流れて落ちて
女の悲しい話なんで、悲しい女性は読まない方がいいと思います。
男は身勝手、だけどそんな男が好き・・・。
複雑な女性心を表したお話です。
彼は一週間に一回だけ、平日に私の部屋に訪れては、二人のベットで私を抱く。そして、決まってこう言うのだ。
「愛しているのは、亮子、君だけだよ」
彼は奥さんと子供がいるのに、平気でそんな事を口にする。でも、私はそれでも嬉しい。
「愛してるのは亮子だけ」と言う十二文字の言葉だけでも、私は一週間を乗り切る事が出来るのだ。こんな関係をもう三年も続けている。
馬鹿な女だって?ふん!そんなの自分でも分かってる。でも、好きになったのだから仕方が無いのよ。実際、私は彼の事を大好きだし、今のままでも良いと思ってるの。
彼は会社の上司。年は十五も違うけど、私はすっかり彼に満足してる。同じ年の男とはまるで違う、本物の男って感じが彼にはあるの。好きになったのは私だけど、誘ってきたのは向こう。要するに、お互い惹かれあって結ばれたのだから、純粋な恋愛なのよ。本当は誰にも邪魔されたくない。けど、そうなる前に、彼には奥さんも一人娘もいるのは知ってた。知ってて好きになったの。
私だってモテない訳じゃないのよ。言い寄ってくる男はたくさんいるし、それは私に魅力があるからだけど、私が魅力に感じられないと言うだけの事。そう、あの人以外には。
彼と結ばれてからは、他の私を抱いた人はいない。それほど、私は彼の事が好き。知らない人は、恋人のいない私を不憫に思って心配してくる。特に親は。もちろん内緒よ。
まあ、年を考えたらそう思うのは当然かもね。だって、もうすぐ私も三十の仲間入り。この年になると回りは結婚していくけど、私はどうなるのかしらね。あの人に聞いて。
いいえ、分かってるのよ。彼は奥さんとは別れたりしないって。それに、子供の事を一番に考えている事も。彼が言うのよ。
「俺が一番愛しているのは娘だ。その次に亮子、君だ。そうだなぁ、次に奥さんかな」
彼は私を腕枕しながらそう言ってきた。そういう人。私は思い切りつねってやったけど、それで変わるのは皮膚の色くらいよ。ふん!
今日も彼は私を抱いた。
いつも通り、会社帰りに私の最寄り駅で待ち合わせ、通い慣れた美味しいイタリアンを一緒に食べて、ワインを一杯飲んでから、二人でほろ酔い気分のまま私の家に来る。そして、彼が買ってくれたセミダブルのベットに倒れこむ。服を着けていない時もあれば、来ている時もある。その日の気分。彼はとても元気なの。若い子みたいに激しいし、それでいてとても私の事をよく知っている。ベットの上の情事に勝ち負けがあるなら、毎回負けているのは私の方かも知れない。
そして、勝った彼はぐったり横たわっている私を残して、一人で着替えだす。お金を置いていく時もあれば、頬に軽い口付けだけの時もあるけど、私はそれに対してずっと何も言ってこなかった。そして、ドアの音がワンルームに響き渡たった後、私はベットから起きだしてシャワーを浴びるのだ。
頭から熱いシャワーを浴びると、不意に太ももを伝うあの人の残り火。今日も膝まで流れ出て、そして、浴槽に落ちていく。
すると、私はどうしても我慢出来なくなるのだ。あの人はそれを必ず残していくのに、あの人の心はちっとも残っていない事に、どうしようもない悲しみがおきるの。シャワーを浴びなくて、ずっとそれで一日通した事もあるけど、それは余計悲しくなった。
だから、いつも流して落とす。
彼はそんな私の事を考えてくれているのかな?どう思う?デモね、私は彼の事が好きなの。もし、それが愛って言うなら、そう言ってもいいと思うの、私は。でも、きっと違うのだろうけどね。きっと。
でも、これだけは言える。私は彼を愛してる。だから、今日も、流して、落とす。
終