第110話:それはそれとして凹んでるルナは可愛いと思う
「うう、フレアー」
ひとしきりシモンさんからの苦言を受けきったルナはそう言いながら私の方へとフラフラ歩いてくると私の胸元へと頭を寄せてきた。
「ルナ、少し待ってね?」
身長差のせいでルナの体勢が大変なことになってしまっていたから一回ルナを引きはがした後、近くの椅子を探してそこに座った。ちゃんと先にシモンさんにアイコンタクトで座っていいかは確認しておいた。アイコンタクトで察してくれるタイプの人で助かったよ。
「ほら、いいよ」
「フレアー」
私が合図を出すとルナが飛び込んできた。その様子がどうにも子供っぽくて可愛らしい。そうして、凹んでるルナを撫でながらも、ルナをその状態にした原因のシモンさんに声をかける。
「ええと、お疲れ様です」
「いつものことなので気にしないでください」
シモンさんは苦笑いしながら返してきた。これ、いつも通りのことなのか。どこか、疲労の色が見え隠れしてるんだよな。一体どれだけ振り回されているんだ、この人…
「で、一応察しはついてるんだけどルナは一体何をやったの?」
「お察しの通り、俺達では再現不可能なものを量産してほしいと言われたんだ」
「あー、まあ魔法系統の技術使われてるからなあ。一応私も確認したんだけど、あれ再現できるのうちの国でも上位の職人だけだよ。少なくとも全員ができるものじゃないね」
「そうなのか。この姫様過去最大級の無茶振りを要求してきたってことか」
「今まで、どんな要求をされてきたのかはわからないけど、まず、魔法関係のものの時点できついのは間違いないでしょ」
「…正直、今まではどうにか再現自体は出来ていたんだ。一個ずつだったのもあって余裕もあったからな。でも、今回は急に大量に持ってきたのもあってな」
そう言って、シモンさんが苦虫を噛みつぶしたような顔をする。ルナ、この戦車以外にも作ってたんだ。いや、夜に無理に寝る必要ないとはいえやりすぎじゃない?そう思って、胸元で頭をぐりぐりし続けているルナにふと視線を向けると、動きをピタッと止めて、少しだけ頭をあげると、視線だけを私の方へと向けてきた。
「ねえ、ルナ。あそこに置いてある戦車以外に一体何を作ったの?」
「…ヘカテリア王国に持っていったスナイパーライフルの簡易版と、スペルガン、それに魔道野戦砲に新型の航空機を三つくらいです」
「それをうちの国に出る前に全部まとめて置いていったの?」
「はい」
「あ、フレア殿下。ちなみにマジで置いていっただけで、置き手紙だけ残されていましたよ」
私はルナのやらかした所業に対して思わずこめかみをぐりぐりとしてしまう。いや、もし同レベルの技術を使ってるとしたら量産なんて現状無理だし、そんなものを大量に投げつけられた技師のみなさんに同情するしかないよ、これ。
「ねえ、ルナ」
「なんですか」
「やりすぎ。先に言っておくとルナの言う量産の程度がどれくらいかにもよるけどうちの国でもあんまし作れないと思うよ。戦車とかは一日に一台も出来ないんじゃないかな?」
「え?」
ルナの絶句の声が聞こえた。うん、悲しいけどこれが現実なんだ。
「んーとね、ルナの作ったものって私の作れるものの天井に近いんだよ。だけどさ、うちの国には私と同レベルの魔法使いはほとんどいないんだ。私もたまに同じようなことはするよ?するけどさ、結構技術レベル落とすんだよね。だって、下手にレベル上げすぎると本末転倒になっちゃうから」
「今までは出来てたんですけど…」
「いや、まあ今までは理解できるレベルだったんだがな、今回は本当に理解できなかったんだ」
「シモンさんも言っている通り、今回の問題点はまず今までと違って、そもそもの数が多い、そして、この国の人にとっては未知の技術が使われてるってとこだね。まあ、つまり、今回のルナはやりすぎ、ってことだね。質的にも量的にも」
「…はい」
あ、やばい、さすがに言いすぎたかも。ルナのテンションが見たことないレベルに低くなっている。
「ええとね、ルナ。頑張ったのは認めるよ。だからそんなに落ち込まないで欲しいな」
「…少し放っておいてください」
あ、ダメだわ、これ。これはこのままにしておいておこうか。
「シモンさん、一応、ルナの持ち込んだものを確認したいんだけど、見せてくれませんか?」
「ああ、いいが。航空機と野戦砲は少々動かすのが難しくてな。出来れば近くまで移動したいんだが。今、動ける状態ではないだろう?」
「あー、とりあえずそれ以外持ってこれます?」
「わかった。少し待っていてくれ」
シモンさんはその場を離れた。そして、私とルナだけがそこに残された。すると、ルナが軽く私の肩を叩いてきた。
「どうしたの、ルナ?」
「バカ」
そう言うと、ルナはさっきよりも強く肩を叩いてきた。ルナや、少し痛い。多分苦情のつもりなんだろうけど、私の胸元に頭を埋めている状態のままなせいでどこか可愛らしい。どうにもその様子が愛おしくてつい頭を撫でてしまう。いや、さっきからずっと撫でてるんだけどさ。
「フレア殿下、とりあえずこいつらだな」
ルナを愛でていると、シモンさんが私のお願いしていたものを持ってきてくれた。
「あ、シモンさん。とりあえず私の手の届く位置に置いて欲しいかな」
「あいよ」
さてと、ルナが作ったものは、っと。一つはルナが持ってきたスナイパーライフルに近い感じかな。ルナの邪魔にならないように持って確認してみると銃身などに術式の加工の跡がある。なるほど、確かにルナが簡易版と言っていた意味が分かる。これじゃこの前のフェンリルへの一撃は放つことすら出来ないだろうからね。まあそれでもこれをこの国で作れるかというと…うん、無理だね
次にスペルガンを手に取ってみる。こっちは前に作ったやつよりも術式や機能が洗練されていて、かなりの高性能だと思う。ただ、少しだけ燃費は悪いかもしれないかなあ。なお、どちらにしてもこの国で以下略。
とりあえずこの二つ、それに戦車を見て分かったのはルナの魔法関係の技術はうちの国の最高レベルの技術とほぼ同等だってこと。まあ、つまり私と同じくらいってこと。なんで術式とかの用意が出来るかは、まあルナが魔女だからだろうけど、そこで使われている術式の中身についてはルナ本人の能力の高さ故だろう。うん、さすがだね。多分残りのやつも同じ感じだろうね。
それと同時にこれを量産して欲しいって言われたこの国の技術者の皆さんには、その、お疲れ様です、としか言えないかなあ…
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