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Princesses' Fairytale~魔法と科学の出会いは何を魅せるのか?  作者: 雪色琴葉
第三章:二人の王女と諦観の月と再起の太陽
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第100話:執着の答えと一旦の別れ

「ルナ、戻ったよ」


 ルナの部屋の扉を叩いてそう呼び掛けてみたけれど、返事はない。どうやらルナは今は部屋にいないらしい。仕方がないので離宮にいるときにいつも使わせてもらっている部屋へと戻った。部屋には埃などは積もっておらず、定期的に掃除されていることが窺える。そういえばルナの部屋も埃とかはなかったな。ルナと少し話したいことがあったのに肝心のルナがいないせいで若干手持ち無沙汰になってしまった。


「あれ?フレア様戻られたのですか?」


 そんなところにノックもせずに入ってきたのはメイド服を着て手に箒などの掃除道具を持った黒髪の少女、クレア・サテリットだった。なるほど、彼女が掃除をしていたから埃とかがなかったんだ。


「はい、ルナに会いたかったんですけど今部屋にいなかったので」

「ああ、そういうことですか。理解しました。それと、私に対してはそんな硬い口調じゃなくてもいいですよ」

「ん、わかった」

「では、そういうことで。掃除は不在の間にさせていただくので」


 そういってクレアさんは部屋から出て行こうとしてしまう。


「あ、少し待って」

「なんですか?」

「今少し時間はある?」

「ええ、ありますが、何か御用ですか?」

「いや、少し話を聞いてほしくてね」


 私の言葉を聞いたクレアさんは私の座っていた椅子の隣まで来た。瞳で話をどうぞ、と語り掛けているような感じがした。


「私はルナのことが好き。ルナも私のことが好き。そこまではいいんだけどさ、なんていうか、互いにそれを伝え合ってからというものルナがそのね、強いんだ」

「ああ、確かにそうですね。なんとなくルナ様からフレア様への矢印の強さは感じてました。それに、今朝のこともありましたので。完全にあれ押し倒されたようにしか見えませんでしたよ」


 今朝のことを思い出してしまったのだろうか。少し顔を赤くしている。まあ、あれ見られるのも恥ずかしいけど、見る側も少し恥ずかしいだろうからなあ。仕方ないよ、うん。


「正直、これから先もあんなのを見られるかもしれないと思うと少し、ドキドキするような」 


 ん?この子小声でなんて言った?


「もっと二人でそういうことしてくれてもいいのに」

「えーと?今何て?」

「あら、口に出ていましたか?何も言っていませんよ?」


 どうやら思っていることが口に出ただけらしい。いや、問題しかないような気がするんだけど?大丈夫かな?この子?


「…とりあえずさっきの話は気にしないとして。私、なんでルナがそんなに私に執着?してるのかが知りたいんだよね。なんか少し危うく感じちゃって」

「危うい、ですか」

「うん。ルナのことについては昨日一緒にいたから知っているでしょ?ルナは必ずこれから先一人になる。私もきっとルナに置いてかれてしまう。だからさ、今、ルナが執着してるのを見てると私がいなくなってしまった後は大丈夫なのかな、って」

「ああ、そういうことですか。多分それはきっと逆ですよ」


 逆?それってどういうことなんだろうか?どうも話を読めずに首を捻ってしまう。


「ルナ様はきっとフレア様がいなくなってしまうまでの間だけでもフレア様に甘えたいのですよ。限られた時間、その間だけでも一緒にいたい、近くにいて欲しい。そう思っているんですよ」


 そう言ってクレアさんは笑いかけてくる。私よりもきっと長くルナのことを見てきた人が言うんだから精度はかなりのものだと思う。


「そっか、ありがとね」

「どういたしまして、フレア様」


 そのあともしばらくは二人で話し込んだ。ルナのことが中心で、思いのほか仲良くなれたと思う。ただ、たまに胸を抑えるような動作をするのはなんだったんだろうか。ちょうどルナと距離が偶発的に近くなったりした話をした時にそんな動作を見せたけれども本当になんだったんだろう。


