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第十二話 ノーラ邸にて

斑鳩九十九は予約投稿を覚えた


体力ゲージが10減った


やる気が下がった

神崎能景の学校初出勤初日の夜。



ノーラ邸。


そこにはソファで背中の大きな傷を晒しながら仰向けになりながら寝息を立てているノーラと、それに寄り添うようにしてソファに座りながらノーラの頭を撫でている能景がいた。


「…まさかずっと背負っていたとは。君は優しいな、ノーラ。」


能景の普段の気怠げな声からは考えられない様な、とてもとても優しい声である。

今はまだ午後9時。

いつもならノーラは起きている時間帯だ。

しかし、何故寝ているのか。


「…さては戦鬼の墓に行ったな。あの聖域に入るには多くの魔力量を吸い取られるからな。」


魔力をごっそり奪われた結果らしい。

そう。あの丘の周りは聖域と呼ばれる魔法の幕で覆われている。

その中に入れるのは一定の魔力量を持つもの、もしくは質量体だ。

だから、魔法弾でも少量の威力では吸収されるだけであるし、魔力を持たないミサイルなども同じく吸収される。


「しかしお前は何をお願いしたんだろうな。誰も入っていないあの墓で。」



そう言い残し、神崎は自室へと戻る。

そこには日中取りに行った防具が。


「承認。」


「…。測定中、測定中…エラー発生エラー発生。…既定の魔力量を持っていない方はこれを着用することは不可能です。」


「だよな。」


防具には自動認識機能がついており、神速の戦鬼以外が着られない仕組みとなっている。

=それは神速の戦鬼の魔力量がとても膨大であることを示す。


すると能景は電話をかけ始める。


「…、もしもし?」

「……。」

「ああ。うん。…そういうことだ。…じゃあそちらでも動いておいてくれ。」

「……。」

「じゃあな。」

「…。」


かけた相手は不明だが、どうやら察しのいい人物らしい。


その後、能景は机の上に置いてあった三つのタイプの銃器の点検をし始めた。

因みにその中の一つは実弾銃である。


しかし魔法の発展したこの社会において銃刀法は少し緩和されている。


理由としては、高度な魔法を使用できる名家の者達は銃の弾丸の速度を身体強化において視認でき、対応が可能だったから。

そのため、学校で銃器を使用可能か否かはそれぞれの学校の校長に一任されている。


そんな銃器であるが社会人でそれを持てるのは軍人、魔法の名家、もしくは警官だけである。

彼は何故そんな物を持っているのか。


「はぁ。疲れた。………でも海とかに誘われたら行かないようにしないとな。ノーラが嫌な思いをするだろうしな。」


そう言った彼は上半身裸になる。

その背中には大きな傷痕が。


「…俺のこれは幼少期のやつだからな。ノーラの傷とはまた意味が違う。」


そして


「…陸軍の小官だった時にも付けられたけど、あれはもう回復して跡も無いんだよな。」



そう。実の話、彼は元軍の者である。

それは今も続いているのだが…


「非常時だけ出動する義務が発生する魔法幕僚長、ね。陛下には感謝しきれないな。」


神帝陛下のお陰で現在の彼は非常時のみの出動だけが職務となっている。しかも魔法幕僚長。

片山幕僚長は本当は退役する予定だったのだが、陛下と神崎の頼みで常時の幕僚長を勤めているのだった。


そうして彼は銃器の整えを終わらせる。


因みに全部デバイスとなっているため本当ならもっと時間を費やさなければ熟せない作業である。

どれだけ彼がデバイスの分解と組み立てに精通しているのかが伺える。

まあ、魔法デバイスとは名ばかりで、それぞれに電磁加速術式が仕込まれていたりと、武器の強化がその本質である。

黒い実弾銃から始まり赤い奴、白い奴という順で調整が終了した。


そして彼は続けて刀を取り出してくる。

実刃は二本。もう一本は木刀である。


これもほぼ武器の強化の術式が仕込まれている魔法デバイスである。

実刃の日本刀はちょうど白と黒の二色。

どちらも見ただけで良い代物であることが分かる。




そしてそれらの調整を終了した後、彼はシャワーを浴びて風呂に浸かる。

そこでどうやら考え事をしているらしかった。

その目は真剣そのもので、その目の前を飛んでいた蚊がその視線に当たらないように飛び去るほど。


しかし…彼は浴室の鍵を閉めることをすっかり忘れていた。


この屋敷。

見た目が洋風ではあるが中はちゃんと靴を脱ぐ日本風である。

しかもどうやらノーラの母が日本の温泉が大好きらしく浴室も和風となっている。

そのため、中に入っていたとしても外から確認できないため、鍵を閉めて入ることをノーラとの約束としていたのだった。



が、疲弊し寝ていた彼女のことだから、起きるとすれば明日だろうと高を括っていた能景である。


まさかノーラが風呂に入ってくるとは思わなかっただろう。

“ガララッ”という、昔ながらの浴室の扉の開く音が。

だが。そんな音に気がつくほど神崎の集中は弱くはなかった。

