百戦錬磨の将軍
部下、雀部の前方に六股の大蛇が出現し劣勢だから全員で討伐すべきだという案に乗り、前方へ駆けつけたが小さい蛇しかいない。
後から来るはずの雀部と蓮条家の長男も、他のボス討伐隊も来ない。
道を間違えたのか、そんな疑問も瞬時に怒りへと変わった。
突如銃声が轟き、間一髪で躱した風が頬にかする。
銃は大蛇の鱗に弾かれるから持たせてはいない。
つまり、蛇ではなく、人を射つためのものだ。
「誰だッ!」
国の存続を背負った戦いに裏切り者が出るとは思わなかったが、こちらも仲間がいる以上、敵も良い作戦とは言えないだろう。
「おやおや、さすが大将軍様ですねぇ。これを躱すとは。」
狐の面を被った人が戯けた調子で再び銃を構える。
茂みからも20人程度似た狐の面を被った人たちが銃を構えている。
「何が目的だッ!」
仲間の一人が声を荒げると、それに狐面のリーダーらしき人が答える。
「そりゃあ、金に決まってるじゃないですか。貴方を殺せば俺達は一生働かなくても生きていけるんですよ?大蛇倒すよりも簡単ですからねッ!」
再び銃声が轟く。
「巫山戯たことを…!!」
連射される銃弾に次々と犠牲者がでる。
数だけみれば50対20で有利だが、対人目的の銃の差は大きい。
短期で蹴りをつけるべきだ。
「総員突撃!!」すぐさま号令をだし、砂煙が舞う。
信じたくはないが、雀部が企てたことだとしたらこれで終わりではないだろう。あいつのずる賢さは間近でずっと見てきた。
周りを警戒し、徐々に敵を追い詰める。
すると、敵側の遠方で発煙筒の煙が上がった。
色は赤色だ。
それを見た狐面の敵は一目散に退却を始めた。
「将軍!追いかけますか?」
部下の一人が訊ねてくる。
「いや…わしらも引き返そう。」
斃れた仲間の仇を討ちたいのは山々だが、目的を忘れてはならない。
来た方向に戻ろうと背中を向けた瞬間に爆音が轟いた。
吹き荒れる爆風の中、飛ばされないように木の陰に隠れる。
幸いにもこの爆発は自分たちを狙ったものではない。
だが、爆発した方向を見ると全員顔が引きつった。
「マジかよ…!」
部下たちは慌てふためいた。
遠くから濁流が押し寄せてきている。
それも、この地の水は毒で汚染されているはずだ。
地形図は見てきた。
この先にあったはずの菊須川を堰き止めて、今回の爆発で一気に崩壊させたのだろう。
「こっちだ…!!わしに続け!!」
わしの記憶が正しければ、高台はこっちだ。
撃たれた仲間を弔うことを諦め、指揮をとる。
全員すぐさま号令に従った。
はやく雀部を問いただしたかったが、避難が優先だ。
やむを得ず、別方向へ駆け上がった。