第106話:リネストスの推論
「ねえねえ、フレア?次ボクがルナ殿下と戦ってもいい?ルナが何をしてるか気になるんだ!」
ルナと母上の戦いが終わったあと、リネリネが面白いことを言い出した。どうやらルナに喧嘩を売るつもりらしい。
「ええと、貴方は確か、リネストス・アーノルドさん、でしたっけ?」
「はい、合っていますよ。ルナ殿下」
そう言ってリネリネがカーテシーをする。
「え?リネリネってカーテシー出来たの?」
「いや、フレア?さすがにひどくないかな?ねえ?」
リネリネが不服のありそうな声を上げているけれど、私はそれをサラッと無視する。アナも無言で肯定しているあたり、多分これがリネリネと親しい人の共通認識なんだろう。
「戦ってもいいですけど、リネストスさんもフレアが欲しいのですか?」
「んにゃあ、違うよ?ただルナ殿下の力に興味があるだけだよ?あ、あと私のことは呼び捨てで大丈夫だからー」
リネリネはどうやらいつも通り知的好奇心にしたがって行動しているらしい。
「それなら戦う意味がないのであまり戦う意味はないのですが」
「えー、じゃあボクのルナ殿下の力についての推論を代わりに聞いてよ」
「へえ、面白いですね、聞きましょう」
「じゃあ少し話させてもらうね、ルナ殿下。まず、最初に一つお尋ねさせてもらいますね」
「どうぞ?」
「ルナ殿下って今日、ここでの戦いで一回たりとも力のすべてを使ってはいないよね?」
その言葉で辺りはざわついた。私、母上、そしてその問答をした二人を除いてだけども。まあそりゃあ、そんな反応にはなるよね。自分たちをいとも簡単に打ち負かせ、この国の強者の一角である母上と引き分けた相手、その人がまさか本気を出していなかったなんて思っていなかっただろうから。
「へえ、その根拠を聞いてもいいですか?」
「まず、ルナ殿下は探知魔法を無効化することができる、とフレアが言ってたよね?じゃあさ、普通に考えたら他の魔法も無効化できないとおかしくないかい?確かに途中からルナ殿下はレイピアで魔法を消していた。まあこの国って普通に剣とかなんやらで魔法を打ち消すどうかしてる人が結構いるから割と気にしてなかったんだけど、それの中身は〈エンチャンテッドソード〉などの魔法の干渉作用だから正確には無効化じゃないんだよ。でも、ルナ殿下のは違った。あれは術式自体が消滅してた。干渉作用なんてものじゃなかったんだ。つまり、ルナ殿下は、魔法を消す力をレイピア以外で行使しなかったんだよ。なんなら、魔素を使えば理論上、すべての魔法を消すことができるんじゃないかい?」
そう早口でまくし立てたリネリネに対して、ルナは少し驚いたような顔を見せた。
「ええ、細かいところは違うのだけれど、大体は合っていますよ」
「お、やっぱり。なんならその魔素の扱い方的に、魔素の濃度も変えれたりするでしょ?例えば、魔素を濃縮して閃光みたいにしてみたりとかね」
「…そこまでわかるものなのですか」
リネリネは得意げに話を続ける。ルナはリネリネの追加の推論を聞いて目を丸くしていた。正直、私も驚いている。いや、だってね、リネリネがここまでのルナの戦いを見ただけでルナのできることを大体予測しちゃったんだから。
「うん、わかっちゃうよ。だってボクは研究者だからねえ」
「…へえ」
あ、リネリネ無意識のうちに喧嘩売ったな、これ。
「最初、リネストスは私と戦いたいって言いましたよね?」
「そうだね、断られちゃったんだけどねー」
「気が変わりました。戦いますよ」
「ほーん、そっか。そんなに当てられたのが悔しかったんだ?」
「…では、フレアと戦ったときと同じもので相手して上げますよ」
「じゃあルナ殿下の力を身をもって味わおうかな」
「え?ちょっと待って?私置いてかれてる?」
そんな感じで私が止める間もなくルナとリネリネの戦いが始まったけれども決着はまああっさりとしたものだった。開幕でリネリネが大量の土の壁を展開。それをルナが遠距離から黒の閃光ですべて打ち消し、そして、どこからか出した針をリネリネに向かって発射してリネリネの頬へと傷をつけて終わった。あまりにも早すぎて、そして、ルナの想像以上の力にその場にいたルナと私以外の目が点となっていたのが印象的だった。
「いやあ、すごいね。ルナ殿下」
「…別にすごくないですよ。ただ、あまりにも魔法に対して優位に立てるだけです」
「それでもだよ」
「フレアには打ち破られましたけどね、真正面から」
リネリネがルナを素直に褒める中、何故かルナは私に話を振ってきた。いや、なんで?
「あのときのフレアは本当にすごかったんですよ。私が魔女になってしまったことで心の中がぐちゃぐちゃだった私を自分のことなんて気にしないとばかりに挑んできて、何回も何回も魔法を打ち消しても、傷ついても向かってきて、最後には、私を、その魔法で救ってくれたんです」
ルナはそう言ってチラリと私の方を見てくる。少し顔が赤くみえるのは気のせいではないと思う。
「それに、最後にフレアが大好きって、叫んでくれましたし」
「ちょっと待って!バラさないでよ!」
このときのことをリネリネは後にこう語った。
「多分、あの場にいた人たちはみんなこう思ったよ、あ、勝てない、ってね。だってあのときフレアはボフッという効果音がぴったりなレベルで顔真っ赤にしてたし、ルナ殿下もまた頬に手を当てて恥ずかしそうにしてたからね。どっちも恋する乙女と言わんばかりの表情で、それでいて、互いに好き好きオーラ隠し切れてなかったしね。あれの間に挟まれる人なんていないよ。ムリムリ」
閑話休題
その後、私が恥ずかしさのあまり、ルナをポカポカと殴ったり、アナがルナに魔法縛りでの戦いを挑んでなかなかいい勝負を繰り広げたりした。ちなみにルナが勝った。まあ、アナは満足したようだしこれでよかったと思う。ただ、戦いの前にルナがアナが魔法を使ってないことを確かめるとか言ってアナの肩に手を置いたや否やアナが崩れ落ちて女の子座りをしたときは少し焦った。アナもポカンとしていたし。いつもの凛々しい顔が台無しになっていて、正直少し可愛らしかった。まあそれはいいとして、これは少し考えないといけない事案な気がするなあ。
と、訓練場での決闘騒ぎは色々とあって収束に向かっていった。そんなときだった。
その場にいるルナ以外の人間が桁外れの魔力を感じたのは。
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