なんと言っても前述の通り神崎は虫がその視線に気づいて自ら逃げていくほどの集中をしていたのである。

彼が考えているのはこれからのこと。宿泊行事のこともそうだが、先ほど幕僚長と話していた世界的な話もある。


そうこうしているうちに体を洗い終えたノーラが湯船に浸かる。

…が、どちらも気付かない。

この風呂は銭湯と呼んでもいいほどの広さを誇る。

その上片方はとても集中しているし、もう一方は疲労で周りが見えていない。

そんな状況下で互いを認識できていないのだ。

しかし悪戯にも偶然が発生する。



「「ハァ〜。」」



なんと、ため息を出すタイミングが同じであったのだ。

それも大音量。

…それは神崎の集中を消すのに十分かつ、ノーラが周りを見えるようになるのに十分な出来事だった。



「「ん!?」」



彼らはどこかの漫画にあるように、ロボットのようなぎこちない動きで真正面を向く。

そして互いに目があった瞬間。

神崎の顔色は青へ。ノーラの顔色は逆に真っ赤に染まっていった。

そして



「なんでノーラがいるんだ⁉︎」



「ッッへ、へ、変態ッッ!」




ということになった。





神崎の悲鳴もむなしく、「パンッ」といういい音が響き渡った。










そして現在。


神崎の左頬には赤い手痕がくっきりと残っている。


そしてノーラはノーラでムスッとしてそっぽを向いている。



しかしそれは不機嫌故のものではなく、ただやらかしたという後悔の念で生じたものである。

神崎から聞いた話で、どうやら神崎が先に入っていたのにそれを確認せずに入ってしまったのがノーラ側。

つまり神崎はただの被害者だったということを理解したために自責の念に苛まれているのである。

…そ、れ、よ、り、も。

今は重要なことがあった。



「…貴方の知人が掴んだ情報によれば大陸の動きが怪しいと?」



「ああ。どうなるかは分からないが。」



「…そう。」



彼女は彼が軍人であることを知らないため、その情報は神崎の知人からの物ということにしてあった。

それでも神崎の情報収集能力には驚きを隠せないノーラである。…先程あったことを忘れてしまうほどに。



「…ねぇ、能景。貴方は神帝陛下に依頼されて心のケアを行っている仲ですが…一体何者なのですか?」



実は、そう言った神崎の経歴は知らないノーラである。なんでも神帝陛下から頼まれただけで彼と会うことになったのだ。


それがいつ、彼女が恋心を抱くようになると思えただろうか。

…まだあやふやらしいが、戦鬼の墓にあんな願いというかをしていたのだからほぼ確定と言っても良いだろう。



「…ああ。俺はただの個人だ。それ以上でもそれ以下でもない。」



「陛下から御子息達の指導を頼まれているのに?」



「ああ。ただの知り合いの伝手だよ。それだけの話さ。」



なんとも胡散臭(うさんくさ)い話ではあるが、断言されてしまえば証拠を示したりしない限りはきっと認めないだろう。



「…そう。…あっ、そう言えば聞きましたか?今年「神速の戦鬼伝」が出るのですって。日本の学生

は羨ましいですね。それを無料で配布してもらえるというのですから。」



「ああ。なんでも神帝陛下が情報統制を解除したらしくてな。多分他国への牽制だろうな。」




神速の戦鬼。その名は世界に広まっている。

戦場に出ればたちまち敵方の戦力は全滅するという逸話があるほど。

しかも愛国者として知られ、多くの者が彼の顔を拝みたかったらしい。

しかし近年天皇家が彼について情報を流さなくなったことで、彼の噂等はたちまち日常から消えていったのである。

その上、「戦鬼の墓」なんてものがあるほどだ。この国で戦鬼を知らないものはいないだろう。



その書籍が販売されるということは、彼らのその記憶はまた日常へと復帰することだろう。

つまり「魔法日本軍にいた神速の戦鬼」のことを彼らに思い出させるための事だった。

それは天皇家も神崎と同じ情報を有していることを意味する。



「…でも彼は死んでいるわよね?」



が。それには納得できないノーラであった。

神崎は知らない事だ。ノーラは神速の戦鬼のことを好きだったのは。

けれど彼の墓ができ、その好意は結局伝わらず。

彼が死んだのだと。それで彼女が毎晩のように泣いていたのを知るのは英国にいる彼女の両親くらいである。

そんな中、死んだ人を他国への牽制のために使うなんて。死者を冒涜しているとしかノーラには思えなかった。しかし



「…ノーラ。あの墓に骨が入っていないのは知っているか?」



「…え?」



実は件の墓に神速の戦鬼の骨は入っていない。




「戦場に行ったきり帰ってこないから死んだと思われて墓を作られたんだ。」



「…そ、そうだったの。」




しかし、そう言った彼女の目には涙が溢れていた。

もしかしたら神速の戦鬼の生きている可能性が出てきたのだから。



人間五十年…


あ、因みに作者は学徒です。(唐突)

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