私は腰にルナからもらったスペルガンを下げ、そして、新調したついでに術式を利用して強化魔法の起動に魔石の魔力も使えるようにした二本の剣を構える。ルナは前にも使っていた銃を構えた。
そうして待っていると、姿を現した。
「数は三!熊みたいなやつ!ルナ、援護は任せたよ!」
「わかりました。」
ルナの返事を確認して私は駆け出す。まず一体目!一発で致命傷を!首に剣を振るう。しかし、腕に防がれてしまった。すると、後ろから弾が飛んできて、熊の眉間を貫いた。それでその熊は死んだと判断し、次の熊へと剣を向ける。今度は熊に先手を取られてしまって腕を振るわれた。それを片方の剣で受け止め、もう片方の剣で袈裟切りを試みる。結果は成功した。刃は皮膚を突き破り確実にダメージを入れた。しかし、それでは致命傷には至っていない。その間にももう片方の腕が私を襲おうとしている。それをバックステップで避け、腕を振り切った熊に対して、止めとばかりに二本の剣を振るう。それが致命傷となり、二体目の熊は倒れた。最後のは、っと。
「うへえ、やっば。ルナ!そっちに一体行った!」
そう言ってルナの方を見ると私があげた箒をいじっていた。程なくして、箒で浮いて、私の方に突進してくる、熊の脇をすり抜けて。それにびっくりしたのか熊に隙ができた。その一瞬を突いて剣を持って思いっきり止めを刺した。一閃、そして戦いは終わりを迎えた。
「ルナー、一体目の狙撃ナイスだったよー。そっちに最後のが行ったときはヒヤヒヤしたよ。」
「こっちに来そうな雰囲気を感じた瞬間に箒でフレアの方に向かうことを決めましたよ。正直、間に合うか不安でしたけどね。」
「まあ、間に合ったからセーフってことで。」
「ですね。それじゃあ改めて王都に戻りましょうか。」
「あ、待って、魔物から魔石だけ回収させて。」
「わかりました。手伝った方がいいですか?」
「じゃあ、そこのやつからお願い、残りのはやるから。」
そうして、狩った魔物から魔石を二人で回収した。そして、私が魔石を三個すべて預かり、荷物をまとめて帰路につく。
「しかし、王都から一時間くらいの場所に魔物が出てきてしまいましたか…。」
「かなり深刻な問題になる可能性が高い?」
「そうですね、戻ったら私の方からお父様にこれを知らせないとですね。」
「かな、私も一緒に行こうか?」
「ではお願いします。対処の優先順位はかなり高いので。それに証人が多い方が説得力も増しますしね。」
二人でエクスマキナ王国国王陛下にこの件を報告することを決めた。実験の結果自体はいいんだけど思った以上にまずい問題が起こってしまった感があるなあ。そのことに一抹の不安、それも拭いきれないようなものを感じてしまうなあ。何事もなければいいけど。