第101話:貯めてた問題と幼馴染たち
「んにゃあああああ、さすがにこれは多すぎるでしょうがあああ!」
ルナと一旦別れて帰ってきた翌日、私は机に突っ伏して思いっきり頭を抱えていた。理由は突っ伏している机の上に積まれている大量の手紙だ。私は今からこの手紙全ての中身を見て返事を書かないといけない。…恐らく全部同じ内容になるであろう返事を、だ。
「なんでこんなにお茶会の誘いの手紙が来てるのよ…」
そう、これは主に男性貴族からのお茶会のお誘いの手紙だ。これにはこの国の風習が関係しているんだけど、これが私にとっては相当煩わしいものだったりする。まあ、シンプルにいうと、この手紙はお茶会という皮を被ったお見合いのお誘いなんだよね。送り主も本人じゃなくて親の場合が多い。まあ、たまに本人が送ってくる場合もあるんだけど関係ない話。だって、基本的に全部お断りなんだもん。
「しばらく不在だった私が悪いのかもしれないけどさあ、さすがに多すぎない?」
普段は届くたびにサクッと返事を書いて送っているんだけど、今回はそうもいかない。なんてことをしてくれたのでしょう。私の目の前には三つの手紙の山が!まあ原因に察しはつく。一つはさっき挙げたようにしばらくルナ関係で不在だったり余裕がなかったりしたこと。そして、もう一つがルナと一緒にしたドラゴン討伐、私の中ではある程度克服したとはいえ未だにトラウマになっている魔女事変の活躍、そして先のフェンリル討伐によって私の名声が高まりすぎたことだと思う。この国は文化的に強い魔法使いは尊ばれる関係で強い魔法使いには男女問わずこんな感じのアプローチが来る。その人の身分によってその方法は異なるんだけど私のような人だとこんな感じで手紙がいっぱい来るという感じ。
「あー、もうめんどくさいなあ。送らなかったら拒否ってことになってくれないかなあ」
でも残念、現実は非情である。如何せん、私の身分が王族であるせいで無視をするということは身分の品位を損なうことになってしまうからね。という訳で一つ一つ丁寧に中身を確認してその上でテンプレのお返事を書いているというわけだ。ちなみに、今の山は三つだけど、実はもうすでに二つ処理したあとだったりする。正直もう流し読みだし差出人もふーんで軽く流している。
「やらないと進まないからやるかあ、ってん?これって」
疲れ果てながらも手紙を捌くのを再開すると、初っ端で無視するわけにはいかないものを見つけてしまった。
「あー、こいつのところには顔出しておくか。というかなんでお茶会の誘いとして手紙を出したんだ?こいつ」
返事なんていらないとばかりに日時までしっかりと指定していやがったのがなんかむかつく。というかその日付が今日だし。何?来なかったらどうする気だったのこいつ?いや、ある意味いつものことか何回か気づかずに行かなかったことあるけどへらへらしてたし。なお、行く確率は半々である。如何せん、私が気づいたときには指定日時過ぎてるとかよくやらかすからね、こいつ。
「ええと次は、ってリネリネじゃん!なんでリネリネもお茶会の誘いとして出してんの!?」
私の知り合いはどうにもやりたい放題らしい。
「という訳で来ちゃいました!」
「いや、フレア?という訳でってどういうことだい?というかなんで窓をから入ってくるのだい?うん?窓から?」
私は気分転換、決して現実逃避ではない、のためにリネストス・アーノルドが根城としている魔法学院の研究室を訪れていた、窓から。リネリネは見事に虚を突かれたらしく相も変わらずブカブカの白衣を羽織った方をビクッとさせた後にこちらを未確認生物を見てしまったかのような目で見つめてきた。呆気を取られたリネリネをリネリネを不意打ちするという目論見を成功させた私はそのまま窓から堂々と研究室へと不法侵入を果たした。
「いや、リネリネってなんでか知らないけど私にお茶会のお誘いの手紙出してたでしょ?だから直接来ちゃった♪」
「いや、だからといってその来る方法に問題があるとボクは思うんだ」
リネリネがやれやれと言わんばかりの態度で何やら言っているけど私は知らない。文句を言うなら私に手紙を出した過去のリネリネに言った方がいいと思う。
「ところでさ、なんで窓から?」
「え?リネリネの不意を突くためだけど?」
「いや、そういう訳じゃなくて…」
「?ああ、そういうことか。うん、また使えるようになったよ、魔法」
「そっか、前会ったときは気を遣って聞かなかったけど話には聞いてたから心配してたんだよ。まあ、フェンリル討伐の話を聞いてからは心配してなかったんだけど。とはいえ、実際に目にしてみると、ね?」
「うん、心配かけちゃってごめんね?」
とはいえ、窓から入ってくるのはやっぱなしでしょ、と小声で呟くリネリネ。少し根に持たれてるっぽい。
「ちなみに今日ここに来た理由は?」
「大量の手紙の処理から逃げた、もとい気分転換のためだけど?」
「ああ、そういえばボクのところにもいくつかそういうの来てたような…」
そう言うとリネリネは机の下をゴソゴソと漁りだした。
「お、あったあった」
リネリネは若干折り目のついた手紙を複数取り出した。どう見ても開封すらしてなくない?