 そうして話し込んだ夜、私は再びルナの部屋へと訪れていた。今回は昨日みたいにグダグダすることなく入ることが出来たんだけど、


「あの、ルナさん?何してるんですか?」

「何って、フレア成分を摂取しているんです」


 ルナは私を部屋に入れた後、ベッドに座るように促したかと思うと私が座るのを確認して、後ろから思いっきり抱き着いてきた。そして、首元に顔をすりすりしているのが今の状況だ。いや、どういうこと?


「だって、仕方ないじゃないですか。今日の午後は全然会えなかったんですから」

「一日も経ってないじゃん。大丈夫なの?それで」

「ううう」


 うめき声のあと、すーーっという吸うような音が聞こえた。実際、空気の流れを感じたから吸ってるんだと思う。


「私、明日には一回ヘカテリア王国に帰るからね?ジョイア陛下との会話の中で色々とやらないといけないこと思い出しちゃったから」

「え?」


 私を抱きしめる腕の力がより強くなった。離さないという強い意志を感じる。


「嫌ですよ、そんなの。私もついていきたいです」

「いや、ダメだからね?ルナもやることあるでしょ?」

「まあ、そうですけど。どうにかします!」

 どうやらルナは私から意地でも離れたくないらしい。丁度いいタイミングだと思ってルナに今日ずっと求め続けていたものの答えを直接聞くことにした。


「ねえ、なんでルナは私から離れたくないの?」


 ルナは一瞬動きを止めた。呼吸すらも止まったように感じる。


「そうですね、正直私もよくわかりません。ただ、胸の奥から湧き出る感情に思い切り引っ張られてるだけな感じがあります」


 予想してなかった答えが返ってきた。本人にもわからないってどういうこと?いやほんとになんで?


「でも、この感情は間違いなく嘘ではないんです」

「…その感情って?」


 聞くのが少し怖くはあるけれど、ルナの考えてることを知りたいから聞いてみる。


「独占欲、フレアを私の物にしたいって欲ですよ」


 言い終わった直後、首元に少しの痛みが走った。つい、声に出てしまう。


「ふふ、少しだけ跡、つけちゃいました」


 ルナが耳元でそう囁いてくる。若干吐息が耳に掠って、また声が出てしまった。


「耳が赤いですよ。恥ずかしいのですか?それとも照れているのですか?」

「んにゃあ、ルナのバカあ」


 振り返ってみると、ルナの顔が映る。ルナは悪戯に成功しました、と言わんばかりの顔をしていた。ただ、その顔もすごく魅力的で、それ以上何かを言うことは出来なくなってしまった。


「まあ、帰るのなら仕方ないですよ。フレアにもフレアのやりたいことがあるのは分かりますから」


 ルナは言葉を続ける。そして、私を抱いたまま体をクルっと回転させたかと思うと、私をベッドへと押し付けてルナが上になる体勢になった。あれ?これ昨日と同じパターンでは?


「だから、今は私だけのフレアでいてくださいね?」


 すると、ルナは首元へとキスをしてきた。またチクっとした痛みが走る。どこか気持ちよさも共存していて少しおかしくなりそう。


「ルナ、やめ、んっ」


 私の言葉なんて知らないとばかりに首元へのキスを位置を変えながら続けるルナ。やがて、肩の方へと流れていく。少し気になったのは今日は体から力が抜けるなんてことは起きていないこと。


