第103話:フレアは逃げだした!
「ルナ―!助けてえ!」
「どうしたんですか?フレア」
ごめんなさい、母上。私は耐えられませんでした。あの手紙の山に。ということで、アナと話して二日後、究極の現実逃避ということでルナのところへと逃げ込んでいた。一日は耐えれたけど、今日の朝処理したはずの手紙の山が復活しているのを見て心が折れちゃった。
逃げ込んだ先であるルナの離宮ではルナが何か机に向かって作業をしていた。机の近くには何やら大量に金属の部品が数多く置かれていた。何よりも目を引くのはやたらと長い布で包まれたものが置いてある。そんな中で作業をしているルナは唐突に出現した私の方を目を見開いて見つめてきていた。
そんなルナに対して私はヘカテリア王国であったことを説明した。まあ、ここに来る原因になった手紙の山のことについてだけなんだけどね。
「はあ、確かにそれだけの書類の処理は大変でしょうね。しかし、なんでそんなに手紙が?」
ルナのその問いに対して私は続けてたくさんそんな手紙が来るようになった原因と思われることを話した。ついでに私の国での手紙の意味も話しておいた。すると、ルナの目が得物を見つけた鷹のようなものに変わった。
「へえ、そうですか」
しばしの沈黙ののちに口を開いたルナから放たれた言葉はとてつもなく鋭いものだった。なんかひどく嫌な予感がする。冷静に考えると私がした話は私に結婚を持ちかけている人がいるって話。そんな話を聞いたルナが、世界でも並ぶもののいないレベルに私へと執着しているルナがそんな私を狙う人がいるって話を聞いたらどんな反応をするか、正直ろくでもないことになる気がする。
「では、フレア。とりあえず今日は泊って行ったらどうですか?」
ルナは今度は一転として笑顔を作ってそう言ってきた。さっきの剣呑とした雰囲気からひっくり返ってて正直怖い。ルナは私に対してはどうしても甘い、というか溺愛してくるんだ。だから、逆に私以外の人に対してはどう動くのかわからない。わからなさすぎる。今までがどっちかというと無関心といった方向だったと思うけど、今はわからない、特に、私に何かをしようとする人に対しては。
「じゃあそうさせてもらおうかな」
そんな様子のルナへの戸惑いを秘めながらもルナの誘いに乗る。正直逃げてきたからすぐに戻るってのもなんか違ったからね。
「では、私は色々とやっておかないといけないことができたので少し留守にしますね」
そう言ったルナは例の長物を含めた様々な道具を持って慌ただしく部屋を後にした。
「…ルナが戻ってくるかと思ったら戻ってこない」
もうすでに窓の外は暗くなってしまっている。だけれども、ルナは戻って来ていない。正直、思った以上に寂しい。私はルナに年上の威厳を見せたいと思いながらも心のどこかでは好きにされたいと思ってしまっているのかな?自分自身でもちょっと分からないし、今は分かりたくない。ただ、事実として、どこか物足りないと思ってしまっている私がいる。
…ルナの匂いがする。
ちなみに今の私はルナがいないのをいいことにルナのベッドに入り込んでいたりする。どこかシトラスを感じる匂いが残っているような気がして枕に顔を埋めて堪能してしまう。やってることがどう考えても変態なような気がしないでもないけど、私の欲望は理性の制止を振り切って全力疾走しているから止める気なんて一切起きない。ふにゃあ、ルナの匂い、幸せ…
……
「フレア、起きてください。もう朝ですよ?」
「うん、あれ?」
ルナの声によって意識が浮上してくる。枕に埋めていた頭を上げて横を見ると、ルナと目が合った。
「で、感想はどうですか?」
「…よかった」
「ふふっ、そうですか」
ボーっとしたままルナの質問に答えると、ルナがニヤニヤしてこちらを見ていることに気づいた。それと同時に私がどんな返答をしたのかを思い出して顔にサッと熱が上がってきてしまった。
「戻ってきたらフレアが私のベッドにうつ伏せで寝てしまっているからびっくりしましたよ。それで試しに聞いてみたら、まあ見事にいい返事が返ってきましたね」
そう言ったルナは私の耳元に口を寄せてくる。
「もっと堪能したっていいんですよ?私は構いません」
そして、こう囁いて耳へと軽くキスをしてきた。そんなのを食らってしまった私は再び顔が熱くなるのを感じてまた枕に顔を埋めてしまうのだった。
そうして朝っぱらからルナによる全力攻勢を受けてから、半分は自業自得な気もするけれど、少し経って、動ける程度にメンタルが復活したので、朝食をもらったのちに、ヘカテリア王国へと戻ることにした。
「で、なんでルナは旅支度を?」
「なんでって、それは私もフレアと一緒にヘカテリア王国に行くためですよ?」
そうしたら、ルナもなぜか私に着いていく気満々のようだった。ルナの手には一通りまとめられた荷物があった。また、ルナの背中には昨日も見た長物が括り付けてあった。
「え?なんで?」
「それは、まあ後で教えますよ」
「必ず?」
「ええ、必ずです」
「…わかった。行こうか」
「はい♪」
少しだけ悩んだけれど、私はルナを連れてヘカテリア王国へと戻ることにした。何故か私に着いていきたい理由を頑なに教えてくれないけれど、私が損するようなことではないだろうから、大丈夫だと思う。それに、一回ルナのことを父上や母上、兄上にも伝えておきたいしね。丁度いいでしょ。
「それじゃあ、行くよ、ルナ」
そう言って私が手を伸ばすと、ルナは私の手をしっかりと掴んだ。そして、私達は東の空へと飛び立っていった。
そうして、飛び立った翌日、その飛び立っていった先のヘカテリア王国の王城近郊の訓練場、そこにはフレアに手紙を出していた人、お見合いのお誘いを送っていた貴族や騎士たちが集められていた。
そんな彼ら、もしくは愉快犯の彼女らの前に私はルナを隣に連れて姿を現した。集められた貴族たちの視線が私へと向けられる。ルナの方へは不思議なことに一切と向けられていない。
私がそれらの視線を浴びていると、それを遮るかのようにルナが私の前へと出て口を開いた。
「えー、私はエクスマキナ王国の魔女、ルナモニカ・フォン・エクスマキナです。今後ともよろしくお願いします。貴方たちはフレアと婚約したい人たちだと聞いています。そして、私はこの国が強者原理の強い国であることも耳にしています。で、フレアはこの国で最強の魔法使いであると言っても過言ではない」
そこでルナは一回言葉を切って周りを見回した。唐突に現れたように感じるルナに対して貴族たちは困惑を隠し切れていないように見える。そんな彼らの様子を確認してルナはこう言い放った。
「では、みなさん、私と戦って勝ってください。もし、誰も勝てなければフレアは私がもらっていきます。この国の文化的には問題、ないですよね?」
私は確信した。きっと、今のルナは物凄い満面の笑顔である、と。
愉快犯は幼馴染含む数人です。見事に巻き込まれました。
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