「いやあ、どこかのタイミングで返そう返そうと思ってはいたんだけど忘れちゃっててね」
やらかしたやらかしたとばかりに頭を掻いているけれどそれって問題しかないと思うんだよ。だって普段の態度からは想像もできないけどリネリネもまた公爵家の出なんだよね。だから丁寧に返さないといけないはずなんだけど…。どうやら本人はどうでもいいらしい。いや、さすがに少しは気にした方がいいと思うよ?
「はあ、家の立場もあるだろうからテンプレ文でいいから返した方がいいと思うよ?現に私もそうしてるし」
「えー?いいよ、別に。ボクはこうしているのが大好きだからね。それに、ボクがこうしているのを引き留める気もなかった家のことなんてどうでもいいよ」
最後の言葉にはどこか諦念の意が篭っているように感じた。リネリネとその実家、アーノルド家の確執は知ってはいたけれど未だに根深いようだった。
「まあ、それはそうとして、たとえ本来やるべきことを無視していることには何か言うべきかも知れないのだけど、それはそれとしてフレアとこうして会えたのがボクは嬉しいよ」
そう言って、見るたびに気になってしまうダルそうな目を細めてリネリネは笑うのだった。
そうして、リネリネと久しぶりの会話を楽しんだ夜、私は会う約束をしていた人に会うために王城のある一室を訪れていた。
「入るよー、アナ?」
扉をトントンと数回叩きながら聞いてみると、ああ、入るといい、と返事が返ってきた。
「やあやあ、久しぶりだね、フレア」
部屋に入ると、真正面に紺の髪を短くしたどこか中性的な雰囲気を漂わせる人物が座って待っていた。座ったまま私へと会釈する動作がどこかキザったらしく感じてしまう。その顔にもまたキザったらしい表情を浮かべている。いつものような様子を見せるアナに肩をすくめながらも机を挟んで向かい側の椅子へと座る。
「俺はフレアに会えて嬉しいよ」
「で、今日は何の用なの?」
ウインクをしながらもお世辞を言ってくるのを無視して私は今日呼びだした理由を尋ねる。
「フレアは辛辣だねえ。まあ、いいだろう。俺の今日の用はまず、フェンリルの討伐のお祝いというのと、そのフェンリルの素材について少し商談をしたくてね」
「ん、まあ、大体予想は出来てたんだけど、それじゃあ少し話そうか」
「ああ、では商談を始めようか」
そう言ってアナはキザったらしい顔から一転、かっこいいながらもどこか庇護欲を感じさせる笑みを浮かべる。一体何人の女性がこの笑顔に落とされたのか考えると少し頭が痛くなる。しかもこれが彼女曰く無意識なのだから手に負えない。そう、彼女、なんだよね。今、私の目の前にいる人物、アナ・レガルタは現宰相の長女にして、男装の麗人であり、リネリネと同じく私の幼馴染、なのである。若干、不本意だけどね!
という訳で新章開始です!
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