第99話:魔法使いの決意
あの後、約二名がルナによる唐突な私、フレアをお嫁さんにする宣言を受けて呆気に取られてしまった。そりゃもう言葉も出ない。ジョイア陛下はルナが女性を好きに?いや、ルナに好きな人が出来たということは喜ぶべきなのか?と大混乱している。なんでわかるかというと声に出ているから。そんな父親の姿を見てルナは満足そうに微笑を浮かべている。
私は私で大混乱である。昨夜のキスから思ってはいたけれど思った以上にルナの愛が重い。私が持っているそれの何倍も重い気がする。ただ、その重い感情を受けて混乱と困惑に襲われながらも同時に嬉しくなってしまって、少しドキっとしてしまう私も私だと思う。そんな私の心を見透かしてなのか、ルナが私の腕を抱きかかえたまま私へと流し目をしてきて、それもまた私の心臓を跳ね上げてしまう。
「ええと、ルナよ。とりあえずルナがそれでいいならそれでよいのだが、その、だな。フレア殿はいいと言っているのか?」
「はい、というか先に告白したのはフレアですよ?ならそれでいいんじゃないですか?」
「いや、ルナ?確かに好きだとは言ったけれど、その、結婚したいとまでは言ってないよ?それに、私も一応王族で立場ってものがあるんだけど?多分」
最後の方は声が小さくなってしまった。確かに結婚したいとかは言っていない。だけれども、言っていないだけだ。
「え?そんなの私には関係ないですよ?」
「いや、平然とそんなこと言われても困るんだけど、私が」
「むう、そうですか。なら仕方ないですね。今は諦めますね」
今は、って何?今は、って。なんか不穏?なことを言い出すルナを若干ジト目気味に見ていると、そんな私を見て不意に私の顎へと指を添えて顔を上げさせた。私の視界にルナの顔が映る。その瞳はどこか蠱惑的で、射止められたかのように私は動けなくなってしまう。うるさくなる心臓の鼓動だけが感じられる。
「ルナよ、フレア殿が茹で上がったみたいな顔になっているから止めてあげたらどうだ?」
「むう、お父様。そんなフレアが可愛くてやっていたのに、まあ仕方ないですね」
ジョイア陛下が助け船を出してくれた。おかげでルナの逃れたいようで逃れたくない魔の手から逃れることができた。なお、あくまで顎クイを止めただけでルナの温もりは一切私から離れていない。そんな私達の様子を見かねてなのか、それとも見て居られなくてなのか、ジョイア陛下がコホンと若干わざとらしい咳払いをした。
「とりあえず、今回の件を今すぐに決定することは不可能だ。話自体は通しておくのでそれで今回はいいだろう」
「はい、わかりました。お願いしますね」
「では、ルナは戻りなさい。フレア殿は少しだけ残ってもらえるか?」
「はい、分かりました。フレア、後でまた」
ルナはさっきまでの態度が嘘かのようにいつもの雰囲気へと戻ると、私から離れて部屋から退出していった。最後出て行く間際に私の方へと振り向いて手を振った時の目はさっきと同じものだったけれどね!
