第18話:二人の王女とそれぞれの成果
オストさんから受け取ったものを持って部屋に戻ってきました。さて、早速作業をしましょうか。そう考えてあらかじめ用意しておいたものを取り出しました。さて、私がこの作業をできるのかどうか・・・
その作業は時間を縫って行ったものなので数日掛かってしまいましたが、とりあえずやりたいことは完了しました。ということで、完成したもの―私の使っている銃のようなもの―を見つめています。ようなもの、というのは明確に銃とは違うところが複数あるからです。まず、弾を装填する場所はありません。代わりに前に実験で使用した魔道具と同じような魔石をはめ込む場所があります。問題があるとしたら、自分ではこれが想定通りの動きをするか試せないことです。フレアの手が空いてればお願いするんですが、さてどうしましょう。そんなことを考えていると、扉が叩かれる音が聞こえました。
「ルナー、次の実験の用意終わったからそれについて話し合いたいんだけど入ってもいい?」
丁度良くフレアが来たようです。はい、大丈夫です、と返すとフレアがいくつかの魔道具と何枚かの紙を持って入ってきました。
「じゃあ、早速話し合いしようか。今のところは前回と同じ感じでしようと思ってるかな。だから、前回の実験の計画を流用して少し変更する予定。これでどう?」
「大丈夫だと思います。しかし、追加で私からお願いしたいことがあるんですけどいいですか?」
「ん?ルナ、何かやりたいことでもあるの?」
「はい、私も少し実験したいことを思いついたので作ってみたんです。でも、それのテストが私ではできなさそうで。なので、フレアにお願いしたいんです。」
「ん、なら私のが終わった後にそのままやるのでもいい?」
「私の実験に付き合ってくれるならそれでもありがたいです。」
「お互い様だよ。んじゃ、次の休みの日にやるのでもいい?」
「それで行きましょう。」
そのまま話を続けて、次の実験の計画が完成しました。
その後、講義やそこで出された課題をやり、図書館で調べ物を進めているうちに休みの日、つまり実験の日がやってきました。私はフレアと一緒に王都近郊の平原に再び来ています。
「よし、やりたいこと多いから早速始めようか。」
「はい、わかりました。」
それを合図に、フレアと分担して持ってきた魔道具各種を次々と試していきます。前に試した風の弾丸を撃ちだす物に始まり、同じ風でも刃のようなものを発射するもの、他に、水を直線状に撃ちだすもの、火炎放射器のように火を出すもの、氷のつぶてを発射するもの、雷を撃ちだすもの、他にも様々な魔法を発射できるものを試しました。私が使うごとに、フレアは魔石の消耗具合を確認しています。
「うん、魔石の消耗具合は大体わかったかな。発動する魔法の種類を変えても発動自体は問題なさそう。」
「他に試したいこととかないですか?」
「んー、それじゃあ、これと、これと、あとこれも。これらをもう一回使ってみてほしいかな。」
フレアにそうやって、いくつかの魔道具を押し付けるように渡されて、私はそれらを次々と再び使っていきます。それを見ながらフレアはメモを満足気に取っていきます。私がもう一回試してほしいと言われた魔道具は一通り試し終わりました。
「よし、これで私のやりたかったことは大体できたかな。じゃあ、ルナがやりたいって言ってたことに移ろうか。」
「はい、わかりました。」
フレアの実験は終わったみたいなので次は私のやりたかった実験です。それに使うために用意していたものを荷物の中から取り出します。
「フレア、これを使ってみてほしいんです。」
「ええっと、これは、ルナが前に使ってた銃?でも何か違和感がある?んー、なんだろ?」
私がフレアに手渡したものは私の使っている銃を模したものです。
「早速ですけど使ってみてほしいです。」
「と、言われても使い方は言われないとわからないんだけど?」
「私が前に銃を持った時と同じような感じで持ってみてください。」
そう言うと、フレアは銃もどきを構えました。すると、なるほど、とつぶやいた後に引き金に指をかけました。次の瞬間、風の弾丸が発射されました。その次には水の弾丸、さらに、岩の弾丸、火の弾丸と連射していきます。
「…何だこれ。」