「ねえ、そういえばルナ」

「ん、なんですか?」


 私の首元へと顔をうずめたまま私の方を見上げてくる。その瞳は私の内情を探っているように見えた。


「昨日、私にキスするとき、何したの?なんか体に力が入らなくなって抵抗できなくなったんだけど」

「…特に何か、した、つもりは、ないですね」


 ルナは話しながらもキスを止める気はないらしい。さすがにこういう時は止めて欲しいんだけど、どこか心地よさもあるせいで拒む気になれない。


「あ、でも、あのとき、フレアを心底私のものにしたいと思っていましたね」

「ルナのものに?」

「はい。その一心だったので、何かをしたという意識は。あ、いや待ってください、似たような感覚は覚えがあります」

「何?」

「魔素を金属に浸透させるときの感覚ですかね。少し違いますが、感覚としてはかなり近かったです。まあ、実際、生物の骨って金属も含まれてるから不可能ではないのでしょうけど」


 なんか怖いこと言い出したんだけどこの子。何?私を操ろうとでもしたの?さすがに怖いんだけど?


「まあ、実際は出来ませんでしたけどね。でも、フレアは何もできなくなったと」


 そこでルナは頭を私の首もとから離して私の腰辺りにのしかかると腕を組んで考えるような動作を見せた。そして、何か思い立ったかのように手をポンと叩いた。


「もしかしてフレアって常に魔法を使っていたりしますか?」

「ふえ?」


 常に魔法を使っている?そんなことあるのかな?実際私がそこらへんを意識していないから自分自身ではよくわからない。けれど、ルナのやろうとしたことを考えるとその可能性を否定することが出来なかった。


「ごめん、私でもわからないや」

「じゃあ、ここで少し試しましょうか」

「え?」


 そう言ってルナは私の体を腕で引っ張り上げると思いっきり抱きしめた。すると、私は私の体を支え切れなくなって、全ての体重をルナへと預ける形になってしまった。


「なるほど、そういうことですか。間違いなくフレアは普段から魔法を使っていますね」

「…どういうことなの?」

「私は今、思いっきり魔素をフレアの体に浸透させようとしました。けれども、昨日と同じように似たような感覚、で止まってしまいました。代わりに得られた結果が完全に脱力してしまったフレアです」

「…うん」

「つまり、フレアは日常的に無意識のうちに身体能力を上げる魔法を使っている、と考えるのが適切でしょう」


 そうだったんだ。私のことなのに知らなかったよ。って、そうじゃない!このままだとまた好き放題されちゃうじゃん!