「で、だ。フレア殿。其方には残ってもらった訳だが、それは少し聞きたいことがあるからだ」
ルナが退出したあとにジョイア陛下が私へとこう切り出した。
「聞きたいこと、ですか?」
「そうだ。ズバリ言うとだな、フレア殿はルナのことをどうするつもりなのだ?」
ルナのことをどうするか、か。確かにルナのあそこまでの私への入れ込みようを見てしまうと確認したくなるわな、うん。
「ルナは私が守りますよ。ルナが魔女になってしまった原因の一端は間違いなく私にあるわけですし、それなら、私がその責任を、少なくとも私が生きているうちは取ろうと思っています」
これは最初から決めていたことだ。人として好きとかそういうのとは関係なく、それこそ私の気持ちが成就することとか関係なく決めていたんだ。私には責任を取る必要がある、そう思ったから。これから先必ず一人になってしまう人のために。
「そう、か。具体的にどうするかとかは決めていたのか?」
「具体的にですか、すみません、そこまでは決めていませんでした」
「そうか。まあ、どうしたいか聞けただけでもマシとしよう。では、ルナのことをよろしく頼んだぞ。年上として面倒を見てやって欲しい」
なんかジョイア陛下にルナのことを任されてしまった。というか、一つどうしても気になることがあった。
「えっ?待ってください。ルナって私よりも年下なんですか?嘘でしょ!?」
「そうであるが?もしかして知らなかったのか?確かにルナは年齢に反して大人びてはいるが」
ちょっと想定外のところから舞い込んだ予想外の事実に思わず頭を抱えてしまう。なんでかって?私年下に襲われてめちゃくちゃにされたってことでしょ!?年上としての威厳を見せることなんて出来なかったよ…
「そう、ですか。ところでルナはこのことを?」
「ルナが知っているかどうかは私は知らないな。少なくとも私は教えてはいない」
あっ、はい。ならまだ年上としての威厳を見せれるのかもしれない。見せれるよね?ああ、なんかすごく不安になってきた。
「…とりあえず私がルナよりも年上って話は本論からずれるのでおいておきましょう。どちらにしても、私は可能な範囲で、という言葉をどうしても使わせていただきますがその範囲内でルナと共に運命を歩もうと思っています」
「全て、とは言わないのだな。意外とフレア殿は現実主義なのか?」
「そうかもしれませんね。理想を追うのをやめる気は一切ありませんけどね」
私の言葉が気に入ったのかその顔に笑みを浮かべたジョイア陛下は満足そうに見えた。
「では、ルナのことはフレア殿、貴方に任せようと思う。我が娘のことをよろしく頼んだぞ」
「分かりました、ジョイア陛下」
「…お義父様と呼んでくれてもいいのだぞ?」
「あ、今は遠慮しておきます」
その言葉って冗談、冗談だよね?急に茶目っ気を出してきただけだよね?ルナじゃあるまいし。
「あの執着の仕方だと遠くないうちにこうなる気がするのだがな」
「あ、そっかあ」
若干遠い目をしてしまった。…正直言って心のどこかでそうなってほしいと思う私もいる。それと同時に、ヘカテリア王国でそのことを知られたらどうなるか、そちらもどうしても気になってくる。それに関係して王族としてのとある問題がいい加減膨れ上がっていてそちらの処理もしなければいけない。それに、そもそも常識的に考えて、私とルナが結婚することには問題があるんじゃないか、とも思ってしまう。考えるだけでも頭が痛くなっちゃうな、これ。
「とにかく、頑張ってくれ」
「あ、はい」
これ以上は話すことはないと言わんばかりの目に押されてしまって、その場はお開きになった。でも、去り際にこんなことを聞いてしまった。
「ルナって好きなものとかに昔から執着していたんですか?」
「そうだ。ルナは昔から好きなものに関しての執着は物凄いものだった。科学に対してのそれはフレア殿も目にしただろう?」
「ええ、まあ。私も手伝ったりしましたし、魔法に対しても同じようなものでしたね」
「つまり、まあ、そういうことだ」
「いや、どういうことですか」
ついジト目でジョイア陛下を見てしまったが、まあ、ルナの執着気味な性格は前からってことはわかった。そして、互いに視線を交わして、何とも言えない雰囲気を味わいながらも、私は部屋を後にした。
「不安要素が無いわけではないが、フレア殿になら今のルナを任せても問題ないであろう。それに、フレア殿なら、ルナのことを大切に思っていることがあまりにもわかりやすい人であるならば、きっとルナを一人にしようとはしないであろうからな」
そんなジョイア陛下の言葉は扉の向こうへと去って行った私の耳に入ることはなかった。
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