怠惰な錬金術師
途中で馬を預けティナに案内されるまま、路地に入り込み、とあるお店に入った。外観も内装も古びている。
棚に薬品らしきものが並んでいるが、お店の人が見当たらない。
他に客もいないようだ。
ティナは慣れたように奥の扉に手をかけた。
「オーナ〜!遊びにきたよ!」
元気よく店員しか入れなさそうな部屋に飛び込んでいった。
「う〜ん…」
奥から呻き声が聴こえてきた。
俺も向かった方がいいのか入り口で待っていると、ティナに引きずられて白衣を着た女性が現れた。
綺麗な桃色の髪をしているが、寝起きなのかボサボサだ。
そして俺とも目が合うが、起きようとする気配がない。
「起きてー!!」
ティナは痺れを切らしたのか、その女性を乱暴に揺さぶりだした。
しばらく起きそうにはなかったので、俺は棚の商品を先に見ることにした。
解毒ポーションを買いにきたはずだ。
並んでいる薬品を一つずつ説明を読んでいく。
かなり種類が多く、回復系から攻撃に使用する毒などもあった。
解毒ポーションは…、これか!
解毒ポーションにも複数種類があるようで、対モンスター用はそれぞれ専用のポーションがあるらしい。
『アマノミヤの大蛇』ラベルに書かれている瓶を見つけた。多分これだ。
橙色の液体が入った瓶を眺める。
ティナに伝えようと振り返るが、未だに起き上がらない女性を揺さぶっている。
「こうなったら…!!」
近くの棚の薬品の栓を開け、女性の口に突っ込んだ。
「うぇっ…苦っが!!」
やりすぎじゃないかと思ったが、安全なものを選んではいるんだろう。
意識がしっかりしたのか、女性は咳き込むと立ち上がった。
「う〜ん、この時期はいつも眠くてね。」
「いつもでしょ!」
テンポの良いティナのツッコミは漫才を観ているようだった。
そして、俺の存在をやっと認識できたのか、会釈をされた。
少し無言になったかと思うと、突然目を見開いた。
「あ…貴方はあのマク様の写真集に載っていた大剣豪の…!!」
またしても、あのいかがわしい写真集を見たであろう人の登場に困惑した。
「有名なのか…?あの写真集…」
「もちろんですよ!庶民のみならず、貴族のご令嬢の間でもブロマイドが高値で取引されてるみたいですよ。お会いできて光栄です!あっ、私は錬金術師のミーナ・グランディと申します。」
俺のファンだというその女性は、俺の手を握ると握手にしては過激なくらい手を上下に振った。
ブロマイドがなんなのかよく分からないが、きっと写真なんだろう。どんなものが出回っているのか気になったが知らない方が良いのかもしれない。
話を逸らすべく、先程見つけた大蛇の解毒ポーションについて訊ねた。
「故郷に戻って、大蛇を倒すんですけど解毒ポーションが必要でこれを買えば大丈夫ですかね?」
製作者としての本領発揮なのか、先程の眠たげな様子からは想像できないほど詳しく語りだす。
「ひと瓶で約300回分ですよ!3滴くらいで効果あるので一気飲みはしないでくださいね。あと非常にマズいので水で薄めた方が良いですよ。」
ミーナさんが原液をスプーンで少し掬い、俺の口元に運んだ。
「ゔっ…!?!」
聞いていたとおり、非常に不味かった。
お酢をさらに濃縮したような酸味とドブのような臭いが残る。
これを薄めたとしても飲みたくはないが薬だから仕方がない。
「腕は最高なのに、全部激マズの薬になっちゃうのもったいないよねー。」
ティナは味見を全力で拒否しながら呟いた。
ミーナさんは宮廷錬金術師として第三皇子に風邪薬を処方したが味がマズすぎて、この村に左遷されたそうだ。
塗り薬などもいくつか売ってもらい、次は本屋に行くことにした。