「なんですか?フレア」

「また昨日みたいにしないよね?」

「今日はしませんよ。もうやりたいことはしてしまいましたし」


 そう言ったルナは脱力しきった私の体をそっと寝かせると、私の体から降りて隣に寝転がった。そして、私の腕を抱きしめてくる。


「さて、今日は寝ましょうか」

「えっ、あ、うん」

「寝る前に最後に聞かせてください」

「何?ルナ」

「フレアは、私と一緒にいてくれますよね?」


 その声はどこか寂しげな子供のように感じた。どうにもその感じが愛おしく感じてしまう。その問いへの返答は決まっている。


「うん、そのつもりだよ」

「そうですか、ありがとうございます」


 そう言ったルナは私の腕へとおでこをぐりぐりと擦りつけてくる。


「だってさ、ルナは私の大好きな人なんだもん。当たり前じゃん」

「そうですか、ふふ。私もフレアのことが大好きですよ」

「うん、それじゃあおやすみなさい、大好きなルナ」

「はい、おやすみなさい、大好きなフレア」


 そうして、魔女の問題を最低限解決した私達の夜は更けていった。


 翌朝、私は部屋にある鏡を見て唖然としていた。


「なに、この首元に大量生産された虫刺されみたいな跡は…」


 私の首元には妙にたくさんの赤い点があった。


「ん、おはようございます、フレア。何を見ているんですか?」

「ん、おはよ、ルナ。いやね、なんか首元が大変なことになってたから…」


 ルナは私の首元を眺めると、なんとも蠱惑的な笑みを浮かべた。


「ああ、それですか。それは私がつけたんですよ。心当たりないですか?」


 心当たり…?あ、そういえば、昨夜ルナが首元にキスをしまくっていたような…


「これもしかしてルナが?」

「もしかしなくてもそうですが?ごめんなさいね、フレア。どうしても我慢できなくて、跡、つけちゃいました♪」


 まあなんともご機嫌そうに答えるルナ。


「ちなみに、それ見られると色々と関係を勘ぐられるので気を付けてくださいね?まあ、私はそれでいいんですけどね」


 いや、よくないが?これ隠し切れる?無理じゃない?私がルナのとんでも発言に混乱していると、ルナは後ろから腕を回してのしかかるようにしてきた。


「だって、それはフレアは私の、っていう証なんですから」


 んにゃあああ!なんで耳元でそういうこと囁くかなこの子!朝から私の情緒ぐっちゃぐちゃだよ。ほんとに!


「ルナ!これ以上はダメ!お姉ちゃん命令!」


 これ以上翻弄されるのもアレだったから昨日与えられた手札を早速切ってみることにした。


「え?知っていますよ?でもどっちが年齢上かなんて関係ないですよね?なのでやめません」


 知ってたのかよおおお!


「…なんで知ってるの?」

「以前、母上がポロッと言ってました」


 うん、私の切り札、切り札になってなかった。ああ、もうどうにでもなーれ。


「…もう好きにして」

「いいんですか?」

「いや、やっぱ加減して」

「じゃあしばらくこうしていますね」


 結局この状態はクレアさんが朝食の為に呼びに来るまで続いた。なお、呼びに来たクレアさんは私達の様子を見るやいなや手で目を覆うようにしていた。でも、隙間から絶対に見えてたと思うんだ。というか、見てたよね?気のせいじゃないよね?


 まあ、そんな朝のこともあったけど、朝食後、私はヘカテリア王国へと戻るための用意を終えて、箒で飛び立とうとしていた。なお、首元の跡はどうにかルナから借りた大き目の襟のついたコートで隠したけれどどうしても一個だけ隠し切ることができなかった。これ絶対後でめんどくさいことになるよ。


「ええと、フレア。次はいつこっちに来るのですか?」

「んー、遅くても一週間後かな。何か嫌なことがあったりして現実逃避とかしたくなったらもっと早く戻ってくるかもしれないけどね」

「そうですか」


 ルナは俯いていてどうしても不安げに見えた。まあ、あの執着の仕方的にそうなるのもわかってしまう。正直私もルナと一緒にいたいのは事実だから。


「まあ、大丈夫だよ。必ずルナのところに戻ってくるから」

「それまで待っていますね」

「うん」


 言葉を返すと同時にルナの頭を撫でる。ルナの銀髪の触り心地は相も変わらず絹のようだった。ルナが目を細めるのが見える。ルナの頭から手を離すとルナから名残惜しそうな目線が送られてきたけれども、どうにかして耐えた。だって、下手に続けると一回戻ろうと決めた意志が揺らいでしまいそうだったから。


 私は箒に跨って飛行魔法を行使した。うん、魔法も問題なく使えるね。


「それじゃあ、またね、ルナ」

「はい、また会いましょう。フレア」


 ルナが手を振って見送ってくれる中、私は東へと航路を定めた。私の最初の居場所へと戻るために。私の魔法による残滓が青空をまるで極光かのように彩っていく。ルナはこれを見てどう思うのだろうか。綺麗だと思っていてくれると嬉しいな。


今回で第3章は終わり!次から第4章、そして第一部最終章です!

若干雑談をば

最近ラブコメ書きたい欲が高まりつつあるのですが、如何せんこっちの話の進みが不安定過ぎてさすがになあ、と思っていたりします。

まあ、こっちの筆がどうしても進まなくなったら気分転換に唐突に書き出すかもしれないのでそのときはお察しください。まあ、第4章は多分筆動きまくるんだけどね!


最後に、評価、ブクマ、感想などなどモチベになるのでぜひぜひお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 3章お疲れ様です。 ルナが年下ということで二人の関係に年下攻めという要素が加わり、これは更にエモくなったのでは……? と、二人のイチャイチャにニヤニヤしながら感じています。 そんな二人の良…
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