第24話:二人の王女と剣の舞
ルナに連れられるがままに今日最後の講義―剣術の開講場所の外の開けた場所に来た。私の国の同じ内容の講義と違って剣を打つための的のようなものは置かれていない。確かルナは前に剣術は演舞用のものと言っていたような…。
「さて、では本日の講義を始めましょう。」
講義用に貸し出される剣を取って待っていると、その合図で講義が始まった。まず、最初に講師による今日行う演舞の手本が示される。そして、受講生がそれを真似する。その繰り返し。確かに敵と戦うことを想定していないなあ。なんか物足りない。魅せることを目的としているからなんだろうけども。
「次は試合形式で少しやってみましょう。」
いい加減飽きてきたくらいの時間でやる内容が変わった。ルナに肩をぽんぽんと軽く叩かれた。
「私と手合わせお願いしていいですか?」
私はその誘いに当然乗った。ルナは一本の剣を手にしている。私は、打ち合いの為にさっきまで使っていた剣とは別にもう一本別の剣を取って構えた。
「これは演舞として行うものなんですけど…。基本的に演舞で使う剣は一本なんですよ?」
「私は普段から剣を二本使ってるからね、こっちのが慣れてる。」
「まあ一応二本の剣を使う人もいるので大丈夫なんですが…。まあいいでしょう。では、始めましょうか。」
そう言ったルナは不敵に笑った。こんな顔初めて見たような…?ルナが剣をレイピアの要領で構えるのを見て私も二本の剣を構える。互いに視線を交わし合う。それが合図だった。
私は一気にルナとの距離を詰める。ルナはレイピアとして剣を扱うなら突きがメインのはず、ならば、先制して突かせる時間さえ与えなければいい。そう思って連続で切りつけようとする。しかし、そうはいかなかった。一撃目はスッと避けられ、二撃目は刀身に弾かれる。なら、三撃目っ!
「フレア、どこを狙っているか見えています。」
ルナはそれをさらに避け、今度はこちらの番とばかりに剣を振るってくる。一突き目は右肩を狙ってくる。そちらは避けられた。二突き目は左の太腿、そちらは左の剣で弾く。そこでルナは一度下がった。そして、三突き目を放とうとする。ルナの視線は左肩を見てはいる、いるんだけど、なんか嫌な予感。その感覚に素直に応じるしかないか。
三突き目は左肩を狙っているような軌道を描いていた。でも、その軌道は歪んで腰の辺りに飛んできた。狙いまでは特定できてなくて慌てて右の剣で弾く。
「普通に防がれるんですか。さすがですね。」
そう言ったルナは少し意外そうな声色をしてはいたけれど、動揺は見えなかった。そこからさらに剣を何回か交わした後、互いに間合いの外に下がった。
「最初の剣があまりに素直だったので視線で誘導すれば当てられると思ったのですが。」
「直感と、あとはフレアがその前に少しヒントくれたでしょ?」
「あの言葉は迂闊でしたかね?まあいいです。このまま剣を交わしましょう、フレア?楽しくなってきちゃいました。」
「いいよー?私も楽しくなってきちゃったよ、ルナ!」
再び距離を詰めた。そして、二人で剣舞を披露する。周りに見せつけるように。これはどのように見えているのだろう?ルナの顔を見ると、真剣だという雰囲気と同時にこの状況を楽しんでいるように見える。私も少し口角が上がっているのを感じる。
そうして打ち合いをしてどれほど経ったのだろうか。
「すみません、ええと、ルナ殿下?それとフレア王女殿下?もうそろそろ講義を終わりたいのですが…。」
その声で私達は自分達の世界に完全に入り込んでしまっていたことに気づいた。んー、まだ続けたいのに。まあ、仕方ないかな。
「あら、残念。もっと楽しみたかったのに。」
「そうですね。また、どこか別の機会で続きをやりたいですね?」
「うん、またどこか別の機会で。」
そう言って私とルナは剣を納める。すると、周りから盛大な拍手の音が聞こえた。そっか、講義が終わろうとしているなら他の受講生はもう終わらせてるんだ。それで私達を見ていたと。
「しかし、貴方たちの剣舞は素晴らしいものでした。ルナ殿下とフレア王女殿下。」
拍手の中、彼らを代表するかのように講師の方がそう述べた。周りも同意するように頷いている。私達の打ち合いはそうするに値するものだったらしい。そんなにだったのかな…?
「はい、ご称讃ありがとうございます。これでも未だ剣技を学んでいる身でございます。」
「そんなことありませんよ。これで未だ学んでいる身であるのであれば、まだ上があるのですね。」
「ええ、きっとまだ上を目指せます。」
そんなやり取りをルナが交わしているのを見ていると、今度は私の方に話を振ってきた。
「フレア王女殿下、貴方も素晴らしい物をお持ちで。」
「はい、お褒めに預かり光栄です。」
「しかし、その剣技はどのように身につけられたのですか?」
「私たちの国では、これがないと身を守れなかったもので。身につけるしかなかったのですよ。」
「そうなのですか。どこかでぜひ貴方の剣を学びたいものですね。」
その後、講義は終わり、私たちは帰路に着いた。
「しかし、ルナ、びっくりしたよ。向き合ってみるとあんな風に剣を振るうなんて。あんなフェイントなんて魔物はしてこないからね。」
「そうですね。私の場合、相手は人なので、こうしないと当たらないんです。まあ、びっくりしたのはこちらもなのですけどね。フェイントをあれだけかければどこかで当たるものだと思っていたのだけど、まさか一回も当たらないなんて。」
「あれは魔物の不意の攻撃を避けるのと感覚は同じだったなあ。正直殺気を感じるレベルで怖かった。」
「私ってそんなに怖かったですかね?」
「うん、すごく。」
そう言うと、ルナは面白そうに笑った。
「私は貴方のことが少し怖いですよ?」
「なんで?」
「貴方が魔法を使えるから、ですかね。でもそれが同時に私は好ましいのです。だって。」
そこまで言ったルナは私の方を愛おしいものを見るような目で見て言う。
「貴方は私の憧れであると同時に夢なのですから。」
「そうなのね。なら私もそれに見合うようにしないとね。」
「ええ、お願いしますね?離宮に戻ったら約束通り、勉強しましょうか。」
「うん、お願いね!ルナ!」