フレアは構えるのをやめると信じられないものを見たという顔で私と手に持っているものを交互に見ています。まあ、そうですよね。そういう反応になると思っていました。
「ねえ、早急に説明して!これよく見ると何か術式書いてあるよね!でも意味がしっちゃかめっちゃかでよくわからないんだけど!」
フレアは距離を詰めて私の肩を掴んで問い詰めてきます。頭が、揺れてちょっと、辛い…。
「説明しますから、説明しますから!少し離れてください!」
「わかったから早く、早く!」
そう言ったフレアは少し下がりはしましたが、興奮を隠す気はさらさらないようです。
「それでは説明しますね。」
そう切り出して私は作ったものの説明を始めました。私の作ったものは簡単に言うと理論的には魔法の発動をかなり簡単にしてくれるものです。銃の形を模しているのは何かを狙うときに使うものとして私が最初にイメージするものだからです。仕組みとしては、魔法を発動するときに使う術式の一部、今回は弾丸にするのに必要な術式とあと試しに魔石から魔力を抽出する術式とを銃の引き金部分から銃口に向かって刻みこみました。私の考えた理論だと、これで属性を指定するだけで本人の魔力を利用してその属性の弾丸が発射されるはずでした。そして、結果はフレアがやってみせた通りです。
そこまで説明したところでフレアの様子を見てみました。フレアは渡した銃の表面をじっと見ていました。
「なるほど、確かにそうなると合点がいくかな。魔力の消費が自分で魔法を使うときよりも少なかったのは魔石で代替してたからで、どの属性を使うかを考えただけで発動できたのは弾丸の形で発動するように固定してあったからってことね。」
そこまで言ったフレアはそこで一息を置きました。そして、その高ぶった感情を一切隠さずにまくし立ててきました。
「ねえ!なんでこんな発想に至ったの?私には弾丸の形にする術式なんてわからなかったのに。」
「え?各種術式を見比べていたら共通している部分があったので弾丸として発射するのを指定する術式だけを切り抜いただけですよ?」
その発言を聞いたフレアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしました。
「…ルナ、術式ってどう見えてる?」
「記号にしか見えていませんよ?正確に言うと記号にみなしているというのが正しいですが。」
「あー、そういうことか…。」
そう言ったフレアは説明を始めました。曰く、フレアにはどうやらこの術式が読めるようです。そして、同じような魔法でも術式の意味が全然違うようです。例えば、ファイアバレットだと、炎の弾を発射する、ウィンドバレットだと、風の弾丸を飛ばす、アクアバレットだと、水の玉を撃ちだす、といった感じに微妙に文面が異なるようです。私には属性を示す術式を示す図形と弾丸の形にする術式を示す記号にしか見えませんでした。
「まさか、魔法を使えるかどうかで同じ術式でも見え方が違うなんて。術式なんてこの国だと大概の人は読めるもんだからそこまで考えが及ばなかったや…。適性のない魔法の術式は読めないとは聞いてたけど、そんな法則があったなんて…。」
「そうなんですか…。まさかそんな認識の祖語があったなんて…。」
「この件はあとで認識のすり合わせが必要かな。それよりも…、」
そう言ってフレアは思いっきり私に抱き着いてきました。
「すごい、やっぱりルナはすごいよ!魔法が使えないのに、理論だけでこんなものを作れるなんて!」
「耳元で叫ばないでください…。ぶっつけ本番ですよ…?そんなにすごいことなんですかね?」
「すごいことに決まってるでしょ。だって自分の今まで持っていた常識の範囲外のことで理論構築をやってのけたんだから。」
そう言ってフレアは私を思いっきり褒めてきます。顔は見えてないけれども間違いなく満面の笑みを浮かべていると不思議と確信できました。
一通りの実験が終わって、今回は魔物の襲撃を受ける、なんてこともなく王都へと戻ってきました。
「しかし、面白いねー、この銃もどき。これって何か名前とかないの?」
「まだ考えてないですね、試作品なのもあって。」
最終的にやりたいこと的にどこかのタイミングで名前を付けないとですかね。そんなことを思いながら、フレアと並んで王城へと戻っていきました。
次の更新は土曜日になる予定です。