機知に富む殿下
案内人が殿下のいる部屋の襖を開ける。
広い畳の部屋で、20人ほどが集まっていた。
静かなところで話し合いをすると思っていたが、食事に酒まで用意されている。
殿下は俺の姿を確認すると安堵したように微笑んだ。
「無事でなによりだ。こちらに来たまえ。」
部屋の一番奥の、殿下のすぐ側に通された。
挨拶を交わし、隣に座る。ティナも同じように続いた。
「まさか、雪の魔女を味方につけてくるとはな…!」
殿下は全員に聞こえるように大きな声で話し、俺の方を元気よく叩く。
「大蛇どもから天之宮を取り戻す希望だ!!絶対に勝つぞッ!!!!」
全員が立ち上がり盃を掲げ、拍手喝采の中乾杯をした。
宴会だ。楽しめるように気を遣ってくれたのだろう。大勢がこちらに集まってくる。
近くに父もいた。あとでゆっくり話しをしよう。
これまでの経緯を偽りなく話した。
ティナの付与魔法がかけられた刀があれば勝算が高いことや戦闘時に欲しい支援についてだ。
3日後に戦うのはどうかと提案された。
作戦を練るにはちょうど良いだろう。
ティナは大丈夫だろうかと思い、見渡すとすでに顔が赤くなっている。しかも俺の父と仲良くなっている。奇妙な組み合わせだと思ったが、心配はいらなそうだ。
真面目な話が大方終わったのを見計らったかのように
色んな人が酒瓶を手にもっと呑めと言わんばかりに俺の盃に注いでくる。ティナよりも自分の心配をした方が良さそうだ。
「よっ!天下の剣豪様はこんくらいじゃ潰れたりしないよなァ?」
そんなことはない。すでに視界が回っている。
だが歳上のお偉さんを断るのは至難の技だ。
限界まで呑むしかないだろう。
そこから、何の話をしたか記憶にない。
食事の焼き魚が美味しかったのは覚えている。
目が覚めるとみんな酔い潰れていた。
なぜか結構呑まされていたはずのティナが涼し気な顔をして俺に膝枕をしている。
「ナツキお兄ちゃんの酔った顔可愛い…」
頬を指でつついてくるので起き上がろうとしたが、まだ視界が揺れる。
「回復魔法かけようか…?」
ようやく納得がいった。
ティナは酔いも魔法で覚ませるから平気だったのだ。
「ずるいな、それ…」
頭痛もしたのでティナに回復を頼んだ。
あっという間に酔いが覚める。
醜態を晒してないか記憶を辿ったが、思い出せない。
「なぁ、俺なにか変なことしてなかったよな…?」
隣で品行方正で有名な殿下も爆睡しているから問題はないだろう。
ティナはいたずらを思いついた子どものような顔をして答えた。
「大蛇を討伐したら、好きな人に告白するって言ってたよ!」
好きな人…?相手が思い浮かばないのと、ティナの表情ですぐに嘘だと分かった。
とりあえず、みんなを起こすか…。
部屋の外で殿下の側近が護衛しているはずだと思い、向かった。