第21話:二人の王女と魔女のお話
私はお兄様を部屋に入れてからフレアについて聞かれたことをある程度答えながらフレアの荷物の運び込みが終わるのを待っていました。そうしているうちに扉が叩かれる音がしました。フレアの分の椅子を追加で用意した後に扉を開けました。
「ルナー、荷物の運び込み終わったよー、って誰、その人?」
「紹介しますね、この人は私のお兄様でこの国の第一王子のスペランテ・ボナ・エクスマキナです。」
「ルナから紹介に預かりました、エクスマキナ王国第一王子のスペランテ・ボナ・エクスマキナです。ヘカテリア王国のフレアニア・フィアヘカテリア王女殿下?」
「はあ、よろしくお願いします?ええと、私に何用で?」
「お兄様は貴方の見極めがしたい、とのことです。」
「ルナよ、それをなぜ先に言ってしまうのだ。」
フレアは私とそんなやりとりをするお兄様のことを訝しむような目で見ています。私はそんなフレアを椅子へと誘導しました。
「まあ、そんなことはいいとして、早速本題だ。」
フレアが座ったことを確認したお兄様は切り出しました。
「フレアニア王女、というよりもヘカテリア王国は我が国に対してどのような考えをお持ちで?」
「そうですね、現状は友好的な関係を築きたい、と考えていますね。我が国が貴方の国に敵対する余力はありませんので。」
「というと?」
「我が国に魔物という存在がいるとはご存知ですよね?その魔物の対処に騎士団は備えており、対外戦争なんてする余裕はないのです。」
「ああ、内憂の存在が大きいのか。なら安心だな。」
「…それはどういう意味で?」
「少なくともエクスマキナ王国にヘカテリア王国が攻め込んでくることはないのだなと。先に言っておくが我が国も貴国に攻め込むような余裕は一切ない。」
「そこについては前にルナからそれとなく聞いていますね。」
「まあそれに加えてもう一つ理由があるのだが。」
お兄様はそこで私も知らなかったことを話し始めました。曰く、どうやら私が帰国する少し前くらいからのようですが、エクスマキナ王国でも魔物の発生が確認されたとのことなのです。そして、その対処に国軍は追われてしまっているようです。
「なるほど、そういうことですか。」
「そういうことだ。正直我が軍は対人戦争なら経験があるのだが、魔物狩りなんてもののノウハウは一切なくて苦戦中だ。」
情けないな、と言いながらお兄様は肩をすくめました。そこから先はまあ他愛のないやり取りが多くなりました。大体一時間くらい話したくらいでしたか。
「もうそろそろいい時間だ、この後父上への挨拶もあるのだろう?」
「そうですね、お兄様。」
「ではここらで切り上げよう。最後にいくつかお願い、というかやめておいた方がいいことを言っておくぞ?」
「なんでしょうか?」
「王都から見える位置での魔法の実験はやめておいた方がいい。最近教会の過激派の動きがどうにも怪しい。フレア王女という国賓とも言うべき存在に手を出すとは思えないが。」
「はあ、分かりました。気を付けますね。」
そう忠告をしてお兄様は部屋から出ていきました。扉を閉める前に軽く手を振っていました。
「…なんか私の国の国防について情報持ってた上で自分の国の国防についての情報もあっさり置いていったよ、あの人。」
「確かにそうですね、つまり少なくともお兄様は敵対する気は全くない、ということでいいのではないですか?」
「そうかな、うん、こっちも敵対する気はないし。なんというか、多分目的とかはすべて言ってると思うし悪意もないけどだからと言って何を考えてるかはイマイチわからなかったかな。」
そんな感じにフレアはお兄様を評価していました。
***
ルナの兄上で第一王子のスペランテ・ボナ・エクスマキナと話をしてから一夜明けた。その話のあとにエクスマキナ王国の国王陛下であるジョイア・エラ・エクスマキナ陛下への挨拶に行った。本当に軽く挨拶するだけで特に言うことはなかったけど、最後にルナの兄上と同じことを言っていた。これは実験とかは少し離れた場所でしないとかなあ。んー、どうしよ。
「ルナ、もうそろそろ行きますよ。」
そんなことを考えているとルナが呼びに来た。今日からこの国の国立アカデミーに私が交換留学として行くんだよね。
「はーい、少しだけ待ってね。」
そう言って持っていく用の荷物を手に扉を開ける。そこではルナが白衣を着て荷物を持って待っていました。
「ルナ、なんで白衣着てるの?」
「アカデミーの方に行くときには着るようにしてるんです。それっぽいですよね?」
「まあ確かにそうだけども。」
「さあ、行きましょう?」
そう言ったルナは歩き出していきました。置いてかれる、と思ってついルナの手を掴んでしまった。ルナはびっくりしたのかハッとした感じで振り向いてきた。
「あ、すみません。いつものペースで行こうとしてしまいました。じゃあ一緒に行きましょうか。」
そう言ったルナは手を握り返してきた。
***
「で、フレア王女殿下はスペランテから見てどう感じた?」
「そうですね、父上。ルナがだいぶ心を開いていそうなだけあって少なくとも悪意などそこらへんは一切持ってないと思いますね。」
「ふむ、なら問題ないか。如何せん我が国で魔法を使えるということは劇薬になりかねないのだ。念のためしっかり警戒をせねば。」