第七話 入学式⑤
一週間と言ったのに…すみませんでした
そうして予鈴が鳴り、特別クラスの担任と生徒の顔合わせが始まった。
気付けば神崎は似合っているのか似合っていないのか、伊達眼鏡をしている。
神崎は先ほどのような、学園長たちと話すような口調とは一変して、丁寧な口調で話をする。
よく思い出してみればプロジェクターにあった写真でも神崎は伊達眼鏡をしていた。
神崎は丁寧な口調で書類や学院の設備の説明を簡潔に終わらせていく。
その書類の一つにはこの学院の特色ともいわれる宿泊行事のことが書かれていた。
実はこの学校は入学式の次の日に宿泊行事が組み込まれているのだった。
入学が決定した際の手続きに宿泊行事の手続きが入っており、一部の生徒にはこれが楽しみでここを受験した、という者もいるほど。
宿泊行事では静岡にある学校の別舎へと赴く。
「それで、皆が楽しみにしているだろう明日からの宿泊行事についてだが、集合場所は……」
等々、行事の手引きなどを配ったり集合場所や集合時間などを話したりして、初日の顔合わせは終わりに近づいていく。
だが、話がほぼ終盤に差し掛かり、問題も起こらず終わると誰もが思った矢先、問題が発生した。
「はい。これで初日の顔合わせと書類と学院の設備、教師陣の紹介を終わります。何か質問のある生徒はいますか?」
「はい。」
質問をしたのは雷瞬斗という生徒であった。
神崎の印象では好青年のようであり、しかしそれは猫をかぶっているだけだと断定していた生徒の一人である。
名家の一家であり、雷と聞けば誰もが彼の父のことを思い浮かべるほど。その彼の質問は少し悪辣なものだった。
「先生の魔力量はそれで最大ですか?あと正直…僕に勝てますか?」
なんとも教師に向ける質問ではない。そのうえ、後半の内容は質問というよりも挑発に近い気がする。
それと立て続けに
「先生、返事してくださいよ。それとも、この神速の戦鬼に勝てる未来が見えませんか?」
そう。彼は自称神速の戦鬼である。
だが、そんな煽るような態度を取られようと、彼は態度を変えなかった。
そして雷がしびれを切らす前に
「勝てるよ。紛い物に負けてやる筋合いはないしな。…あ、ちゃんと説明に関する質問にしてくださいね。」
と。
だが、彼が小さくつぶやくように言った「紛い物に負けてやる筋合いはないしな」という言葉がどうやら雷の耳に届いていたようで
「ま、紛い物だと?この俺が?フッフハハハハハッハ。笑えない冗談言うなよ、先生。今から戦うか?」
「ほう。面白いことを言うな、少年。ここでやるのか?」
一触即発の雰囲気が漂い始めた矢先、肩で息をしている学園長が入室してくる。
どうやら嫌な雰囲気を感じ取って走ってきたらしかった。
「あ、学園長。どうされました?」
「問題児の対応だよ。神崎君も本気じゃないのに受け言葉をしちゃいけないよ。」
彼女の顔は引き攣った笑いであり、どうやら今日は胃薬のお世話になりそうだった。
雷に対して学園長の指導が入った後、数名の生徒が手合わせをしてほしいと神崎のところへときた。
どうやら、先ほどの言い合いで何かを感じ取ったらしく、雷との勝敗がどうであれ手合わせをしてほしいと思ったようだ。
しかし、今日は全員がMDを持っているはずもないし、演習場も解放されてはいないので、明日の宿泊行事で手合わせの時間を取る、ということに落ち着いた。
Δの生徒達が帰る中。ある一人の生徒が神崎の元に来ていた。
それは。
「…照子さん?どうしましたか?」
神帝陛下の娘、照子様であった。
「先生。私の護衛を引き受けて下さったのですか?」
…というのも話は数日前にさかのぼる。
ノーラ宅にある一通の書類が届いたことが始まりだった。
その金属のケースに刻まれた宛名は「神崎能景殿」。
魔法のおかげで金属の産出、生成、加工が容易くなった現在、重要書類等の封筒はほとんど金属が使われる。
しかも。
「へえ。日本の郵便はここまで来たんですか?封緘印も指紋認証とカメラ認証に変わってますし宛名以外の人が開けたらすぐさま中身がボロボロになる術式を使ってますね。」
今ではそれ手紙なの?と言えるレベルであるそれには、十六葉八重表菊の紋が刻まれていた。
無論、高度な魔法で隠蔽されており、一目で誰が送って来たかを知るには少なくとも魔の始祖の家系以上の実力がなければ無理だろう。
「いや。これはまだ試作段階だったはずだ。きっとそれほどに重要な物ってことだろう。…少し篭る。」
「分かりました。…夕飯までには降りて来てくださいね。」
「ああ。頑張ってみるよ」
そう言って彼は二階にある割り当てられた部屋に潜り込む。
勿論、妨害魔法を展開して、その部屋に備え付けられた監視カメラ等の動作を停止させる。
「えーっと。……」
「この度娘の武蔵魔法高校への入学が決まりました。
ですが、貴方が教師を務めていた時にあったように、いつあの子が攫われるかと思うと夜も寝られません。
そんな中、あの子は「ボディーガードなら君がいい」と言いましてね。
便りを送った次第です。
それを受けるか否かは君次第ですから、強制ではない、ということだけ覚えておいてください。」
と、書かれていた。
「別に堅苦しくなくていいのに。」
その愚痴は物音が何もなくとも聞きづらいほどの小さな声だった。
そして
「…色々と恩はあるからな。流石に引き受けないわけにもいかないよな。」
彼はその依頼を受けることを陛下に伝えたのである。
…ということがあったのだ。
「半分はそうだが、もう半分はノーラ・リサンツの家に入り浸る為だな。」
そして、神崎は何も嘘をいうことなく話を進めていく。
「それはどういう…」
「少し前に精神攻撃を受けて。それで精神崩壊の一歩手前まで行ったんだが、そこでノーラの出番だ。君のお父上が便宜を図ってくれてね。それで療養中だったのだが。つい最近追い出されそうになって、それで入り浸る条件を聞き出したってわけさ。」
「そう…なんですね。はぁ。それならよかったです。」
「?まぁいいや。俺はこれから職員会議だから。またな。」
そして会話を終えて彼女は帰路へ。
彼は職員室へと赴くのだった。
次は一週間は開けないようにがんばります




