第111話:これ以上は私も辛くなってきた
「シモンさん、これは無理だよ、術式の部分だけ見てもうちの国での量産は難しいから」
私は、スナイパーライフルとスペルガンの二つについて、性能をそう結論付けた。そして、シモンさんに、労いの意味をかねてそれを伝えた。
「そうか、少し肩の荷が下りた気分だ」
「だろうね」
そうして、二人で苦笑交じりの視線を交わした。すると、それに気づいてか気づいてなくてたまたまなのかわからないけれど、ルナが不満げに上目遣いをしてきていることに気づいた。
「何?ルナ?」
「別に」
頬を膨らませながらルナはプイッと顔を横に向けた。どうやら、何か文句があるみたい。
「何か言いたいことでもあった?」
「ありますけど、あとでいいです」
すると、私に預けられていた重みがなくなった。ルナが立ち上がったからだ。
「フレア、それにシモンさん。残りのものも見に行くんでしょう?あれを動かすのは難しいですから見に行きましょう」
そう言ったルナはスタスタと歩いて行ってしまう。私、そしてシモンさんはそれを大急ぎで追いかけたのであった。
そうして歩いて行った先は、建物の外だった。そこからさらに少し歩いていくと、また別の建物があった。その前でルナが一回足を止めてこちらへと振り向いた。
「ここに野戦砲はあるはずです。シモンさん方が動かしていなければ出すけど」
「動かしていないからあるぞ。ただ、今もどうにか出来ないか色々と試しているだろうがな」
「分かりました。では入りましょうか」
そう言ったルナは再び建物の方を向いて歩き出した。それに続いて建物の中へと入ると、シモンさんと同じ服を着た人たちが何人か大きな銃のようなものの近くにいた。多分あれが野戦砲かな?
「すみません、皆様方。ちょっとこちら見てもいいですか?」
ルナがそう彼らに話しかけると、彼らはサッと野戦砲から離れて行った。たださ、そのときの彼らの表情がね、その、化け物を見るような目だったのはどういうことかな?アカデミーの最初の魔法実技のあとの私を見る同級生の目そっくりだったよ。
「どうかしましたか?」
「ちょっとね、最初の魔法講義のときのこと思い出しただけ」
「ああ、そういうことですか。私はすっかり慣れてしまいましたよ」
そんな彼らを眺めているところをルナに見られてしまったらしい。どこか心配そうな顔で話しかけられた。その理由を軽く答えると、ルナはあっさりと引いてくれた。前にも言ったことある話だったからこれだけでも察してくれたらしい。
そうして、あまり話したくはない話題をさっさと切り上げて、件の野戦砲を確認する。
実際に見てみるとこれ大砲みたいなものかな?というかそのものでは?そして見ただけでわかる術式の数の多さよ。スペルガンとかよりもサイズが大きいからそりゃ数も増えるだろうけどもそれだけじゃなくて密度も増している。なんだろう、これはやっぱり。
「加減って知ってるかなあ。これ撃ったらどうなるんだろ」
「撃った場合ですか?フェンリルへの一撃と同等の火力が容易に出ますよ」
うん、やばいね。多分この作りならあのときみたいに一回で壊れるなんてこともないだろうし。移動さえできればこの火力がどこでも出せるんだからうちの国での魔物討伐で欲しいくらいだよ。やっぱりやりすぎでは?
「ええとね、ルナ」
「なんですか?」
「これうちの国でも過剰火力。同等の火力出せる魔法使いは魔法使いのうちの半分くらい。多分並みの魔物なら命中さえすれば一撃で粉みじんだし人に対して使えば塵も残らないんじゃないかな」
私の見立てではこの野戦砲は化け物としか言いようがない。下手な魔法使いよりも火力出そうだし。正直こんなもん量産されたら普通にパワーバランス壊れるって。一体何を相手するつもりでこれを作ってしまったのか、これがわからない。
私の発言を聞いて周りの人の顔が引きつっているのが見える。まあ、そりゃそうよね。私も引きつってないか心配になってるもん。
「ええと、フレア?」
「何?」
「つまりこれは無駄って言いたいんですか?」
「ワンオフとしてはまあありだとは思うんだけど、その、量産することを考えるとどう考えても過剰性能だし、量産できるかというと、うん」
私が正直言うと言いにくいことを濁しながらもルナに伝えると、ルナが捨てられた仔犬みたいな顔をした。あの、そんな庇護欲を誘う顔しないでもらえないかな。すべてを肯定したくなるからさ。でも、ここは歯を食いしばって言っておかないと間違いなく繰り返して最終的に死人を出す気がする。
「一応補足すると無駄ではないよ?緊急時とかの最終兵器としてはしっかり運用すれば使えると思う。だけど、ルナの今回の目的には沿わないかなって」
「わかりました…」
うーん、ルナのテンションがどんどん下がっているのが目に見えてわかる。…一回一通り下げてからあとで取り戻そう。私もルナがこの状態のままなのは本意ではないからね。
「うん、この野戦砲も含めてどこかのタイミングで量産できるように頑張ってみようかな」
そのためにはうちの国の鍛冶職人とのやり取りも必要になるだろうけど、まあそれは技術提携とかの形でどうにかすればいいでしょ。今のところは少なくともうちの国からは敵対する気は一切ないわけだし。うん、母上の頼みとついでに提案だけでもしてみようかな。
「ルナ、とりあえずこれについては確認終わったよ。で、最後は航空機だっけ?そっちを見に行きたいかな」
「…はい、行きましょうか。どうせ、過剰って言われるんでしょうけど」
ああ、ルナが完全にナイーブになっちゃってるよ。うう、でも、悪いところは悪いと言っておかないとあとで尾を引きそうだし。
「では、行きましょうか」
そう言って、歩き出したルナの後ろ姿にはどこか悲し気で、寂しげなものが見えたのはきっと気のせいではないのだろう、そう思えてしまった。
軽く補足をすると、ルナはある目的があってこれらを作って量産をお願いしています。文中にもある通り、性能は申し分ないのですが、問題はそれが量産できるかどうかを量産前提なのに度外視している点が問題になっています。フレアはそれをわかって胸を痛めながら指摘しているというわけです。
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