毒霧の大蛇
夕食を終えて、先程の部屋に戻った。
部屋の暖炉にはいつのまにか火が灯っている。
ティナが少したってから服を持ってきた。
「ここは温泉沸いてるんだよ。いいでしょ。」
ニコニコしながら、タオルと着替えを俺に渡す。
「温泉か…意外だな。」
捕虜が贅沢な食事と温泉に浸かってるだなんて知れたら、怒られそうだな。
渡された服は着物だった。
ティナの着ている服はどうみても着物ではない。
疑問に思っていると、それを察したのかティナは答える。
「着物の方が似合いそうだったから。」
そう言って、少し照れている。
「ありがとな。」
案内されるまま、1階に移動する。
どうやら外のようだ。かなり寒い。
館の裏側に回り、小道を少し行くとかなり広い温泉に着いた。
回りには木で出来た椅子や横になれるスペースまである。
「すごいでしょ」
ティナは着ていたワンピースを脱ぎ始めた。
「?!おいっ…」
広いとは言え、湯船は一つしかない。
戸惑う俺にティナは首を傾げる。
「ナツキお兄ちゃんの国ではみんなで入って背中を流してあげるってあの本に書いてあったよ?」
あの本…?最初にティナが持っていたあのいかがわしい本のことか…?
全部見たわけではないが、参考にしているのがあの本だとしたら不安しかない。
どうすべきか迷っているとティナはすでに湯船の中だった。
寒さに抗えず、少し離れて入ることにした。
俺の国なら斬首刑になりそうな事案だ。
何も考えまいと、背中を向けて目を閉じる。
ん…?これが温泉…?
違和感に気づいたのは5分ほど経ってからだった。
湯の温度は普通だが、身体がものすごく火照る。
「おい、ティナ…?あつすぎないか?」
溺れてるんじゃないかと思い振り返る。
ティナも俺の方を見たが、驚いたように近寄ってくる。
「おい、せめて隠せ…!」
タオルを差し出した手が傾き、視界がグラつく。
入って数分で酔うはずがない。
しかも身体が薄く光を放っている。
ティナに支えられて回りの石でできた台に横になる。
「大丈夫…?」
心配そうに覗きこんでくる。ティナはなんてもないようだ。
「なんなんだ、この光は…?」
不自然に発光している自身の身体を見て呟く。
「魔力のこもった温泉で、浸かると疲れが取れて傷もすぐに治るはずなんだけど…」
ティナは俺の手を握り、目を瞑る。
「あ…!ナツキお兄ちゃんの魔力がすごいことになってる。」
慌てるティナの話を聞くと、魔力回路がない俺の身体がスポンジのように魔力を吸収し続けていたらしい。
難しい話は分からないが、漏れ出ている光が魔力で、魔法が使えない俺はしばらく光ったままになるそうだ。いまなら素手で岩が砕けそうなくらいに力が漲ってくる。
俺の無事が分かると、ティナはホッとしたように笑い出す。
「光るお兄ちゃん、写真に撮りたかったな。」
タオル一枚の半裸だったことを思い出し、あの本に追加されたら困ると慌てて周囲を確認したがなにも気配はなかった。
「写真化のマクさんならいまは勇者召喚に備えて王国にいるはずだから大丈夫だよ。」
考えていることがすぐに見通され、読心術でも出来るのかと聞いたが、俺の素振りが分かりやすいとのことだった。
館に戻り、いまだに発光する手を見つめる。
この魔力が使えていれば、大蛇を倒すのにここまでの犠牲は出なかったはずだと。
いつの間にか敷いてある布団にティナは早速潜り込んでいる。
「お兄ちゃんのお話聞きたいな。ヤマタノオロチ倒したんでしょ?」
あの本のような武勇伝を聞きたいのだろう。
実際には一太刀で討伐したわけでも、一人で戦ったわけでもない。
「あんまり期待はすんなよ…?」
魔女の力やティナの武器を見てからは、俺の無力さが悔しいくらいだ。
そう前置きをして、俺は当時のことを語った。
すでに大蛇が犇いている洞窟の一番近くにあった村が一夜のうちに壊滅したと聞き、先に周囲の武家の者たちが討伐に向かったが全滅。
そして俺を含む複数の国直属の有名な一族たちに討伐命令が下されたのだった。
着いた頃には毒の霧で近づけず、罠を張って持久戦となっていた。
討伐出来たのは、偶然の台風による毒霧の消失と、首が8つに分かれた敵の大将が先頭で交戦してきたからだ。
落とし穴に嵌め、何度も再生する8つの頭を同時に攻撃した。
その頃には味方の被害も甚大で、逃げ出した者も多く、最後まで指揮をとっていた俺の手柄となった。
そこまで話したところでティナの様子を伺う。
「刀で斬ったんでしょ?」
「それもあるが、最後は矢だったな。」
ティナは、例の本に書いていなかったと興奮してメモをとっている。
そうして話していると、魔力で火照る身体のせいか眠りに落ちていた。




